Boorin's All Works On Sacra-BBS

「川の向こうに」



「じゃあ今度の七夕特別公演の主役は織姫にやってもらうことにします」
「まっかせなさーい!久々に私の実力を見せて上げまーす」

 大神がフランスへ旅立って一年あまりが過ぎていた。
 花組の面々もこのところやや気が抜けたような状態になっている。それに喝を入れるために米田の提案で夏公演に先立って七夕の夜に一夜限りの特別公演を催すことになったのだ。
 その打ち合わせ会議の席上で織姫は強硬に自分の主演を主張した。
 大神が去ってからの織姫の状態は酷いものだったのである。半年ほどは何とかやっていたものの、一年が過ぎる頃にはやはり愛する者がそばにいない寂しさにイライラが募り誰彼なく当たり散らしたり、屋根裏部屋で泣いたりといった状態だったのだ。
 織姫自身、そんな自分がいやだった。なんとか立ち直りたいと思っていた矢先の特別公演である。織姫は演技者としての自分に誇りを持っていた。だから仕事を完璧にこなすことによって立ち直ろうと考えた。そのためのモチベーションとしてはやはりヒロインの座は譲れない。そう考えての発言だったのだ。
 密かに織姫の状態を心配していた他のメンバーも賛成した。誰しも大なり小なり同じ気分を抱えていただけに織姫の気持ちもよく分かるからである。
 こうして七夕公演は動き始めた。




 一週間後、脚本家の上げた台本を元にキャストを決めたかえでが発表を行った。

┌────────────────────────┐
│【配役】                    │
│                        │
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│                        │
│ 織り姫:     ソレッタ・織姫       │
│ かささぎレッド: 桐島カンナ         │
│ かささぎイエロー:イリス・シャトーブリアン  │
│ かささぎグリーン:李紅蘭           │
│                        │
│  ****************************************  │
│                        │
│ 天の川:      レニ・ミルヒシュトラーセ │
│ 天の川ブラック:  マリア・タチバナ     │
│ 天の川バイオレット:神崎すみれ        │
│ 天の川ピンク:   真宮寺さくら       │
│                        │
└────────────────────────┘

「(^_^;………これって一体どんな話になるんですか?」
「どう考えてもラブロマンスにはなりそうもないな、どっちかっていうとお笑いだぜ」
「カンナはまだいいじゃないの。私なんていかにも悪役っぽい名前よ」
「う〜ん、でもなんか面白そうだよ」
「確かにがきんちょには受けそうな配役ですわね」
「アイリス、子供じゃないもん」

 がーがーがー(喧々囂々)

「…この私がお笑いなんてゆーるせないでーす!怒り神刀滅却でーす」
「(そこらへんがどっちかいうとお笑い向いてるんちゃうの?)」
「なんか言いましたかー?」
「い、いや何でも」

「とにかくこれは決定です。織姫、あなたの力ならお笑いだって立派にこなせる筈よ。
 若いときにはとにかくなんでも経験しとかないと」
「かえでさんは若いときから苦労しすぎてしわ増えたですか?」

むにゅぅ〜


「何ですって〜。そんなことを言う悪い口はこの口なのぉ?」
「ひゃ、ひゃめるひぇ〜す」
「か、かえでさん、そんな怖い顔すると眉間にまたシワ、シワっ!」
「あ、あらいけない。私ったら。………えへん。とにかくそういうわけだからみんながんばってね。
 レニはもうやる気よ」

 一同がレニを振り返る。

「天の川か、こんな役はやったことがない。早速図書室で天の川について調査しなくては。
 どんな困難な役でもボクは完璧にこなしてみせる。心拍数、体温共に上昇。アドレナリン分泌」

 レニはブツブツと呟きながら図書室の方へ歩み去る。

「レ、レニが燃えてるで〜す。それにしてもレニってここへ来てからずいぶん変わりましたね〜」
「(あなたもね)」

 あきれたようにレニを見送る織姫をかえでは優しく見守るのであった。




 そして舞台の幕が上がる。

織り姫:「今日は七夕。どれほどこの日を待ったことか」

織り姫はかささぎを連れて天の川の畔に立った。

織り姫:「さあ、かささぎさん達、今年も橋を架けておくれ」
かささぎレッド:「合点でさあ!おいっ、みんなかかるぜ!」
かささぎイエロー、グリーン:「「あいよ〜っ!」」

作業にかかるかささぎ達。

天の川:「ちょっと待ったぁ!」

それまでおとなしく横たわっていた天の川が突然立ち上がる
不審げに織り姫達は天の川を見やる


天の川:「ここを渡りたければ私を倒してからゆくことだ」
織り姫:「そんな!一年に今日だけは牽牛様に会わせてくれる約束じゃないですか〜」
天の川:「誰も無償とは言っていない」
織り姫:「何が望みですか〜?」
天の川:「だから言っている。私と勝負するんだ。それに勝ったらあわせてあげるよ」
織り姫:「自分の力で勝ち取るということですね。望むところでーす。その勝負受けましょー」
天の川:「ふ、さすがに『五光の織り姫』と呼ばれるだけあって決断が早いね。
     じゃ、ルールは簡単、先鋒、次鋒、中堅、大将の勝ち抜き戦だ。
     引き分けは両者とも入れ替えで先に全滅した方の負けだ。
     分かったかい?」
織り姫:「オッケーでーす!」

かささぎレッド Vs 天の川ブラック


レッド:「一番手はあたいだ!」
ピンク:「ここは私が…」
バイオレット:「お待ちなさいピンク。あなたでは無理だわ。わけがあるのよ」
天の川:「さすがだねバイオレット。分かっていたか」
ピンク:「どういうことですか?」
バイオレット:「あなたもかささぎレッドも炎。
        レッドが照りつける太陽の炎ならあなたのは焼き餅焼きの情念の炎。
        炎と炎ではあちらに一日の長があるのですわ」
天の川:「そう、倒せるとしたら水のブラックしかいない。ほら始まった」

レッド:「あんたは太陽の中にある黒い点を見たことがあるかい?」
ブラック:「…ある」
レッド:「ふふふ、そうか。どうやらあんたはあたいと戦う運命にあったようだ」
ブラック:「どういうこと?」
レッド:「太陽の黒点は太陽の黒色肉腫。つまり癌のようなもの。つまり死を告げる点なのさ」
ブラック:「が〜ん」
レッド:「ぐっ、やるな。普通はここで動揺する筈なのにそう返すとは思わなかったぜ」

バイオレット:「さすがですわ。うまく相手の口撃を受け流しましたわね」
ピンク:「確かにあたしだったらあんな風には言えないわ!」

いよいよ、かささぎレッドと天の川ブラックの激突が始まった。
レッドの豪快な炎の拳をブラックは水のように緩やかな動きで流し続ける。
レッドの炎がブラックを焼き尽くすのか、ブラックの水がレッドを呑み込むのか。
実力伯仲、戦いの行方は予断を許さなかった。


レッド:「このまんまじゃ埒があかねぇ!一気に勝負をかけるぜ!『かささぎバーニングアターック』!」
ブラック:「勝負!『天の川テンサウザンドマイルリバー』!」

かささぎレッドはフェニックスと化して天の川ブラックに突撃する。
ブラックはその身より万里の河を噴き出させて迎え撃つ。


どがぁあああん!


レッドの発する一億度の炎が大量の水を一気に蒸発させたことによる水蒸気爆発が二人を吹き飛ばした。


レッド:「ぐ、やるな」
ブラック:「あ、あなたもね」

そう言って二人は気を失った。
ダブルKOにつき引き分け。


かささぎイエロー Vs 天の川バイオレット


バイオレット:「いよいよわたくしの出番ですわね。華麗な舞いで葬って差し上げますわ」
イエロー:「ダンスなら負けないも〜ん」

♪ちゃぁらっらっ、ちゃちゃちゃぁらぁらっ

軽快な音楽と共にかささぎイエローの体から大勢の赤ん坊が出現し、天の川バイオレットの周りで腰をくねらせて踊り始めた


イエロー:「カジュアルミニでちゅ、きゃっ、きゃっ、きゃみっ!」
バイオレット:「くっ、やりますわね。でも負けませんわ!」

♪きのう、きょう、あ〜す〜変わり行くわぁたぁしにぃ〜

谷○新司の歌声と共にバイオレットの長刀から○村新司というよりは黒鉄ひ○しによく似た男が飛び出し目をぎょろつかせながらロボットダンスのような踊りを踊り出す。


バイオレット:「行けっ!ダンシング谷○!」
イエロー:「あ〜ん、こわい〜」
バイオレット:「この勝負もらいましたわ」

泣き出すイエローを見たバイオレットに一瞬の隙が生まれた。
だがしかしバイオレットは泣いた子供ほど怖い者は世の中にないことを忘れるべきではなかったのだ。


イエロー:「ピンチだパーンチョ!」

「パンチョです」
イエローの体からパン○ョ伊東が飛び出しバイオレットめがけて飛んで行く。
あまりのインパクトにバイオレットが一瞬固まった。


イエロー:「チャンスだキーッス!」

ちゅっ(はあと)

飛んできたパンチョがバイオレットの頬に口づけた!
○▲#%$!
声も出せぬままバイオレットは失神。
よってこの勝負かささぎイエローの勝ち。


かささぎイエロー Vs 天の川ピンク


ピンク:「こうなったら私がやるしかないんだわ!」
天の川:「ピンク肩の力を抜いて。張りつめてるだけじゃ勝てないよ」
ピンク:「分かりました。ありがとうございます。がんばります」

その時、かささぎイエローの身に異変が起こった。
眠そうにあくびをし、目をこすり始めたのである。
先ほどの戦いで消耗したためであろう。
ピンクがこのチャンスを見逃すはずもなかった。


ピンク:「さあお昼寝の時間ですよ。もう寝室へ行きなさい」
イエロー:「はああい」

あまりの眠さに意識朦朧としていたイエローはその言葉になんの疑問もなく退場したのだ。
天の川のアドバイス通り肩の力を抜いたピンクの作戦勝ち。


かささぎグリーン Vs 天の川ピンク


グリーン:「ここまで一勝一敗一分けか。織り姫はん、絶対に勝ってあげるからな」
織り姫:「頼みまーす」
ピンク「そうはいかないっ、私は負けないわ」

試合開始直後、かささぎグリーンが虚を突いていきなり大技を放つ。

グリーン:「天井でっかい穴!」

轟音を立てて天の天井に大きな穴が開き雨が落ちてくる。

ピンク:「なんの、破邪剣征・廊下掃除〜!」

ピンクの振るったモップにより天の廊下から雨は綺麗に拭い去られた。

グリーン:「やるな、天井でっかい穴!」
ピンク:「そっちこそ、廊下掃除〜!」

二人の戦いは無限につづく千日手の様相を呈してきた。
ここに至り織り姫、天の川の両大将による協議の結果この試合は引き分け。

そしていよいよ最後の戦いの時は来た。

織り姫 Vs 天の川


織り姫:「やはり最後は私自身で決着をつけるしかなさそうですね。…牽牛様、待ってて下さい。今会いに行きます」
天の川:「その通り、幸せは自らそれをつかむ者に微笑むのさ」
織り姫、天の川:「「いざ、勝負!」」

ランスを構える天の川にを織り姫は指先から発する五色の糸でからめ取ろうとする。
その様子が五色の光の乱舞に見えるため織り姫は「五光の織り姫」と呼ばれている。
天の川はバレエの動きとランスの回転で五色の糸をことどとくかわし、跳ね飛ばし、切断していた。


天の川:「そろそろ行くよ!ラインゴルト!」

天の川の振るったランスの先から黄金の河が流れだし織り姫は押し流され地に伏した。

天の川:「どうしんだい?君の思いはそんな程度だったのかい?」
織り姫:「違う、違いまーす!私はまだやれまーす」

その時

レッド:「織り姫さん!これを使いな!」

かささぎレッドがそう言ってピアノを滑り寄越した。

織り姫:「これさえあればっ!」

糸を紡ぎ、機を織ることに長けた織り姫はまた音符を紡ぎ、音楽を織ることにもまた長けていたのだ。
織り姫の指先が五色の音符を紡いでいく。
曲は「クルミ割り人形」


天の川:「ど、どうしたんだ!体が勝手に動く!」

バレエに長けた天の川はバレエの曲を聴くと体が勝手に反応してしまうのだ。
織り姫の指の動きが次第に速くなる。
その速さに踊りがついていけなくなる。
そしてブレイクダウン。
天の川は崩れ落ちた。


天の川:「き、君の勝ちだ。君の牽牛に対する思い、しかと見せてもらったよ。さあ行くといい」

天の川が河の向こう岸を指さすと川に橋が架かった。
橋の欄干に当たる部分、右側にはかささぎ達が、左側には天の川達が向こう岸まで一直線に並んでいる。


かささぎ達:「「「おめでとう織り姫」」」
天の川達:「「「おめでとう、よく頑張ったな」」」

かささぎ、天の川達:「「「「「「「さあ川の向こうには愛しい人が待っている」」」」」」」

織り姫:「みなさん、ありがとう!ありがとう!」

織り姫が橋を渡る。

 そして舞台奥、川の向こうには逆光に照らし出された人影が。
 橋を渡り近づいて行く。
 それは大神に似せた人形のはずだった。
 だが。
 近づく織姫の胸が高鳴る。

「(まさか)」

 そう、それは牽牛の衣装を身にまとった大神自身だった。
 織姫に内緒で帝撃の面々が特別に大神を呼び寄せたのだ。
 織姫に元気になってもらうために、織姫の誕生日を祝って上げるために。
 みんなの顔を見る。
 みんなはにこにこと笑っている。

「(ありがとう、皆さん。ありがとう)」

織り姫:「牽牛様!」

織り姫が橋を渡りきり牽牛の胸に飛び込む。
二つののシルエットは一つになる。

拍手喝采雨あられ。
今宵の舞台はこれにて閉幕



(了)




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