Boorin's All Works On Sacra-BBS

「J1グランプリ」



プロローグ

「ねえねえ大神さん!知ってる?今度劇場の近くに出来た洋食屋、とっても美味しいんですって!」
「え?馬猪軒のことかい?確かにあそこは旨かったなぁ」
「なぁんだぁ。知ってたのか。しかももう食べてるし」
「いやぁ加山が連れていってくれたんだよ。旨いからって」
「…加山さん?じゃこれは知ってる?隣の客はよく柿食う客だって」
「知ってる」
「まさかそれも加山さん?」
「そうだけど」
「………」

『♪ピンポンパンポーン、大神さん至急支配人室までおいで下さい』

「あ、ごめん由里くん、俺行かないと」
「え、あ、じゃあまたね」

 一人取り残された由里は拳をきつく握っている。その全身からは紅蓮の炎が立ち上っていた。

「ぬうぅ許せないわ加山雄一!大神さんに情報を教えるのは私の仕事なのに。こうなったらやるしかない!」




「大神、話がある」
「何だ、お前らしくもなくいやに改まって」
「実は俺は帝国華撃団月組の隊長なんだ」
「知ってるよ」
「そうか。………って何で知ってる?!」
「由里くんに聞いた」
「由里くんに聞いたって、そんなあっさりと。これがどういう事態か分かっているのか?」
「加山、由里くんの情報網を甘く見ない方がいい。下手するとある方面における彼女の情報収集能力はお前をも上回るかも知れんぞ」
「………」

『♪ピンポンパンポ〜ン、大神さん至急支配人室までお越し下さい』

「やれやれまた酒の買い出しか、じゃ加山俺は行くぞ」
「え、あ、ああ。アディオス大神」

「ぬぅぅ『灯台もと暗し』とはこのことか。大神に情報を教えるのはこの俺なのに。これは何とかせんといかんな」

 そうつぶやく加山の背中は燃えていた。




「Ladies_and_Gentlemen!
 いよいよやって参りました世紀の情報対決 J1 Grand Prix Final Match。
 情報を制する者は世界を制す。情報戦における真の王者は誰か。
 それが今夜決定するのです。ようこそ劇場へ。今宵あなたは歴史の証人になる!
 実況はお馴染みマリア・タチバナ、解説兼審査委員長は審査委員長一筋25年、彼のオーミトシローの愛弟子であるこの方モーガミイチローさんです!」
「んもっ!モーーガミです。よろしくだモー」
「そしてゲスト審査員にはこの方々。K5 with K とマネージャーの皆さんです」
「おうっ!K5 筆頭、コンゴーだっ!」
「ひゃはっ!同じくツチグモ!」
「おうっ!何が同じくだ!筆頭は俺だけだぜ!」
「馬鹿は放っておいて次、K5 No.1 ダンディー、カシャピン」
「全 て は 計 算 の 内、K5 最 年 長 モック で す じゃ」
「K5 お色気No.1 スイコよ」
「プロデューサーのKKことケイゴだ。だあっ、うるさいっ京極ではないっ!…あっ、こらっ!顔は映すなっ!」<金城武風(謎)
「えーと、次の仕事は。…うひゃぁ、ダブルブッキングだぁ!やばいよ。ドタキャンしかないじゃねーか!
 一体誰だ、この仕事受けたのは!…何コンゴー?あの馬鹿!後でお仕置きだっ!「アキレスの踵」にかけてやるっ!
 ………はっ、失礼しました。K5の鬼マネージャー、オニオーです」
「はいっ、ありがとうございました。ゲストの紹介も終わりましたところで、さあモーガミさん、いよいよですね。この決勝戦の行方はどうなると予想されますか?」
「んもっ!難しい質問だモー!常識的に考えると加山選手かもしれないけど、由里選手も捨てがたい。うも〜っ、迷うモー」
「はいっ、以上モーガミ審査委員長でした。相変わらず優柔不断のようですね
 …さあ、そんなこんなでいよいよ両選手の入場です」

♪つっきがぁ出った出ぇたぁ、つっきがぁあ出たぁ、あ、よいよい!

「おっとテーマソングにのって白虎コーナー加山選手の入場です。相変わらずの白いタキシードに炭坑節が異様に似合っています。帝撃のミスターダンディ、加山雄一選手入場です。セコンドは帝撃副指令藤枝かえでさん、月組隊員の三日月さんのようです」

♪かっぜっ立ちぃぬぅ〜、いまはぁ秋ぃ、帰りたい、帰れないっ、あっなったっのぉもぉとへぇ〜

「おっとこちら朱雀コーナーからは榊原由里選手の入場です。テーマソングはカラオケにのって自ら歌いながらの登場です。さすがは帝撃一のモガ、最新の流行を取り入れてきました。セコンドは勿論、風組の影番藤井かすみさんと売店のドン高村椿さんです。あ、椿さんが観客に煎餅を配っている。おっと実況席、審査員席にまで。さすがは商売上手、やることに卒がありません」

「おっとリング上ではレフェリーがルールの説明を始めました」

「時間無制限一本勝負、3ノックダウン制、ローブロー(へそより下への攻撃)禁止」

「さすがは口数の少なさと冷静さでは帝撃一のレニレフェリー、説明も簡潔で要領を得ていますね」
「んもっ!」
「ではここで今日のお題を審査委員長のモーガミさんから発表していただきます」
「んもっ!私の記憶が確かなら、古人曰く『人の振り見て我が振り直せ』。ダンスの基本は物まねから。他人の振り付けを見て自分の振り付けを直すと良いと言うことわざだモー!ということで今日のお題は『相手』だモー」
「ではReady…Go!」

 ♪カーン

「両者勢いよく自コーナーから飛び出した!リングの中央で軽く拳を合わせるとフットワークを使いながら回り始めました。…両選手慎重ですね」
「んもっ!お互いに相手の出方を見ているだモー!でもこれだけじゃ終わらないだモー!」
「おおっと、そうこう言う内に両者ジャブを放っています」

「加山雄一、本名150代目加山熊男。古より続く古代熊野王国の末裔。秘密組織『森の熊さん』の長」
「古人曰く!榊原由里、本名同じは徳川四天王榊原康政の落胤を祖とする」

「おおっ、加山選手ややひるんだかっ!しかし恐るべき新事実。モーガミさんはご存じでしたか?」
「んもっ!初耳だモー!」
「ゲスト審査員の方々はどうですか?」
「う〜ん、あの赤い奴、胸元がたまらんぜよっ!がはははははっ!…ぐはっ!」
「おっとコンゴーさん、ツチグモさんとスイコさんにダブルライダーキックを喰らってKOです」

「加山雄一、本名150代目加山熊男。紀州出身の割には実は梅干しが苦手。今でもそのことで母親によく叱られる」
「古人曰く!榊原由里、本名同じは子供の頃はお転婆でデベソの由里ちゃんと呼ばれていた」

「おお、今度は由里選手がより多くダメージを受けています。おおっと、ここで由里コーナーから物言いがつきました。『今のは反則じゃないのか?』ということのようです」

「レフェリーより説明。ただ今の加山選手の攻撃の反則性について由里選手側から抗議があった。だけど『ローブロー』は『へそより下』だから『へそ』に対する攻撃は『ローブロー』に当たらず、従って反則じゃない」

「セコンド陣は不満そうですが、レフェリーの裁定は絶対。ここで試合再開のようです。
 しかし子供の頃とはいえまさかあのモガの由里さんがデベソだったとは驚きましたね。どうです?審査員のスイコさん」
「………スイコ、でべそじゃないもんっ!」
「おっとこれはスイコさんにも禁句だったようです。って私は実は個人的に見たことありました。
 …と見る間にリング上では緊迫した空気が漂っています。どうやら両者大技を出す機会を窺っているようですね」

「加山雄一、本名150代目加山熊男!あなたがジャンポールから米田中将まで帝撃全員のお風呂を覗いていることは分かっているのよ。しかも時折女性の下着をくすねては売りさばいているようね。しかも藤枝副指令のは売れ行きが悪いとぼやいたという情報も入っているわ」

「何ですってえええぇっ!どうして私のが売れ行き悪いのよっ!(大激怒)」

「いやぁ、そのう、どうも私のお客にはアダルトな魅力が分かるやつが少なくて、…はっ、しまった!古人曰く『語るに落ちた』」
「墓穴を掘ったわねっ!あなたの負けよっ」
「な、南野これしきっ!古人曰く!榊原由里、本名同じはかすみさんが出張の時、残業を大神に押しつけて銀プラを楽しんだ!」

「由ぅ里ぃ〜?本当なの?」

「ひいっ!で、でもあれはちゃんと大神さんと賭をして勝ったのよ」
「んもっ!後でよく見るとあれは2銭銅貨を2枚両方とも表になるように貼り合わせてたモー!あの時は残業大変だったモー!」

「何であたしのが売れ行き悪いのよー!」
「由里、ちょっと来なさいっ!」
「そういえばワタシのもよく失くなるねぇ」
「あ、ツチグモも?あたしのも失くなる」
「そういえば私愛用のシルクのトランクスもよく失くなりますね」
「ワ シ の ぶ り ぃ ふ も」
「いや〜ん、雄一ちゃんったら言ってくれたらいくらでも上げるのに」
「娘の下着を返せっ!貴様『アキレスの踵』だっ!」
「ケイゴさんっ!あんたも俺の客だろう!何とかしてくれえっ!」
「知らん!私は知らんぞっ!」
「由里、あなた仕事をなんだと思ってるの?」
「そういえば、まさか由里さんあたしの時も?」
「ひいぃん」

「おっと両者のセコンドに花組、薔薇組、ゲスト審査員の面々までがリング上に入り乱れて大乱闘です。
これは泥仕合、泥仕合だっ!」

 ♪カンカンカンカーン

「んもっ!みんな静粛に、静粛にだモー!審査委員長のモーーガミです。この試合の裁定を下すんだモー!」
「さあ、リング上の乱闘も止み、皆固唾を飲んでこの世紀の決戦の裁定を待ちます」
「んもっ!泥仕合だけに両者ドローだモー!」

「な、なんと最低な裁定が出ました。駄洒落、駄洒落です!怒り狂った群衆がモーガミ審査委員長に殺到しています。あ、ボコボコだ!ボコボコにされています!牛の着ぐるみはもうボロボロだぁっ!」

 ♪カンカンカンカーン
 ♪カンカンカンカーン
 ♪カンカンカンカーン
 ♪カンカンカンカーン




エピローグ

 月が出ていた。
 注意深い者なら大帝国劇場の屋根に一つの白い影が見えただろう。
 帝撃月組隊長加山雄一である。

「ふう、やれやれ今日は大変な一日だったな」

 加山にとって下界の喧噪を離れて屋根の上で過ごす一刻は唯一の安らぎであった。
 だがその時、加山の耳は何かの擦れるような音を捉える。

「???」
「よいしょっと」

 屋根をよじ登ってきたのはなんと由里だった。

「ここ、いい?」
「え?あ、ああ」

 由里は加山の隣に腰を下ろす。

「へへ、かすみさんについ先刻までお説教されてたのよ。で、帰ろうとしたらあなたの姿が見えたから寄ったってわけ」
「そりゃ大変だったなぁ」
「何暢気なこと言ってんのよ。一体誰の所為でそうなったと思ってるの?」
「それを言うならお互い様だろう?」

「………ふふ」
「………はは」

「「あははははは」」

「隠してたことから恥ずかしいことまで暴露されちゃって、なんかかえってすっきりした感じ」
「ああ、確かに。俺も自分の抱え込んでいた秘密がばれて、…本当はとんでもないことなんだけど…でも不思議と気分が軽くなったよ」
「ふふ、案外私たちって似てるのかもね」
「そうかもな」
「………ねえ、私たちって結構うまくやっていけるって思わない?」
「え?」
「あなた結構お洒落だし、情報通だし。変なことさえしなきゃ割と二枚目よ」

 そう言いながら、わづかに朱の射す由里の顔が奇妙にまぶしい。
 息がかかる程の近くに妙齢の女性がいる。
 自らの任務の性格上、ここまで近くに他人の接近を許したことはなかった。
 だがそれは不思議といやな気持ちではなかった。
 しかしそれなら尚のこと。

「それは駄目だ。君も風組の一員なら俺の任務は知っているだろう?綺麗事だけじゃ済まない危険で汚い仕事なんだよ。当然命を狙われることも多い。そんなことに君を巻き込むわけにはいかない」
「あははっ、今更何言ってんのよ。月にかかる雲を払うのは風の仕事よ。この由里ちゃんに任せなさいっ!」

 そう言って由里は加山の額に手を当てる。
 少しひんやりとした感覚が心地よい。
 ああ、こんなのもいいもんだなぁ。
 せめて今だけは…。
 すっと目を瞑った加山の頬を優しい風がそっと撫でた。

(了)


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