豪快一郎との激闘に黒鬼会の面々はことごとく敗れ去り、切り札の武蔵をも失った京極は寒風吹きすさぶ原野に新皇と共に独り在った。 「はっはっはっ、京極。残りはお前だけだ。いよいよ最後にケチャップを付けるときが来たようだなっ!」 「貴様私にケチャップを付けてどうする?!それを言うなら決着だろうが!」 「小さい!小さいぞ京極っ!そんな細かいことはどうだっていいっ!そんなことだからお前はせいぜい陸軍大臣止まりなんだっ!」 「貴様!たかが海軍少尉の分際で態度がでか過ぎるぞっ!」 「はっはっはっ!気にしない、気にしないっ!階級なんてどうだっていいっ!大事なのは豪快であることだっ!」 「貴様!軍の本質に関わることをあっさりと無視したなっ!………良かろう、馬鹿を相手にしていても始まらん。その豪快の力とやらを我に示してみよ。………げろげろげろっ!」 京極はそう言い放つと新皇に飲み込まれて一体化した。 「はっはっはっ、京極もいなくなったことだし、帰るとするか」 「ちょっと待て!我はまだここにあるぞ!」 「そうですわね、帰ってお茶にしましょうか。とっておきのダージリンが手に入りましたの」 「そうしようよ!パパがまたクッキー送ってくれたんだぁ」 「我を無視するな」 「クッキー。…うざったいので普段は無効にしている」 「レニぃ、それはクッキー違いでーす」 「はっ!クッキーとクッキーをかけたのね!覚えておかなくては」 「おいおいマリア、そんなのメモるなよ」 「マリアはんも変な道にはまってしもたなぁ。年とってから遊び覚えたらハマる言いますもんなぁ」 「…誰が年ですって?(怒)」 「ま、まあまあ。…じゃ、行きましょうか」 「無視するなよぉ!【TOT】」 「はっはっはっ、でんでん虫だけに『全然無視』。なあんつって!」 「やるな雄一!それならこうだっ!」 豪快一郎はそう言うといきなり駆け出して赤信号を突っ切った。 「新皇無視だけに『信号無視』!」 どが〜ん! 豪快一郎を避けようとした蒸気自動車が新皇に激突し、轟音と共に新皇は爆発した。中に乗っていた天笠少佐が無事だったのは奇跡と言って良い。 「あ、天笠、貴様何をするっ!この間抜けがっ!新皇が首だけになってしまったではないかっ!首だけに貴様馘首(クビ)だっ!」 「はっはっはっ!成長したな京極!それだけ言えれば入門編はクリアだっ! ………よし!みんなとどめをさすぞっ!」 「「「「「「「「了解!」」」」」」」」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「部長、黒鬼商会の京極部長がお見えです」 「はっはっはっ!ご苦労!…ささ、京極部長こちらへ」 「あ゛?」 「はっはっはっ!京極部長は将棋がお好きと伺っておりましたのでこういうものを用意させていただきましたわっ!」 そう言って豪快一郎は軍人将棋を取り出した。 「いったい何のことだ?………ほう?軍人将棋とな」 「はっはっはっ!どうです一局?」 「うむ、面白そうですな」 豪快部長と京極部長は軍人将棋を指しはじめた。 ぱちんっ! 「むぅ!一手指す度に奴の駒が光っている」 「はっはっはっ!駒が語りかけて来るんですわっ!こう指してくれってなっ!」 「私の駒は………私には駒の声が聞こえない」 ぱちんっ!ぱちんっ! 豪快一郎の豪快な手が京極を追いつめて行く。 「はっはっはっ!楽しいっ!楽しいですなぁっ!京極部長も将棋を楽しむといいですわっ!そしたら駒の声が聞こえてくるようになりますっ!」 「楽しむ?将棋を?…ふ、私に欠けていたのはそれなのかも知れないな。………何故か分からぬが私も駒の声が聞きたくなってきた」 ぱちんっ!ぱちんっ! 「京極様」 「京極様」 「京極様、…」 「京極様、私をお使い下さい」 「京極様、俺はいつでも行きますぜ!」 「京極様!」 「聞こえる!駒の声が聞こえるぞ!」 勇躍京極が猛反撃に転ずる。 ぱちんっ!きらんっ! 「はっはっはっ!駒が光ってますわっ!どうやら駒が語りかけてきたようですなっ!」 「楽しいっ!楽しいぞっ!将棋がこんなに楽しいものだったとは!」 ぱちんっ!きらんっ! ぱちんっ!きらりんっ! 一手毎に駒が光り白熱した攻防が展開された。 最早どちらがどちらということもなく両者は無心でただ手を指し続ける。 一手を指す刹那がすなわち永遠であった。 この瞬間、彼らは永遠を生きたと言って良い。 ぱちんっ!きらりんっ! 一際強く光り輝く一手が指されたとき、永遠の瞬間はそこに固着し日常の時間が立ち戻る。 「………投了だ」 「はっはっはっ!いい勝負でした。楽しかったですなっ!」 「ああ、楽しかった。こんなに楽しく将棋を指したのは初めてだ。 …よろしい。うちでお宅の商品を扱わせてもらいましょう」 「はっはっはっ!商談成立ですなっ!めでたい!なぁみんなっ!」 「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「接っ!」 「待っ!」 「将っ!」 「棋っ!」 「成っ!」 「功っ!」 「完っ!」 「璧っ!」 「だあーっ!」 豪快一郎と花組全員の霊力が一つになり巨大な光球が出現した。 「もっと、もっと早くこの楽しみに気づいていれば………」 「はっはっはっ!そんな細かいことをうじうじ気にするな京極っ!間違ったらもう一度やり直せばいいっ!」 「ふ、負けたわ。………さらばだ帝国華撃団、さらばだ大神一郎!またいつの日か相まみえようぞ!」 京極はそう言うと山盛りのサラダを次々と食い始める。 喰い終わると次のサラダを取りに行ってまた喰う。 ひたすら喰う。 そして豪快一郎 with 花組の最終奥義が生み出す光の奔流が新皇を包み込み、やがてその光の中に新皇の機体は溶けていった。 「はっはっはっ!『さらばだ』だけに『サラダバー』か。成長したな京極!その意気や良し!それが豪快と言うことだ。豪快とは決して後悔しないこと!さらばだ京極っ!また会おう!」 去りゆく京極に別れを告げた豪快一郎は高らかに声を張り上げ宣言する。 「………これにて一件落着!はっはっはっはっはっ!」 冬の空にこだまする豪快な笑い声とそれに和す華やかな声。 その笑い声に誘われて顔を出した雪割草は一足早い春の訪れを感じて幽かに身震いするのだった。 (完)
ご感想は |