熱い。熱い。熱い。 いやだ。いやだ。いやだ。 私の体が燃えている。 薄暗い地下の部屋に鈍い光を放つ機器とガラスの水槽が立ち並んでいる。 その機器の森の中を老体とは裏腹に忙しく立ち回る男がいた。 黒鬼会幹部、木喰である。 「京極が来るまでには目処をつけておかんとな」 時の陸軍大臣、京極慶吾に依頼された研究の結果を今日報告することになっている。 ここまでは順調。 後は仕上げを待つのみ。そしてその仕上げには京極を待たねばならなかった。 「科学と魔術の合体か」 そのとき空気が動いた。 部屋の中央に描かれた魔法陣に人影が現れる。 京極であった。 「首尾の方はどうだ」 「す・べ・て・順・調、計・算・通り・じゃ。あ・と・は・京・極・様・の・仕・上・げ・を・待・つ・の・み」 「うむ。では早速見せてもらおうか」 木喰は部屋の奥に並べられた水槽の前に立つ。 「こ・れ・ら・が・京・極・様・の・細・胞・か・ら・作・り・上・げ・た・人・造・人・間・じゃ。あ・と・は・こ・れ・に・京・極・様・の・秘・法・に・よ・り・魂・を・注・入・す・る・の・み」 ガラスの水槽の中には京極によく似た生ける人形たちが漂っている。 「良かろう。では早速始めるとするか」 京極は木喰が水槽から取り出して並べた人造人間の一体一体に黒の呪法により偽りの魂を入れてゆく。 そして最後の一体。 「ふむ、少し試してみるか」 京極はそれまでとは少し違う呪文を唱えるとそのものを立ち上がらせた。 「良いか。汝は我が肉体より生まれ出た私の子である。 それゆえ汝には我が理想実現のための戦士たらねばならない。 よく戦士たるにはその理想を知らねばなるまい。 我が理想を語ろう。 我が理想は人と魔との共存。 そも人間とは人の間と書く。 「間」はすなわち「魔」に通ず。 人と人の間には常に魔があるのだ。 この世に一人しか人がいないのなら魔は生じぬ。 逆にこの世に一人以上の人間が存在するところには必ず魔がある。 すなわち、魔と人間とは不可分のものなのだ。 人は本来魔と正面から向き合い、戦い、あるいは共存ことによってのみ真剣に生きることができるのだ。 しかるに人間どもはその本質を忘れ魔を闇に封じ込め偽りの平和をただ怠惰に享受しておる。 人は魔から世界を掠取しておるのだ。 それは不正である。 そして不正は正されねばならない。 ではその不正を正すものは誰か。 私である。 この世には人と魔があり、それらは人でもあり、魔でもある高位の魔人によって統治されねばならない。それによって世界は正しい姿を取り戻す。 そしてその魔人こそ私である。 この私によって統治される世界こそが理想の世界なのだ。 だが偽りの平和に身を委ねるものどもの目を覚ますためにはなまなかな手段ではいかぬ。怠惰は鈍感を生む。そして鈍感なものを起こすためには荒療治が必要なのだ。 であるから不正をただすためにはこの今の世界を根底から破壊する必要がある。 その後にはじめて理想の世界を建設することができるのだ。 そのためには手段を選ぶ必要はない。 目的が手段を正当化する。 これは聖戦、革命なのだ。 そして汝はその聖戦の戦士たれ。 汝は革命の炎である。 汝の炎で世界を焼き尽くせ。 汝に名を与えよう、革命の炎、火車という名を」 それがゆっくりと目を開ける。 「私は火車、革命の炎。」 燃やせ。燃やし尽くせ。 人間どもはことごとくゴミ。 ゴミは燃やさねば世界を浄化できぬ。 私は火車。 聖戦士。 私の行為はすべて正当である。 私こそが完全なる戦士なのだから。 「ふむ。徐々にずれてきておるな。精神も体細胞の一部も崩れ始めておる。 やはり細胞の更新がうまくいかぬのか。それとも京極を選んだのがそも間違いだったか。あのようなゆがんだ精神の下では肉体も最高の機能を発揮することはできぬであろうしな」 おのれ、帝国華撃団。 この世に巣くうゴミの分際で私に逆らう愚か者ども。 燃やしてやる。 いかなる手段を用いてもゴミは燃やすべし。 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 燃やしてやる! 「汐時じゃな」 ああ、燃えている。 私の体が。 私は誰だ。 何をしている。 何のために生まれた。 私は…一体…。 ……… いや。 私は戦士。 私の炎が世界を浄化…スル。 ……… ワタシハ…カク…メイ…ノ…ホノオ。 ……… ワ…タ……シ………ハ。 (了)
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