ETUDE だらだら劇場 act.1 ハロウィン編 |
秋晴れの休日、啓太は和希と久しぶりに学園島の外に買い物に出た。天気が良くて、すごく風が気持ちいい。 休日とあって、家族連れからカップルから、ショッピングセンターにはくるくると多くの人が行きかっている。 不意に、すれ違った家族連れ。 小さな子供が紐をしっかりと手に握り締めている、オレンジ色の風船が、啓太の目に入った。 ―――オレンジ。 そういえば、最近街中でよくこの色を目にする気がする。どちらかというとヴィヴィッドな色と認識されるそれは、啓太の目にも焼き付いていた。 啓太は、美しく飾られたショーウィンドウの前でふと立ち止まる。 「……」 オレンジのかぼちゃが、笑いかけている。 かぽりと大きく目と口を開いた、啓太の頭よりも大きなそれは、可愛いと感じるに分類するには、微妙に怖いに寄っていて。 「和希、見てみて。このカボチャ」 「お、ぶさいく〜。ああ、このそばの黒いコウモリ、なんか七条さんぽくないか?」 「七条さん〜? 七条さんはこんなに小さくないだろ、どっちかって言ったらこっちのかぼ…」 「僕が、どうしました?」 「「わ―――!!!」」 するりと、和希の後ろから姿を現したのは、かぼちゃと同属性の笑顔を浮かべた七条。 大きな身体をしているというのにこの人は、気配を消すのがとても上手い。 本人に向かってそんなことを言ってみたところで、やっぱり笑顔で「そんなことありませんよ」と受け流されてしまうのだろうけれど。 「な、何でもありませんよ。な、啓太」 「そうなんですか?伊藤くん」 七条、和希二人の視線が一同にこちらを向き、啓太は受け止めきれずにディスプレイに背をついた。 「はい、なんでもありません……です」 「おや、これはハロウィンのディスプレイですね。」 おろおろと目線を泳がせる啓太の肩越しに、細めた眼差しをやった七条がぽつりと呟く。 「ぅ、ぇ……そ、そう……」 まだ追求が続いているのかと一瞬、答えに窮した啓太だけれど。言葉の意味をつかみ損ねて、問うようにそろりと視線を向ける。 「ぇ…、ハ、ハロウィン…?」 「ええ。ジャック・オ・ランタン…彼は僕ではなくて、かぼちゃの王様ですよ」 「あ……」 聞いてたんですね、と軽く途方に暮れる啓太である。 「あー、そっか、もうすぐハロウィンかあ」 ちょっとわざとらしくもあったが、和希が後に続いてくれた。 「啓太、ハロウィンって知ってる?」 和希は再びディスプレイをのぞき込みながら聞いた。 「うーん、知ってるよ、って言いたいとこなんだけど子供が仮装してお菓子貰うことくらいしか知らないや……。ひょっとして、七条さんや和希はハロウィンの仮装、したことあるんですか?」 実はアメリカ暮らしが長かったクラスメイトと、実はサンフランシスコ出身の上級生は顔を見合わせた。 どうなんですか遠藤くん? そういう七条さんこそどうなんですか? しばし目線でけん制しあってから、ふうと息ついて和希が答える。 「俺はしたことはないなあ…でも啓太がしたいなら、吸血鬼でも狼男でもジェイソンでもエプロンドレスでも、なんでも俺が作ってやるよ?」 「遠藤くんは相変わらずマニアックですね、でも伊藤くんのエプロンドレスには…僕も少し興味があります」 にこりと、笑顔でとんでもないことを言い出す二人の目は、けれども本気だ。 啓太は目を瞠って、慌ててぶるぶるとかむりを振る。 「いえ、遠慮しときます……」 啓太の言葉が聞こえているのかいないのかスルーされているのか、七条と和希のコスプレ談義はその後しばらく続いた。 「で、結局簡単にいうと、お盆みたいなものらしいよ」 近くのジェラート屋で購入したパンプキンジェラートを食べながら、和希が言った。 「死者があの世から戻ってきたときに、現世の人間が取り憑かれないよう、お化けなどの仮装をするみたいですね」 お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ、と呟く七条の手には、チョコミントと、同じくパンプキンのW。 二人の説明でなんとなくハロウィンのなんたるかを理解した啓太は、ふうんと頷いてみせる。 「でも、お盆に仮装してお菓子をもらって歩くなんて……すごい風習ですよね」 パンプキンのジェラートをスプーンにすくって、ぺろりと舐めて。 その甘さにほくほくと幸せな心地になりながら啓太が、何気なくポツリと呟いた。 「寮でそんなことしたら、篠宮さんが怒るかなあ…」 うーん、と隣で和希がうなる。 「どうかなあ。そうだ、王様に頼んでみたら?王様なら、きっと上手く篠宮さんを説得してくれるよ」 「僕からも郁に言っておきましょう」 にこ。と七条が笑った。 「やったー!俺、寮に戻ったら王様にお願いしてみますね!」 「王様!おーさまっ!!」 寮へ帰るなり、啓太は丹羽を部屋で捕獲した。うきうきと弾む啓太の様子に、丹羽も笑顔で答える。 「おー、どうした啓太」 「王様、ハロウィン・パーティやりましょう!」 「はろ、うぃん、だあ?」 「王様も、街でオレンジのカボチャと黒いコウモリを見ませんでしたか?」 椅子に座った江戸っ子は、胸を反らした。 「オレンジと黒つったら、啓太、そりゃ読売ジャ○アンツだろうよ〜!な、遠藤」 「俺は、ヤンキースファンです」 世田谷出身の和希は、手厳しかった。当然と思って振った話題に同意を得られなかった丹羽は、救いを求めるように啓太を見遣る。 けれども。 「あの、俺はレッズが…」 あはは、と啓太にまで申し訳なさそうな誤魔化し笑いを返されて、正直少し落ち込んだようだ。 「え…ええと、あの…それでっ、ハロウィンなんですけど!」 気をとり直すようにテンションを上げて、啓太は再度身を乗り出す。 「……おう」 やばい。肝心の王様のテンションが低い。啓太はさっき仕入れたばかりの知識を披露した。 「お、お祭りだそうですよ、お盆の!な、和希!!」 「そうそうそうそう、そうです。祭りですよ、祭り。王様、好きじゃないですか」 丹羽はぴくりと反応する。 「…祭り?」 呟く肩は落ちたままだが、それでも少し気分は上向いたようだ。啓太は両のこぶしを握り締めて、ここぞとばかりに畳み掛ける。 「そう! そうですよお祭りです!仮装したりお菓子を配って歩いたりあと、ええと…に、肉を使った料理も!あるかも!」 和希も身を乗り出す。 「王様、みーんなに声掛けて賑やかにやりましょうよ!あー、女王様も来てくれるって、言ってましたよ!」 「あ、そうです!女王様も!!」 「…郁ちゃんも…?」 「「そうです!!」」 七条さん、ちょっと嘘つきな俺を、許して下さい…。啓太は頭の隅で思ったが、どうやら効果があったようだ。 「そっか!じゃあ、早速篠宮に声掛けてくるからよ!」 エンジンがかかった丹羽の行動は早かった。 立ち上がるや否や。和希と啓太の肩をバンバンと叩いて。 「そんじゃあな! お前らも頑張れよ!」 と、なにに対してなのだかよく分からないエールを残して、びゅうと風を巻き上げる勢いで部屋を飛び出していく。 置いていかれてしまった状態の二人は、顔を見合わせて。 「…頑張れって」 「うん…なにを頑張ろうか?」 とりあえず王様に任せておけば一安心だね、そうだねと、微妙に心からとは言い難い生温い会話を交わしつつ、啓太と和希はその日、夜通しハロウィンの計画話を続けたのだった。 そして、あっという間に10月31日のハロウィン当日。 丹羽が篠宮に「コスプレ祭をするから肉料理を作ってくれ」と、省きすぎた連絡をしたこと以外は順調に当日を迎えた。篠宮と成瀬は、朝から台所に詰めてせっせと料理をしている。 「和希、かーずきっ」 啓太は和希の部屋の前にいた。ごそごそという音がして、細い隙間から和希が顔を出す。 「ごめん、啓太、もうちょっと待ってて」 このところ一週間、ずっとこれだ。ハロウィン用の衣装製作のために部屋に入れてもらえないばかりか、ここ3日ほどは和希は部屋にこもりきりで。追い込みで忙しいんだよごめん啓太っ、と、お互い寮にいてもろくに顔を合わせないような状態である。 学生会の二人や会計部の二人、著名な運動部長たちにも可愛がられている啓太だけれど、なんだかんだといつも行動をともにしているのは和希だから。 こんなにも長くほったらかしにされては、さすがにつまらない。 閉ざされたままの和希の部屋の扉の前で半眼になった啓太は、もう一度扉をノックしてやろうと、大きく右腕を振りかぶった。 と。 「っ、ぁ…」 「啓太、おまた……」 せ。と。 ちょうどのタイミングで、扉を開いて現れたのはクマ。 ノックのこぶしは、勢いあまってクマの頭にめり込んでいる。 「…あ…ごめ…和希」 啓太は叩いた部分をなでてごまかした。 「……いいよ」 そう言って、和希は自分のクマちゃん頭をなでなでしている啓太の手をとる。 「今度は啓太の番だ。さっ、中に入れよ!」 「うわああっ、和希―?!」 啓太が久しぶりに和希の部屋へ入るとそこには。 みるからにふわふわで愛らしさ満点の、白い白いウサギちゃん。 の、かぶりものが。 「お、俺のって和希まさかこれ……っ」 「可愛いだろ〜? 俺とお揃いの、ウサギだぞ?」 だぞ? と、両手を腰にやって右足のかかとを斜め前に出してトンと地面について、小首を傾げて和希が告げる。 意識してか無意識にかは分からないが、動作がすっかり着ぐるみモードになっているようだ。 「それに、動物系がいいって言ったのは啓太だろ?」 「言ったけど、でも…」 動物系というのは狼男とかそういう…意味であって、と、もぐもぐ口ごもるが。 啓太は、和希がどれだけ心血を注いでこのウサギとクマを作成したのかを知っている。 本当に、これを着るのかと、確かめるように和希を見れば、にこりを笑みを返されるばかりで。 人のいい啓太は結局諦めて、ウサギの頭に自ら手を伸ばした。 かぽり。 「…っ…」 声にならない吐息を漏らすと、和希(クマ)は啓太(ウサギ)の頬をそっと撫でる。 「…やっ…やだ、和希…見ないで…お、俺、恥ずかしいよ…っ」 啓太(ウサギ)は身をよじる。 「どうして?…ほら、ここをこうすると」 「あっ…や…ぁっ…」 啓太(ウサギ)の片耳が半分てろんと下がった。 「…啓太、可愛い…想像してた通りだよ…」 「っ、こんなの…想像してたのかよ、和希は…っ、ぁ」 和希(クマ)は啓太(ウサギ)の垂れた耳を手にとって、毛並みを整えるようにするすると優しく撫でる。 ついついと軽く頭を引っ張られるたび、啓太(本体)の鼻先が啓太(ウサギ)の内側にこつこつと軽く当たって落ち着かなくて。 「…ぁ、…ぁ、ちょ…なに、し、て…俺、見えな…っ」 「大丈夫、俺が啓太に酷いことなんてする訳ないだろ? ほら、俺を信じて…」 「和希、もうだめ…俺、もう…もう…」 がらがしゃんっ! 唐突な破壊音に部屋が揺れた。 破壊されたのは、5人分の重荷がかかって耐え切れずにへしゃげた和希の部屋の扉である。 当たり前だが和希(クマ)と啓太(ウサギ)は振り返った―――その視線の先には。実にバラエティに富んだ種族の生き物がなだれ溶けていた。 一番下から「高速の星」を歌い出しそうな冠&赤マントde王様ルックの丹羽、夢の国出身・フック船長の成瀬、流鏑馬衣装というかそれってただの弓道着?な篠宮、サファイアではなくダルタニアンなのだろう三銃士の西園寺と、なぜかしっかりと西園寺の腕を掴み、一人だけ被害のない時間にも余裕のある三月うさぎ@不思議の国のアリス姿の七条。 「………なにやってるんですか」 クマの和希がその愛らしい容姿に相応しからぬ冷静な声をだした。 「えーと、な、これはだなーその」 「ハニー、ああハニー!何て愛らしいんだろう、素敵過ぎて言葉にならないよ!」 「危ない、成瀬!寮内で凶器を振り回すな!」 「くだらん。だから私はこんな覗きのようなことは嫌だと言ったんだ」 「ばれてしまいましたね。でも、大丈夫ですよ」 それぞれが思い思いの言葉を口にした。 その更に3歩後ろ、扉の向こうの廊下では。 「…まったく、騒々しい」 斜めにモデル立ちをするドラキュラの中嶋が、言葉ほど呆れた風でもなく楽しげに、フンと鼻で笑ってシルバーフレームのブリッジを押し上げた。 「そんじゃー始めんぞー。全員飲みもん持ったかー?」 なみなみとオレンジジュースをたたえたチープな紙コップを掲げて、丹羽が音頭をとる。 「Happy Halloween!」 「「Happy Halloween!!!」」 思い思いの格好で、皆が賑やかに騒ぎ出す。生徒に混ざって海野の姿も見られた。海野は白衣のままだったが、トノサマは猫用タキシード着用で、かなりダンディーだ。 「海野先生!それに、トノサマも。楽しんでますか?」 「うん、伊藤くん。ありがと」 「トノサマ、今日は王様に会わないであげてね」 「ぶにゃ〜〜〜」 その丹羽はというと、民草とのふれあいに大忙しだった。 次々と寮生が、丹羽の元を訪れては。 「Trick or Treat!」 「Happy Halloween!」 お菓子を渡す、の繰り返し。だが、みんなの仮装を目の前にする丹羽も、実に楽しそうだ。 「Trick or Treat」 「Happy…て、おい…岩井、なんだその…頭は」 「…おかしい、か?」 「いや、おかしかねえけど…お前そりゃ何のコスプレだよ」 丹羽の視線は、岩井の頭上でびよんびよんと揺れるバネのような角のようなものに釘付けだ。 ゆっくりと目線を下ろすと、常よりもどこか誇らしげに見える岩井が答える。 「ピカソだ」 「あ―……」 なるほどと頷く丹羽の頭の王冠が、ちょっと傾いだようだった。 そのやり取りを、目許を和ませて眺めていたのは会計部の二人。 そこに、啓太と和希も合流する。 「お前が岩井を誘ったのか?啓太」 「はい、俺と和希で」 「そうか…。見てみろ、あんなに楽しそうな岩井を見るのは久しぶりだ。」 「みんなも楽しそうで、開催した甲斐がありましたね、伊藤くん」 啓太が、えへへ、とウサギ頭に手をやる。 「有り難うございます、七条さん。それに、西園寺さんも。俺、正直いうと、西園寺さんが参加してくれるのは、ちょっと難しいんじゃないかって思ってました」 だから参加してくれて嬉しいです、と本当に嬉しそうな笑みで見上げてくる啓太の顔を。 なんだかまじまじと、西園寺が見下ろすものだから。 「…? 西園寺さん?」 なんですか? と首をかしげたところでふわりと、いい香りが近づいて。 あれれと瞬いた無防備な頬に、ちゅ、と。柔らかい感触。 「……っ、さ!?」 「Trick or Treat?」 そうしてわめきかけた耳許にすとん落ちた、綺麗なクイーンズイングリッシュ。 日本語変換しようとわたわたしている啓太の前に、和希がするりとすべり込んで来た。 「Happy Halloween, you too」 クマちゃんの後頭部で隠れていて、啓太から和希の顔は見えない。ただ、美しい眉を片方わずかに上げた西園寺の顔が見えるだけ。 そういえば、和希の英語を初めて聞いた。授業を受ける和希は、見事なカタカナ英語だったから。やっぱりしゃべれるんじゃんか。クマちゃんの後ろ姿を見ながら啓太がぼんやり考えていると。 「啓太、俺達も王様にお菓子もらいに行こ!」 突如振り向いた和希に強く腕を引かれて。挨拶もそこそこに、走り出す。 「……臣」 「なんでしょう、郁」 「ブレーカーを落として、理事長を困らせてやれ」 「はい、郁」 にこりと頷いて、三月うさぎは小脇に抱えていたノートパソコン(懐中時計のシールつき)をかぽりと開いた。 「王様! Trick or Treat!」 「Happy Halloween…て、啓太か。ははは、ほら、持ってけ持ってけ」 「わ、わ、持ちきれないですよそんなに!」 ざくざくと面白がって手の中にお菓子を盛られて、啓太が困り果てながらも楽しげに笑い声を上げていると。 唐突に。 がしょん! 視界が暗転した。 「……っ、あれ…停電?」 「みんな、落ち着け!……んぁ?」 ぶにゃぁぁぁぁぁぁ〜! ……これは……ひょっとして………。 「ね」 「ねご――――――――――――っ?!」 絶叫とともに菓子袋が放り投げられる気配。 次いで、頭に頬に肩に背中に、ばさばさと音を立ててお菓子の雨が降ってきて。 「っ、わ、……わ、ちょ…っ」 「啓太…っ、大丈夫か、こっちに……」 「っ、和希…どこ…っ」 「ねねねねねご――――っ!!!」 惑乱して闇雲に駆け回る丹羽と。 なにゆえか四方八方から聞こえる「ぶにゃ」とか「うにゃ」とかいうトノサマの鳴き声。 パーティー会場は真っ暗闇の中、混乱の極地に陥った。 「こっちだ」 啓太の腕を優しく強く引き寄せる力。あまりにも人が行き交っていて、自分がどちらを向いているのかさえわからない。 「……和希?」 そっと名前を呼んでみる。その瞬間、啓太は誰かに唇を塞がれた。 「………っ?!」 触れた、柔らかさ。 これは。 これは、と認識が追いつかないうちに温もりは一瞬で離れてしまって。 驚いて硬直した啓太が立ち止まったところは、けれども運悪く丹羽の通り道だった。 「ねごっ、ね……っどあ!」 「! わ、とと……っ!」 どんと勢いよく側面からぶつかられて、たたらを踏んだ啓太を。 「……っ、大丈夫か?」 抱きとめたのは和希で。 多分啓太に一番近い位置にいたのも、和希で。 唇に触れた瞬間、微かに通り抜けた薫りもまた。 「……和…希…」 ようやく明かりを取り戻した部屋で。 人が右往左往している中、啓太は和希を見上げる。 「和希……」 「怪我はない?啓太」 そっと、引き上げてくれる優しく力強い手。 指先から伝わる体温を、さっきまでは意識なんかしていなかったのに。 とくとくと鼓動が速まって、なんだか頬が熱くなって。 「どうした? 啓太、大丈夫か…?」 いぶかしげに顔を覗き込まれて。 顔を上げた啓太は慌てて、ふるふるとかむりを振ってみせる。 「な、なんでもない! 大丈夫、だから…っ」 「そっか? でもなんか顔、赤いけど……」 心配そうに眉を潜めた和希がそう云って、啓太の額に触れようとしたところで。 部屋の中央から、呼びかける声が響いた。 「あー……ったく酷い目にあったぜ…みんな、仕切りなおしだ。コップ持てコップー」 がやがやと、活気を取り戻したパーティ会場。 クマもウサギも中央の王様に向かってコップを掲げて。 もう一度! 「Happy Halloween!!!」 |