Boorin's All Works On Sacra-BBS

「豪快一郎が喰う」



「痛てててて、まったく武蔵の野郎裏切りやがって。
あんな化け物のどこがいいんだっ!」

武蔵が斧彦とできてしまったため、体内から放り出された金剛は悪態をついている。
あんなに高いところから放り出されても死なないのは流石五行衆筆頭を自称するだ
けのことはある。が、その不死の秘密は単に金剛が治療不可能な馬鹿だからである
に過ぎない。
根拠は、「馬鹿は死ななきゃ治らない。」>「絶対治らない馬鹿」は「死なない」という怪しげな論法である。

とにかく金剛は腹が立っていた。

「やいっ!大神一郎!てめえはおかまの後ろにこそこそ隠れてるような奴だったのかっ!
出てきて男らしく堂々と勝負しろっ!」


「何いっ!?男らしくだとっ?望むところだっ!行くぞっ!」


豪快一郎が霊子甲冑もなしに地面におり立つ。

「てめえ、大神ぃ!なめとんのか、こらぁ!霊子甲冑もなしに俺様とタイマン張れると思ってんのか、てめぇ!」


「甘いなっ、金剛っ!貴様は霊子甲冑の本来の意味を知らん!」


「霊子甲冑ってえのは、相手の霊力攻撃から身を守るもんだろうがっ!」


「甘いっ、大甘だわ、金剛っ!そんな奴は自分の甥っ子でも、ハウンド・ドッグのボーカルでもアキラの作者でも殺してるがいいっ!
いいかっ、霊子甲冑というのは本来内から湧き出す豪気を抑えるためのものだっ!」


「ぁあ?そうなのか、鬼王?」
「・・・いえ、京極様。奴は間違ってます、根本的に、決定的に、圧倒的に。」


「豪快に守りはないっ!甲冑をつけるのは相手に対する思いやりだっ!」


「てめえ、その言葉後悔するなよ。うらぁ、『美人、棒売ってんのさっ!』」<鬼神轟天殺

金剛の怒りの気がその場にいる者全ての動きを鈍くしていた。

だが。


「点棒千円!」<天狼転化


豪快一郎は金剛の気などものともせず、金剛の攻撃をはじき返すと、
金剛に一撃を加えた。

きら〜ん!

すかさず、黄童子がジューC(*)を差し出す。

どごおぉぉっ!

豪快一郎のぱんちが黄童子ごと金剛をぶっ飛ばす。

「て、てめぇ黄童子、こんな時にボケてる場合かっ。それは『かばう』じゃなくて
『カバヤ』のジューCだろうがっ!てめえ、関西人だなっ!」

ぺこぺこと頭を下げる黄童子。
今度は蜜柑のようなものを差し出している。

「馬鹿野郎っ!それは『かぼす』だっ、てめえはもういいっ!すっこんでろっ!」


「はっはっはっ、蛙の子は買えるだなっ、金剛!やはり馬鹿の子分は馬鹿だっ!」


「うるせえっ、漢字間違えるようなお前だけには言われたくないわっ!」


「小さいっ、小さいぞっ、金剛っ!そんな細かいことだからお前はダメなんだっ
!男なら豪快にいかんといかんっ!
第一貴様は男の勝負そのものを間違えているっ!」


「あんだと、こらぁ!俺様のどこが間違ってるってんだっ!」


「こんだけ言ってもまだ分からんのかっ、このたわけがっ!男の勝負といえば大食
い競争だろうがっ!」


「なるほどっ、そうだったのかっ!よしやってやろうじゃねえかっ!」


「ふっ、ようやく分かったようだなっ!ではルールを説明するぞっ!
まず、喰うもんは天丼、カツ丼、あんぎらすのケーキセット、自由軒の名物カレー、
難波蓬莱の豚まん、たこ焼き、
『皮の湯引き、てっさ、てっちり、雑炊のついたてっちりコース』、ラーメンだ。
こいつらを豪快に喰った方が勝ち!もちろん食い残した時点で負けだっ!
負けた奴が勘定を全部払うんだぞっ!」


「おもしれえっ!受けたっ!」


「「勝負っ」」


豪快一郎と金剛は最寄りの天丼専門店、その名も天丼の店に飛び込んだ。


「おっちゃんっ!特上天丼と掻き揚げ丼くれっ!」


「俺も同じのだっ!」

豪快一郎の前に特上天丼が置かれる。

豪快一郎はまずおもむろに箸を割る。
金剛はすでにがつがつと食い始めていた。

キュピィーン!

眼が光ると同時に豪快一郎は豪快な勢いでエビにかぶりついたっ。


「エビは頭から喰うべし!喰うべし!喰うべし!」


がふっ、がふっ、がふっ!


「エビは尻尾まで全部喰うべし!喰うべし!喰うべし!」


ぐはっ、ぐはっ、がはっ!

一旦海苔で舌を変え、つゆの沁みた飯を喰う、ひたすら喰う!

二匹目のエビを食った後にししとうを喰う!

また、飯を食う。

金剛はただひたすら掻き込んでいる。


「最後のエビ!特上天丼は海老が3つ!ご飯は丼の底を1/3程覆っている!
これをエビでかき寄せるように一気に喰うべし!喰うべし!喰うべし!


がふっ!

「あいよっ、掻き揚げ丼お待ち」

豪快一郎は意味もなく豪快に箸をくるりと一回転させる。
よくバンドのドラマーがスティックでやるあれである。
もしくは予備校生が現役生に見せつけるようにやる鉛筆回しの要領であるっ。


「掻き揚げ丼は、まず一口がぶっと喰う!後に飯を食うべし!」


がふっ、がつがつっ!


「あとはぐちゃぐちゃにひたすら喰うべし!喰うべし!喰うべし!」


ぐおおおおおっ!

豪快一郎と金剛は同時に飯を食い終わった。

「へへっ、どうだ大神、同時だぜ。」

「はっはっはっ、甘いな金剛!貴様の喰い方はなっていない!ただ食い散らかせば豪快っていうもんじゃないわっ!お前の喰い方には美学がないっ!」

「何だと、この野郎!審判まで自分でやるつもりかっ!」

「そんな細かいことはどうだっていいっ!次行くぞ!カツ丼だっ!」


豪快一郎は豪快な勢いでカツ丼屋に駆け込む。


「おっちゃん!カツ丼とソースカツ丼!」


「お、俺も同じだ!」


「カツ丼はカツの切れ目に沿って喰うべし!喰うべし!喰うべし!」


がふっ、がふっ、がふっ!

アッという間にカツ丼2杯を平らげた豪快一郎は豪快にあんぎらすに向かう。

金剛が少し遅れる。

「いらっしゃいませ、何にいたしましょう。」


「ケーキセットだ!」


「それではケーキをこちらからお選び下さい。」


「そんなちんたらしたことしてられませんわっ!全部くれっ!ケーキ一通り全部と飲み物一通り全部だっ!」


「お、俺も。」

「はい、少々お待ち下さい。」

全く動じないウェイトレス、流石は怪獣喫茶あんぎらすである。
普段怪獣ばかりを相手にしているのでこの程度の注文は日常茶飯事。

豪快一郎は、ケーキ、紅茶、コーヒー等を優雅でかつ豪快な仕草で片づける。


「よし、おやつはカレーだっ!」


「お、おう」


「旨いっ!この辛さと卵の感じが絶妙だっ!自由軒のカレーは、ぐちゃぐちゃに卵をまぶして喰うべし!喰うべし!喰うべし!」


がふっ!がふっ!がふっ!

「が、ぐはっ!」

ついに金剛がむせ始める。


「ん?どうした、金剛?」


「い、いや何でもねえ、ちょっとカレーが目に沁みただけだ。」


「む、成長したな金剛!辛くないカレーはカレーではないっ!よしっ、次は蓬莱の豚マンだっ!」



「豚マン6つ入りの頂戴っ!」



「蓬莱の豚マンのある日、
春ぅ〜っ
ない日、
ぶりざぁどぉ〜っ
ある日
春ぅ〜っ
ない日、
ぶりざぁどぉ〜っ



そんなことを言いながら喰う!ひたすら喰う!

その時、ついに金剛に限界が訪れたっ!

「ぐ、も、もう駄目だ。」


「あ〜ん?何を言っている!メインはこれからだぞっ!冬に鍋を食わんなどと貴様それでも日本男児かっ!フグを喰わんで何がアーツだっ!貴様にK5(コッキー5)戦士を名乗る資格はないっ!」


「く、くそう俺は全力で喰った、全力で喰ったのにヨォ!なんでお前はそんなに喰えるんだっ!だが、いい気になるなよっ!京極様はもっと喰うぞっ!」

「喰うか、バカ。」
ぼそっとつっこむ京極。

「うおおおおおおぉっ!」

金剛は大量のゲロを吐き、その推進力で夜空に姿を消した。
後にはきらきらと宝石のように輝くゲロの航跡が残るのみ。


「ふ、美しい。金剛よ。去り際だけは認めてやろう。
それが豪快と言うことだっ!再見!
よし、なんか腹が減ってきたぞ。みんな、今日は金剛のおごりだっ!
てっちりコースとラーメン行くぞっ!」


そう言うと豪快一郎は夜の街に消えていった。
それはある平和な冬の日の出来事であった。


(了)

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