夜の見回り。 いつもの日課。 大神一郎は劇場内をくまなく点検していく。 当然、風呂場も綿密に。 脱衣場には道着とはちまきが脱ぎ捨ててあった。 「こ、これはカンナの。」 大神の鼻の下が3cm伸びる。 「カンナはスタイル良いからなぁ。」 大神は静かに浴室の扉を引き開けた。 ぼがんっ! ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃちゃらっ 「ちぇいんじっ!すいっちおん!わん!つー!すりー!」 大神一郎は金ダライを頭に喰らうと豪快一郎にちぇいんじする。 「はっはっはっ!カンナ!相変わらずスタイル良いなっ!俺は嬉しいぞっ!」 「た、隊長、何度言ったら分かるんだよ。 見たいんならいつでも見せてやるって言ってるだろっ! 覗きなんてしてるんじゃねえよっ!」 「はっはっはっ、すまんすまん。だが覗きは男の浪漫だっ! 何者からも解放されてふとくつろぐ一時! そんな女の美しい表情をあくまで豪快に覗くべしっ!覗くべしっ!覗くべしっ!」 「(豪快に覗くってのは一体全体どういう意味だ?)」 豪快一郎になってしまってはもう何を言っても無駄なことは分かっていたが、 それでもカンナは心の中でツッコミを入れて思わずため息をついてしまう。 「ちぇっ、分かったよ隊長。そのかわり罰としてちょいとつきあって貰うぜ。」 「ん?どこへ?」 「沖縄だよ。誕生日だし、親父の墓参りにかえるのさ。」 「よし、分かった!じゃ行くぞ!」 「ちょ、ちょっと待ったぁ!今からじゃもう遅いだろう。明日にしようぜっ!」 「かあーっ!何を言っているカンナっ(かな)! 男ならやると決めたらすぐやる!今やる!ヤンバルクイナっ!」 「あたいは一応女なんだけどな。」 「かあーっ!そんな細かいことはどうだっていいっ!よし沖縄まで競争だっ!」 「…ちえっ、分かったよ。」 二人は夜の街に駆け出した。 そしてその20分後、帝国海軍の哨戒艇は太平洋を二筋の水柱が南の方へ走り去るのを感知したが、 そのあまりのスピードにそれ以上追跡することはできなかった。 沖縄に着いた二人は早速タクマの墓に詣でる。 「ここが親父の墓さ。女が股を開いた形に作ってあるんだ。 沖縄では人の魂はこの世に生まれてきたのと同じ道を通ってあの世に行くって考え方なのさ。」 「なるほどっ、じゃあカンナの親父さんやお袋さんにも一緒に祝って貰うとするかっ!」 「え?」 「はっはっはっ、俺は昔エクアドルで金を掘っていたときに助産夫もやっていたんだっ! この墓が女の股ならばもう一度出産することも出来るはずだっ!いくぞっ!」 「お、おいおいマジかよ。」 豪快一郎は墓の前で奇妙なダンスを踊りながら呪文を唱える。 「♪出てこい、出てこ〜い、カンナの親父。 レッドスネーク、カモーン!」 ぼわんっ! 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん。タクマでごじゃりますぞぉ〜っ!」 「同じくカンナママだよ〜んっ!」 墓の前にはターバンをまいた大柄な男女が立っていた。 「お、おやじっ!それにあんたあたいのお袋なのか?」 「そうでごじゃる。お前の母さんでごじゃるよ。」 「そうだよん。お父ちゃんと組み手の最中にすべってフールー(沖縄名物チーズ豆腐:これが絶品!)の角で頭を打って死んじゃったお前の母ちゃんだよ。」 「おやじっ!おふくろっ!」 「「カンナっ!」」 ひしと抱き合う3人。 「ところであの男は誰でごじゃるのかな?」 「あ、ああ。あれは大神一郎さんと言ってあたいが今お世話になってる人さ。」 きらんっ! 「なぬ?それでは儂がカンナに相応しい男かどうか確かめでやるでごじゃる!」 「や、やめとけ、おやじ。相手が悪い。普段ならともかく今の隊長は無敵時間中だぜっ」 「はっはっはっはっ、いいじゃないか、カンナ。それでおやっさんが納豆こするんなら。」 「…う、やるな若者っ。儂が納豆をこするのが大好きだと何故分かったでごじゃる?」 「はっはっはっ、おやっさん。それは簡単、立花藤兵衛ですわっ!」 「な、なんかよう分からんが行くぞっ!」 タクマが構える。 「お待ちなさい、あんたじゃ無理だわ。わたしが行くわ。」 「ア、アケビ。」 「あんたが構えてるのにあのお人は何の構えもみせていない。 その時点であんたの負けだわさ。大体あん時だってわたしが、あんたの食い散らかしたゴーヤーに足を取られなかったらわたしの楽勝だったんだわさ。」 「そ、それを言っちゃあお終いでごじゃる〜」 「とにかくわたしが行くからね。」 アケビはそう言って、後ろ足に重心を移した後傾の構えを取る。 ぎりぎりと筋肉がうねり、その右腕が左腕が本来あるべき場所にくるまで身体を 腰からねじっている。背中のヒッティングマッスルが盛り上がる。 アケビの身体からは異様な気が放出されていた。まさに渾身の一撃を放つ放つ体勢である。 「す、すげえ。あたいのおふくろってのはこんなに強かったのか。」 だが豪快一郎はそれでも構えない。 「へえ、まだ構えないっていうの。大した自信だわさ。」 「はっはっはっ、それが豪快と言うことですわっ!構えとは守り、そして豪快に守りはないっ! あるのはただ相手に対する思いやりだけっ!」 豪快一郎はそう言いながら歩を前に進める。 悠然と豪快にアケビの前に出る。 「その言葉後悔しないことだわさっ!」 アケビの筋肉が更に盛り上がる。 そして今まさに渾身の一撃が放たれた。 「チェストォーッ!」 「♪おふくろさんよぉ〜っ!」 カンナママの拳が豪快一郎の心臓の上に突き刺さり、豪快一郎の顔が奇妙に歪んでいる。 奇妙な半眼に眉を上げ、鼻の下が伸び口は笑っているかのような逆三角形に。 そして右手は何かを握るかのように口元に。 これは、そう、森進一のモノマネ! そしてアケビは崩れ落ちた。 「わはははははっ!わたしの負けだわさ。あれを受けきられた上に笑わされたらもう戦えないわ。 カンナ、いい男さん見つけたねえ。これで母ちゃんも安心だわ。」 「はっはっはっ、さあ飯にしましょう。今日はカンナのお誕生会ですわっ!」 「そうでごじゃるなぁ、飯にしよう。泡盛もあるでごじゃるよ〜。」 「じゃ、あたいがゴーヤーチャンプルー作るよ。」 「これが豪快と言うことだ。これがお誕豪快ということだっ!はっはっはっはっ!」 「「「わははははは(^O^)」」」 高く晴れ上がった青い空に豪快に楽しそうな笑い声が響く。 それはある秋の日のことであった。 #以上のSS中における人物設定、特にカンナママ、アケビさんについては名前も死因も含めて全くの妄想です。そんな方はおられないとは思いますが、公式設定だとは思わないで下さい |