Boorin's All Works On Sacra-BBS

「鳥の人」



 帝都の日は暮れ、逢魔ヶ時。
 一つの影が歩いている。
 だぶついたマントに深く笠を被った人影がゆらゆらと薄暮の明かりの中を歩く様は禍々しくも不可思議な絵のようであった。
 そしてもう一つ、その影を追う影。
 帝国華撃団月組隊長、加山雄一である。

 やがて二つの影が人気のない場所に差し掛かった時、前を行く影がつと立ち止まった。

「もうそろそろいいかねぇ」
「!!」

 突然、もう一つの影の回りを無数の脇侍が取り囲む。

「ちっ、罠か」
「そうさ、加山とか言ったね。ワタシの今日の獲物はあんただよ」

「いやぁ、こりゃあ参ったなぁ」

 帝撃月組隊長加山雄一は特殊な隠形能力を持つ。だが敵を直接攻撃できるタイプの霊力はない。
 明らかに分が悪いのだ。
 加山はその暢気そうな表情とは裏腹に心中で遁走しようと必死に脇侍の隙を窺っている。
 だが、脇侍達にその隙はなかった。

「絶体絶命とはこのことだな」

 加山がおのが運命を諦めかけたとき、高らかに唱和する声が聞こえた。

「「「「「火のないところに煙は立たず。
     隊長:大儂一郎 当年6歳、鷲人間!
     副長:禿高丈二 当年96歳、コンドル人間!
     平隊員:ツバメ麗三郎 当年16歳、燕人間!
     平隊員:視裸禽猛四 当年21歳、白鳥人間!
     平隊員:蚯蚓喰五郎 当年1歳、ミミズク人間!
     帝都に蠢く闇を狩る儂ら帝国華撃団鳥組、ただ今参上!」」」」」

「と、鳥組?何だそれは?この俺が知らないことがこの世にあったなんて」
「な、何さお前ら!」

「ふふふ、加山。貴様が知らんのも無理はない。儂ら鳥組は帝撃の最高機密。超隠密忍者部隊なのだ」
「忍者だと?俺の月組とかぶっとるではないか」
「ふふふ、貴様ら月組が脚で稼ぐ地道なデカだとすれば、儂ら鳥組は科学力を駆使した帝撃最高機密超科学隠密忍者部隊なのだ。儂らは一人一人が超山崎真之介級天才科学者なのだ」
「隠密?天才科学者?…その割にはその超ド派手なコスチュームはなんだ?」

「な、なんなんだこの阿呆どもは!おいっ、返事をしな!」」

「分かっておらんな、加山。これこそ鳥組というネーミングの由来。儂らはこの鳥スーツを着用することによってその鳥の特性を持つことが出来るのだ。
 すなわち儂らこそ帝撃最高機密超科学隠密鳥人間忍者部隊なのだ。
 例えばこの儂は名の通り大きな儂、すなわち大物だ。
 副長の禿高は頭が禿げていて背が高い。
 ツバメの美貌は年上キラー。
 視裸禽は何よりも裸を見るのが好きだ。
 そして蚯蚓喰はいつも蚯蚓を喰っている」
「………それのどこが天才科学者で鳥の能力を身につけてることになるんだっ!ただのバカにしか見えんぞ。それにその喋る度にいちいちポーズをつけるのは何の意味があるんだ?」
「「「「「はっはっはっ、圓楽伊豆来んぞ広告の志を知らん!」」」」」
「???何で圓楽師匠が関係あるんだ?」
「貴様のような小物には大物の志は分からんということだよ」
「あほーっ、それは『燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らん』だっ!」

「ワタシを無視するな。お前らの敵はワタシだ」

「さっきからごちゃごちゃとうるさいな()、なんだお前は?」
「ワタシは黒鬼会五行衆、土蜘蛛。あんたら人間を狩るためにこの世に生を受けたのさ」
「だから何でそんな奴がここにいる?」
「はぁ?ワタシを馬鹿にしてるのかえ?ワタシが加山を罠に掛けておびき寄せて止めを刺そうとしたらあんたらが邪魔しに来たんじゃないかっ!」
「ほう、そうだったか、禿高?」
「うんにゃ、俺はまだ禿げてないぞ」
「ツバメは?」
「お、なかなか顔立ちは綺麗な人ですね」
「視裸禽はどうだ?」
「スタイルも良さそうや」
「蚯蚓喰はどうだ?」
「………もぎゅもぎゅ」
「だそうだ」
「何が、『だそうだ』だ!」
「ふふふ、儂らは鳥組。ゆえに三歩歩くと前のことは忘れるのだっ!」
「あほーーーっ!そんなこと威張るなああぁぁっ!」

「あ、アホや。ほんまもんのアホや」

 思わず関西弁に戻る加山。

「馬鹿の相手はしてられないよ、さっさと狩って帰ろう。五行相克・九印曼陀羅!

しゅばしゅばしゅばーっ

「はっはっはっ、効かんなあ」
「な、何ぃ?!」
「だから言っただろうが。儂らは帝撃最高機密超科学隠密鳥人間無敵忍者部隊だと。儂らの科学力の前にはそちらの攻撃など腹の足しにもならんわ!
では今度は儂らの方から行くぞ!とおぉっ!

げしっ!

「ぐわっ!!」
「む、どうした加山!」
「ど、どうしたもこうしたもお前がやったんじゃないかっ!」
「何だと!むっ!目が見えんっ!…そうかっ!なるほど秋の日は釣瓶落としとはよく言ったものだ。もう夜ではないかっ!儂ら鳥人間は夜になると目が見えんのだ」

「「なんじゃ、そらぁーっ!」」

「よし、腹が減っては戦はできぬ。カラスが鳴くからかーえろっ!退却!」

しぱしぱしぱっ!

げしっ!
ばきっ!
どこっ!
ぐしゃっ!


「「ぐ、ぐはぁ!あ、あの馬鹿鳥共真っ正面から退却しやがって………うぅ」」

 土蜘蛛の脇侍は全滅。土蜘蛛自身も大ダメージを負った。
「おぼえておいで帝撃最高機密超科学隠密鳥人間無敵忍者部隊・鳥組!」
 妙に義理堅く憎い敵の名を言うと土蜘蛛は退却した。

「お〜い、俺も連れていってくれぇ」

 同じく大ダメージを負った加山はいつになく食事時になっても戻らない隊長を不審に思って探しに来た月組隊員によって2時間後にようやく救出された。
 彼はそれから大の鳥嫌いになったという。

(了)


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