「ふおぉぉぉぉっ!」 「はっ!」 朝靄の中に調息の音が響く。 どんっ! そして震脚を踏みならしながらの崩拳。 90年に渡って続けてきた毎日の日課。神槍李書文をも屈服なさしめたほどのその破壊力は未だ衰えていはしない。 やがて鍛錬を終えた木喰は、いつものようなとぼけた仮面を身につける。 黒鬼会五行衆。金剛が筆頭を名乗っているのだが、木喰に言わせれば甘いどころか基本がない。かといって木喰は貴乃花のように洗脳されているわけではない。もっと確固とした裏付けがあるのだ。 それは絶え間ない鍛錬。毎日欠かさず錬ってきたその功夫。そして知略。彼本来の知略を以てすれば帝国華撃団など簡単に葬り去れる。彼の上役である京極慶吾にしても、彼からすればただの誇大妄想の小僧っ子に過ぎない。 彼が京極についているのは単なる過去のしがらみに過ぎなかった。すなわち真宮寺家への復讐である。 真宮寺桂。木喰は若き頃、この年下の美貌の少女を「桂さん」と呼び溺愛した。その生涯最初にして最後の恋であった。結局恋には破れ、桂は婿を取った。怒り心頭に発した木喰は桂の婿と息子の一馬を降魔召還の謀略により死地に追いやった。 だが、木喰ほどの頭脳を以てしてもここに一つ計算違いが生じた。それは桂の孫娘、さくらの存在である。さくらに若き頃の桂の面影をみてからはそれ以上真宮寺に手を出すことは出来なかったのだ。例え、それが自らを死地に追いやることになることが分かっていても。 そして出撃の冬の朝。 「わしは死ぬな」 木喰はそう達観している。戦場に私情を持ち込むということは死を意味するのだ。勝負事に私情は禁物なのである。だが、それでもいいと木喰は思っていた。せめて叶えられなかった恋の形見にさくらの手に掛かって死のうと思った。 「破邪剣征・百花斉放!」 さくらの必殺技が木喰を襲う。木喰はあえてそれをかわそうとはしなかった。 ここが死に場所と決めている。一抹の後悔がある。もっと正直に生きるべきだった。つまらない復讐心から京極になどつかず、ただ純粋な愛を以て桂の為に生きるべきだった。 爆発する機体に身体を焼かれながら木喰は呟く。 「けいさん違いじゃ」<桂(けい)/慶(けい)さん違いじゃ そして木喰の意識は肉体を離れ雪の空を駆け登っていった。 (了)
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