豪奢な館の窓から射し込む麗らかな日射しがテーブルの上に踊っていた。 そこには5人の男女の姿がある。 館の主、花小路伯爵。 海軍大将、山口和豊提督。 神崎財閥の長、神崎忠義。 そして対降魔部隊の生き残り、米田一基と藤枝あやめ。 降魔戦争最大の戦いが真宮寺一馬の破邪の力により終結を迎えた後のことである。 「米田君、少しは元気が出たかね」 「へっ、あれから一馬が逝っちまって、山崎の野郎は雲隠れしやがった。対降魔部隊も今では俺とあやめくんだけだ。寂しくないわけがねえだろう?」 「それはそうだが…」 「へ、分かってるよ花さん。残された俺達にゃやらねきゃならねえことがある。 そんなこたぁ分かってるんだよ」 「………」 そう言いながら寂しそうに笑う米田の姿を見ては花小路も何も言えない。 かつて多くの部下や戦友を失い、今また戦友であり、親友であった男を2人も失ったのだ。 米田は自分の不甲斐なさを責めているに違いない。 「隊長、いえ米田中将。あなたがそんな風では真宮寺大佐も浮かばれません。それに真…山崎少佐だって」 「………そうだった、あやめくん。すまなかった。ある意味お前さんの方が辛いのにな。 そんなお前さんから説教を喰らうとは俺もやきが回ったもんだ。 …よし!早速検討にはいろうか」 「…はい!」 「以上、うちの技術屋の言うにはこの設計図通りのものを動かす為には巨大な霊力が必要だと言うことだ」 「なるほど、俺達程度じゃ役不足って事か」 「そこで我が賢人機関の出番というわけだよ。賢人機関のネットワークで優れた霊力保持者を探し出すことが出来るだろう。試しに打診してみたところ、優れた霊力保持者は少女に多いということだ」 「少女?まさか少女を戦場に駆り出そうってんじゃないだろうな」 「仕方あるまい。二剣二刀の使い手の内二人までが失われた今、我々の希望は霊子甲冑だけなのだよ」 「………しかし」 「大丈夫です、米田中将。女の子ってある意味男の人よりも強いものですよ」 「あ?」 「少女達の戦闘部隊の指揮官に若い男性を起用するんです。恋する女の力は侮れませんよ」 「しかし、それじゃあ、あんまり………」 「事実私がそうでしたもの。あの人と共に戦っていたとき、私は明らかに実力以上の力を出していました。霊力はメンタルな要素が強く影響する力です。きっと上手く行きますわ」 「…なるほど。しかし、そうなると野郎の選択が難しいじゃねえか」 「それは儂に任せて貰おう。ぐす」 「山口提督…」 「ぐす、うちの若いのに一人生きのいいのが居るらしい。名前は知らんがいい男らしいぞ。しかも頼りになるのかぼけてるのかよく分からん男らしい。大物じゃよ、はっはっはっ」 「素晴らしいわ。じゃあ部隊の名前を決めなくてはいけませんね」 「ぶあぁぁぁぁっくしょん!」 「あやめくん、提督風邪ひきだっ鼻紙っ!」 「帝国華撃団花組ですか。なるほど、素晴らしい名前ですね。 襲い来る魔を払い、帝都に人々の喜びの花を咲かせる。 まるで花神のような………ぴったりじゃないですか。流石は米田中将」 「へ?へへっまあな」 (なるほど花神ね。枯れ木に花を咲かせましょうってわけか。 ありがとよ、あやめくん。俺ももう一花咲かせようって気になってきたぜ) 「…帝国華撃団花組」 「帝国華撃団花組…」 「帝国華撃団花組」 男達がめいめい口の中でその名を呟く。 すると不思議に気分が明るくなって来た。 「「「いい名だ」」」 一座の間を厳粛ではあるが明るい空気が流れる。 ただ一人、手に着いた鼻水のやり場に困って手をひらひらと振っている山口を除いては。 こうして帝国華撃団花組はあやめの聞き間違いから名付けられた。 後の世にその花を満開に咲かせることになる対妖魔秘密部隊帝国華撃団花組。 その黎明期のことであった。 (了)
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