米良美一さん出身の地、宮崎市のBCJ大ファンより初めまして

  

九州 宮崎市 湯舟清隆 様 (E-mail)k.yufune@ma3.justnet.ne.jp

  

 矢口さん、そして全国のBCJファンの皆様こんにちは。初めてメイルを送っています。実を言うとインターネットとかメイルとか自分にはほど遠い存在だったのですが、先日9月26日に職場の同僚にBCJのホームページを見せてもらって、その内容とともに、インターネットの素晴らしさに感動して、急遽モデムを購入しプロバイダーと契約を済ませ、メイルの送り方も試行錯誤しながら、こうして矢口さんのアドレスに送信しています。
 現在のところおそらく日本最南端の地からのメイルではないかと思います。こんなところにもBCJの大ファンはいるものなのですよ。

 私がBCJの存在を知ったのは、カンタータ全曲演奏を開始した第1回定期演奏会の記事が数年前の朝日新聞に写真入りで掲載された時です。その日はとても感慨深く記事を読んだことをはっきり覚えています。それは次の理由からです。

 高校時代私は夕方NHKFMで皆川達夫さん解説によるバロック音楽の番組をよく聴いていて、強い影響を受け、バロック音楽とりわけ宗教曲に関心を持ち始めていました。大学生活にも余裕が出始めた頃、生活していた工業都市北九州市の市民合唱団「北九州聖楽研究会」に入り、濱田徳昭氏指揮のもとバッハのマタイ・ヨハネ両受難曲、カンタータ、メサイア等をオケ付きで歌っていました。当時宗教曲とりわけカンタータのような一般に馴染みの薄い曲や、ましてマタイ・ヨハネのような特殊な(当時はそう思われていたような気がします)曲はアマチュアの範疇であり、日本人プロが演奏するなどとは私には考えられませんでした。唯一聖トーマス教会合唱団等の外国団体が時折やって来るくらいではなかったでしょうか。(前述の濱田氏指導のもと、活躍していた全国のアマチュア団体が日本オラトリオ連盟となり、エルンスト・ヘフリガー氏を招いて50名近いオーケストラと、200人を越す合唱団員の一人としてNHKホールでマタイを歌ったことが素晴らしい想い出になっています。当時はメサイア同様、このような大規模な演奏も不思議ではない時代でした。(なおBCJのカンタータシリ ーズ1でコルネットで、またシリーズ3でリコーダで参加している濱田芳道さんは、他界された濱田徳昭氏の息子さんです。BCJと私との接点がここにもあります
 
 リヒターのレコードがバイブルのように崇拝され、それに甘んじていた当時、日本人プロ演奏家によるカンタータや受難曲の演奏ましてや録音の可能性など考えられませんでした。それを思うとBCJの旗揚げは本当に感慨深いものがあります。そしてリヒターの音楽が肥大化ロマン化していきつつあった70年代後半から80年初めにかけては、オリジナル楽器とバロック唱法が台頭しつつあり、リヒターの死と共にそれは決定的となりました。私が北九州を離れた後も、聖楽研究会及び日本オラトリオ連盟はオリジナル楽器による演奏を試み始め、(その頃はバロック時代の特殊な楽器、例えばオーボエダカッチャなんてものは無く、聴いたところによると博物館から借用したとか、製作を依頼し本番の数日前にやっと出来上がったとか、まことしやかな伝説が生まれました)当時ヨーロッパから帰国したばかりの若松夏美さんや若き日の太刀川昭さんなども時折ステージに立っていただいていました。もちろん私は聖楽研究会の定演にはずっと聴きに行っております。ここにも私とBCJとの接点があります。(日本オラトリオ連盟関連資料は、磯山雅氏著「マタイ受難曲」477頁に ありますのでお読み下さい) 

 その後BCJのことは時折新聞でその活躍を知る位でしたが、ヨハネのライブ盤を聴いたときは「やったあ」と鳥肌が立ったのを昨日のように思い出します。そしてカンタータ全曲録音が始まり第1集がリリースされた時は、トン・コープマンが全曲録音を同時に開始したことよりも嬉しく思いました。それは日本人によるカンタータ全曲録音という前代未聞、数年前には絶対想像もできなかったことが現実となったからばかりではなく、その音楽が欧米のものとは違って、何というかアマチュアの私が言っても重みはないのですが、日本人にしかない繊細さ、しなやかさ、透明さがあまりにも強烈だったからです。そしてそのことが一層宗教曲を深くしているように思えます。 

 さて、私が初めてBCJのライブに接したのは昨年暮れ、横浜でのメサイアでした。バッハマニアの名に恥じず300枚ほどのバッハ関係のCDをコレクションにしている私はメサイアも数盤聴き込んでいますが、録音環境のよい評判のCD録音のことも忘れさせるほどのライブ演奏でした。特に合唱については期待していた数倍もの充実感を得ました一人一人がソリストである合唱団、なんと贅沢なことでしょうかアンサンブルも国内選りすぐりの技巧者の皆さん。ああ、こんな最上質のライブを楽しんで5,000円のチケットとはなんて安いのだろう。こんなに安いのは罪だ!

 その後 2月カザルスホールでのカンタータ6月松蔭でのカンタータで楽しませてもらいました。松蔭でのコンサートは特に印象深いものでした。演奏会場のチャペルのステンドグラスや高い丸天井、素晴らしい残響ばかりでなく、開場する前や演奏の合間の休憩時間、演奏が終わっての時間、なんとも暖かい雰囲気の、聴衆と演奏者とのふれあいがあるのです。一緒に写真に収まっていただく鈴木雅明氏、質問ににっこりと答えてくださるソリストの方、珍しい楽器を持って休憩しているアンサンブルメンバーの方、ステージで見慣れた合唱団員の笑顔。10月には再び松蔭でバッハ合唱作品の神髄「モテット」を聴きに行きます。あー待ち遠しい、楽しみだなあ。

 最後にこのホームページを作成され、それを毎日メンテナンスされ、そしてこのように全国のBCJファンの語らいの場情報交換の場を提供して下さった矢口真さんに感謝申し上げたいと思います。どうぞお体に十分注意されて末永く私たちを楽しませて下さい。

 これからも時々現れますが、よろしくお願いします。BCJの皆様良かったら私のアドレスにいらっしゃいませんか。(E-mail k.yufune@ma3.justnet.ne.jp) 
 

九州 宮崎市 湯舟清隆 (97/9/28)

    


  BCJカンタータ第5集を聴いて

  

九州 宮崎市 湯舟清隆 様 (E-mail)k.yufune@ma3.justnet.ne.jp

 

 矢口さんが第5集(直輸入盤)ゲットした旨をフォーラムに掲載された2日後、BCJの大ファンにして、バッハの大ファン、そしてルネッサンス美術に造詣の深い大阪の藤井さんから宅急便にて同第5集CDが届きました。(ここ宮崎市には輸入盤を扱うショップがありません)藤井さんとは今年の6月松蔭でのコンサートで知り合ったばかりですが、そこはBCJのファン同士、意気投合しておつき合いをさせていただいています。

 さて、私は専門的な音楽教育は受けておらず、ただ20年以上バッハの音楽,特に声楽曲を中心にライブを楽しんだりいろんな演奏家のレコードやCDを聴いてきただけです。あくまで素人バッハ愛好家のコメントですので、そこはちょと違うんじゃないというところも有るでしょうが、ご了解ください。

 BCJの新譜を初めて聴くときは、いつもわくわくどきどきします。新しいCDを最初に聴くときはスピーカーではなくヘッドフォンを使います。この方が音の解像度が高まり、細かいニュアンスがよくわかるからです。まず18番の第1曲シンフォニア。数秒聴いた時私は、鳥肌が立つような感動を覚えました。4本のヴィオラが素晴らしく絡み合い解け合い、雄弁に語っているではありませんか。このシンフォニアは今日までに50回以上聴きました。何度聴いても飽きません。聴けば聴くほど新しい感動と発見が有ります第1集最初の曲(4番シンフォニア)を聴いた時と同じ感動です。(4番の時は、「ウーッ、な、何だこの音は、これは本当に日本人演奏家のバッハなのか!! うーん、日本人によるバッハもついにここまで来たか!!」という思いで興奮してしまいました。ジーンときました。目頭があつくなったのを思い出します。)18番のシンフォニアを聴くと、古楽関係の書物によく書いてある「くすんだ音」というバロック楽器の説明は誤っていると私は思います。「くすんで」はいないのです。逆に実に艶やかで、繊細で、よく語り、輝 いているではありませんか。ライブで聴くとどうしても音量が小さいので「くすんで」聞こえるのでしょうが、このようなポジションが近い録音では、決して「くすんで」はいません。

 143番以外は2月のライブで演奏されており、私もカザルスホールで聴きました。カンタータの中ではよく知られていない曲ばかりではないでしょうか。それで事前にコープマンの録音で予習をしていきました。(コープマンも現在は世俗カンタータ録音中でBCJが追いつきそうですが)実はこの予習ではこれら4曲を好きになれませんでした。それはバーバラシュリックの枯れたソプラノのためでした。彼女の歌はすぐスキップして聴いたのでなじめなかったのでしょう。しかし、ライブでは鈴木美登里さんの透明な声に救われました。そしてこれが、数日間聴いていた同じカンタータなのだろうかとびっくりしました。ここでライブの感想を織り交ぜて申し上げます。録音にも通じるところがありますので。152番ではステージにあがった奏者の数にびっくりしました。録音データではソリスト2名を含む総勢わずか7名!!! 演奏会の人数ははっきり覚えていませんが多分同じでしょう。録音を聴くと信じられないですね。わずかな人数ですが実に生き生きとして飽きません。この曲の録音参加者リストにオーボエのポンセールが載っています が、ライブには参加していませんでしたね。ということは、この曲は2月の録音ではなくて彼が参加した6月のライブ期間中に録音したのでしょう。同じようにペーター・コーイが風邪のため参加しなかった2月のカンタータのバス・ソロ分の録音も6月に行われたことと思います。ところでちょっとここで疑問が一つあります。第5集の曲ごとの合唱メンバーを見ると、すべての曲にペーターコーイの名があります。143を除く全曲は2月に演奏され、パス・ソロがらみの曲以外はこの時に録音されたとするとこのコーイの名が合唱メンバーにあるのはおかしいと思います。単なるミスプリントではと思いますが・・・本当にコーイが合唱に参加したとすると、2月公演分をすべて6月に録音したことになります。2月に演奏しなかった143番の合唱メンバーはほかの4曲とは異なっていますので、ミスプリの公算大ですね。(ちょっとオタクみたいな細かい質問になりました・・・)

 さて、第3集が米良さんの一人舞台、第4集が鈴木美登里さんの一人舞台だとするとこの第5集は桜田さんの一人舞台と言えるでしょう。出番が多いのは勿論ですが、実に心にしみる歌を歌っていらっしゃいます。2月のライブで私は、161番第3曲のテノールアリア「Mein Verlangen ist」で、桜田さんの歌に涙したのでした。勿論旋律も美しいのですが、桜田さんのアリアは氏の実直誠実な風貌性格そのまま、端正・透明で、素直に私の心に入り込んで私に直接語りかけてくれたのでした。私はクリスチャンではありません。私は全く信心深く有りません。アリアの歌詞もわからず、ただその旋律と桜田さんの真摯な歌声によってのみ、私の心が揺り動かされたのです。今回の録音ではそれが一層深まっており、CDで桜田さんのアリアを聴きながらまた涙したのでした。桜田さんのこのアリアは、BCJによるカンタータ全曲録音の中でも名唱になるべき録音です。実は2月のライブを聴くまでは、桜田さんはこんなに素晴らしいバッハ歌手とは思わなかったのです。こんな人が合唱のメンバーですからね、すごいですよ。本当に贅沢です。そういう演奏をライブで、録音で楽しめる私も贅沢ですよね。それから143番第4曲のアリア、これもいいですね冒頭語りかけるような歌い方はぞくっとします。ところで桜田さんの声質はどことなくペーターシュライアーに似てると思いませんか。シュライアーにもっと湿り気と潤い を持たせたのが桜田さんだなと、私には思えます155番の第2曲、あのファゴットオブリガート付きの二重唱、桜田さんも米良さんの声と程良く解け合い、実にいい。桜田さんもいいのですが、二重唱ではやはり米良さんの縁の下の力持ちに甘んじておられます。米良さんの声はソロでも勿論素晴らしいのですが、重唱になると一層その声は光り輝きますね。二重唱といえば第3集162番第5曲のアルトとテノール二重唱。ここで桜田さんは、米良さんの引き立て役です。(桜田さんごめんなさい!!!)この162番の二重唱はBCJカンタータ全曲録音は勿論、世界のカンタータ録音史上歴史的な二重唱と言えるでしょう。素晴らしい。ちなみに私はこの二重唱、今までに100回以上は聴いています。毎日のように流すものだから小6の娘なんかアルトパートを暗譜してしまいました。この曲で唯一惜しかったのは、諸岡さんのチェロが終盤で一音、ひっくり返りかけているところです。実にもったいなかったですね。

 話を第5集に戻します。第30回定期演奏会のプログラムの中で武田マネージャーが「私は好きです」とおっしゃっている、イングリット・シュミットヒューゼンさんが初登場しています。彼女の声を聴くのは今回が初めてですが、私も武田さん同様「好き」です甘い声質で、よく通り、澄んでいます。個人的には何となく、遠くてなつかしい記憶を呼び覚ますような声のように思えます。ただちょっと気になるのは、発音がふわふわしているというか、いや、発音ではなく、声が伸び縮みするというか、うーん、表現力が乏しいのでうまく言い表せませんが、そんなところがあります。でも彼女の声で、例えば51番のソプラノソロカンタータ第1曲を、日本のパーキンス(クリスピアン・スティール)、島田俊雄さんのトランペットとともに歌うのを早く聴いてみたいですね。

 合唱についてですが、18番の第3曲、同一音程で歌うソプラノ、こんなに厳しく迫ってくるのにはびっくりしました歌詞の内容も厳しく、ドイツ語の発音も厳しいものが感じられます。でもこの曲好きです。161番の終曲コラール、バッハファンの皆さんはきっと、おやどこかで聴いた曲だなと思われたこととでしょう。マタイに登場するコラール「Befiehl du deine wege」に生き写しですね。

 ここでちょっと、気になることでは全くないのですが、曲が始まる前と曲が終わって静かになったとき、ごく僅かですが、「ゴー」という音が入っていますね。これは第1集から気づいていたのですが、何の音だろうかと考えていましたところ、今年6月の松蔭コンサートでその原因がわかりました。チャペル内の空調の音でした。今回の第5集ではこの空調音がほかの録音よりもレベルが高いようです。

 私が第5集を手に入れて聴いた最初の日に感じたことは、5枚の中で最高の出来ではないかと言うことです。もちろんそれぞれのディスクは珠玉の録音で満たされています。しかし今回の録音は過去4枚の録音(と共にライブ演奏も)の素晴らしい成果に裏打ちされた、さらなる飛躍を確信させる録音だと思います。選び抜かれたソリスト、世界に誇る古楽器の達人達、贅沢すぎる合唱、彼らの実力がますます磨き上げられ、これから続々とライブで録音で、私たちの期待に完全に応えてくれると思います。大いに期待しています。
VIVA BCJ!!!

湯舟清隆 (E-mail)k.yufune@ma3.justnet.ne.jp (97/10/14)

  


*編者注 (by 矢口)

(1)第5巻の合唱メンバーにペーター・コーイが入っていることについて
  BISのCD制作ではかなり細かな編集が行われているそうです(「16分音符単位にだってつなげられる!」とバール社長はおっしゃているとか・・・)。そこで、なかば想像ですが、2月に録ったテープのなかで満足のいかなかった部分にペーターも参加して6月に録った部分もあるのではないかと思います(武田マネージャーも、「たぶんそうではないかな」とおしゃっていました)。よって、今回はBISのミスプリではないだろうと思います。しかし、そんな編集のあとをまったく感じさせないBISの技術は本当に素晴らしいですね。

 

(2)CDの楽音がないときのかすかな「ゴー」という音について
  私がうかがった範囲では、オルガンの送風のための機器の音ではないかと思います。松蔭にうかがったことがないのでわかりませんが、周囲の雑音をさけ、空調を切って深夜に録音をすることもあると言うことですから、たぶんそうだろうと思います。
BWV106のシンフォニアなどが深夜(早朝?)収録されたものだそうです。

(97/10/18)