煌めく航跡と共に金剛は夜空に消え、後には鬼王と京極 With 新皇のみが残された。 「はっはっはっ、後はお前たち二人だけだ!行くぞっ!」 「ぬう、来るなら来い!私にはまだ鬼王 with 闇神威と新皇がいる!」 「はっはっはっ、構わん!みんなまとめて面倒見てやる!それが豪快と言うことだっ!かかって来なさい!」 「む、この京極慶吾に出向けだと?私を呼びつけるとは貴様いつからそんなに偉くなった!?」 「はっはっはっ、小さい!小さいぞ!京極っ!そんなことだからお前は駄目なんだ!男なら四の五の言わずに今いくよくるよだっ!」 「ええい、馬鹿と話していると頭がおかしくなるわっ!行け!鬼王!」 「…はい」 その時、上空からきらきらと輝く何かが豪快一郎の頭を直撃した。 ぼがんっ それは上空に待機するミカサからつぼみがドジって落とした金ダライであった。 豪快一郎は金ダライを頭に喰らうと大神一郎に戻ってしまうのだ! 「ほう、体から噴き出していた『豪気』が消えた。どうやら、いつもの大神に戻ったようだな。チャンスだ鬼王!やるんだ鬼王!行け、鬼王!」 「……はい」 鬼王が闇神威の上に立つ。 ピンチ!大神一郎絶体絶命のピンチ! 「いけない!隊長が元に戻ってしまったわ」 「今の隊長の戦闘力では闇神威の相手は無理だ」 「よし、隊長の光武を射出する間はあたいが時間を稼ぐ」 「お待ちなさい、あなた独りでは無理ですわ。わたくしも行きます」 「へっ、足ひっぱんなよな」 「それはこちらのセリフですわ」 「うちも援護するで」 「総攻撃でーす!」 「アイリスもがんばるよ」 「大神さんは私たちが守ってみせる。例え相手がお父様だろうと」 花組の面々が大神をかばうように囲んだちょうどその時、再び上空から何かが落下してくる。 「はっはっはっ!心配するな、一郎!これを使え!」 ずず〜ん 地響きと共に着地したのは帝劇の浴室を背負った豪快やな雄一であった。 「はっはっはっ!さくらさん、早速風呂に入るんだ!」 「何でわざわざお風呂に?」 「一郎をちぇんじさせるためだ!」 「でもこんなところで……」 「何を今更いまそがり!一郎のために一肌脱ぐんだ!お風呂だけに一肌脱ぐ、なあんつって!」 「…でも」 「だあぁぁぁぁっ!『沈黙は金』!男だったら黙ってさっさと脱ぐ!」 「男じゃないんですけど」 「そんな細かいことはどうだっていい!さっさと入らないと湯冷めするぞ!『風呂は熱い内に入れ』だ!」 「なんか違うような気がするんですけど。…でもなんであたしなんですか?」 「うん?それは今回の温泉の素が『ツ○ラ日本の名湯シリーズ・紀州高野龍神・さくら色の湯』だからだっ!」 「なるほど!わかりました!あたし脱ぎます!」 … … … … … かこーん、じゃばぁ。 さくらが更衣室に消えてから少しして風呂桶の鳴る音とかけ湯の音がした。 スタンバイオーケーである! 「よし、行くんだ一郎!」 「ああ、体が勝手に………」 大神一郎は煩悩人間である! 世界征服をたくらむ県人機関によってその体は浴室を見ると覗くように改造されているのだ! そしていつものように音もなく浴室の扉を開く。 ぼがんっ! ちゃらっちゃらっちゃらっちゃちゃらっ!ちゃらっ!ちぇいんじ!すいっちおん!わん!つー!すりー! 大神一郎は頭上に金ダライを受けると豪快一郎にチェンジする。 「はっはっはっ、さくらくん!桜色に染まる肌が綺麗だぞ!さすが高野龍神美人の湯だ!」 「あ、ありがとうございます、大神さん」 ぴき 「はっはっはっ雄一、いいもの見せて貰ったぞ!」 「水臭いことを言うな一郎!『友在り、前方後円墳より来る』だ!」 「やるな雄一!ダッハちゃん<大仙陵(仁徳天皇陵)公園で行われたテーマパークのマスコットキャラだな?」 「はっはっはっ、甘いな一郎!それは宇宙戦艦『天の鳥舟(あめのとりふね)』だ!」 「むっ!なるほど!成長したな雄一!」 「隊長!何をやってるんですか?早く戻って下さい!」 「はっはっはっ、マリア、あわてないあわてない。一休み、一休み。 なんならみんなまとめて風呂はいるか?」 ぴきっ! ぴしっ! ビキビキビシッ! カラーン! 鬼の仮面が割れて地に落ちる。 「…私は、真宮寺…一馬」 そこには血の涙を流す真宮寺一馬の姿があった。 「む、鬼王、真宮寺の心を取り戻しおったか。となると貴様ももう用済みのようだな」 「いや…」 「お父様!?」 「さくら、綺麗になったな」 優しげに愛娘を見遣った一馬は一転して鋭い眼差しで豪快一郎を見る。 「大神っ!お前を斬るっ!」 「あ?どう言うことだ真宮寺?」 「娘の肌を見た奴はゆるさん!しかも娘の目の前で他の女といちゃつくなどもってのほか! …破邪剣征・言語道断!」 炎と燃える桜吹雪が吹き荒れ一直線に豪快一郎を直撃する。 「ふんっ!」 だが豪快一郎はそれを鼻息一発で吹き飛ばした。 「なにぃ?!霊力攻撃を息で吹き飛ばすだと?!なんという非常識!」 「はっはっはっ、小さいっ!小さいですわ、鬼王父さん! そんな細かいことでうじうじ悩んでるから京極なんぞに操られるんですわ! 男なら一人なんてちまちましたことは言うなっ! 花組のみんなはまとめて俺が幸せにする! すなわちみんな俺の妻! となるとみんな鬼王父さんの娘ですわ!」 「なに!そうかっ!そうだったのかっ! みんな私の娘…なんという甘美な響き! おお、娘がこんなに増えて父さんは嬉しいぞ! おいで!娘たち!」 花組のみんなが口々に一馬の名を呼びながらその胸に飛び込む。 絵に描いたような家族の幸せがそこにあった。 「はっはっはっ!美しいっ!豪快だ!成長したな鬼王父さん!これが豪快と言うことだ!これが豪家族愛ということだ!」 「はっ!そうだ、急いで母さんにも報告しなければ! 一度に娘が増えると隠し子かと疑われてしまう! …若菜っ、いま行くぞ!」 一馬はそう叫ぶと闇神威に乗り込み稚内めがけて駆け去った。 「…お父様、行き先を間違えています(TOT)」 そんなさくらの呟きも春風にも似た爽やかな風が吹き流してしまう。 それは真冬に咲いた桜草のような出来事だった。 (了)
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