blanc 10 for lovers 02 「あと5分時計の針を遅らせて」「啓太、ほら、もう起きないと」 「・・・ん・・・・・・ぅ、ん・・」 「こーら、返事ばっかりじゃなくて、身体を起こせってば」 「・・ゃ・・・・やーだ・・・あと5分――――・・・・」 「やだじゃなくて啓太・・・・・もう、仕方ないな」 枕を奪おうと実力行使に出た和希だけれど、啓太も負けずにベッドに転がったまま躰をひねって上体を浮かせて、奪われまいと両腕で枕にしがみついたままはがれない。 そのうえそんな中途半端な体勢のまま、それでもまだ半寝状態でいる啓太の、眉をしかめてぐずぐずとむずかる姿が可愛くて。 微笑ましさに、和希の実力行使も結局長くは続かない。 そもそも啓太が今眠くて眠くて仕方のない原因を作ったのは昨夜の和希だから、あまり強くも出られないのだ。 しょうがないなあと甘ったるい苦笑を浮かべた和希は、眠る啓太の傍らに腰を下ろした。 そうして寝癖で大変なことになっている柔らかな茶色の頭をぽんぽんと優しく撫でる。 「ほら・・・啓太。起きて、一緒に朝ごはん食べよ」 「・・・・ん・・」 「啓太?」 「・・・・・・・、・・・」 「おーい啓太ー」 「・・・・・」 だんだん反応が薄くなり、終いには呼んでも動かなくなってしまった幸せそうな寝顔を見下ろして。 「・・・・・」 ほんの少し考える間をおいてから。 和希はおもむろに屈み込んで、規則的な寝息に上下している無防備な首筋に鼻先を埋めた。 そうして。 「・・・・・啓太」 「っ!?」 感じやすい薄い皮膚をちゅんと優しくついばんで、最中にしかあり得ないとびきり甘い声で名前を囁けば。 びくんと飛び上がった啓太はたまらず慌てて目を開けて、和希から逃れるようにして、壁側に向かってころんと勢いよく寝返りを打つ。 「・・・なっ、なにするんだよ! もう!」 びっくりするだろ! と錯乱のあまりに涙目になりながら。 吐息の感触が残る首筋を押さえて、つむじまで真っ赤に熟させた啓太がきゃんきゃんと喚く。 けれどもそんな可愛いばかりの抗議の声は、和希にしてみれば嬉しいばかりで。 ほんとに啓太の反応は新鮮だよなあ、素直だよなあと、愛しげに目許をとろけさせる。 「啓太が起きないのがいけないんだろ」 「だ、だからって! だからって!」 それでも、声音だけで意味合いを理解できるようになったのは進歩なのかもしれないなと微笑ましく思いながら。 啓太が和希から離れた距離の分、身を乗り出して顔を寄せて。 息を詰めている啓太に向かって、和希はにこりと邪気なく笑んでみせる。 「・・・・感じちゃった?」 「―――――っ!!」 ますます大きく目を瞠るその額に、ちゅっと音を立ててキスをひとつ。 「ほら、もう5分たった」 云いながら差し伸べられる和希の手を、むくれながら見上げる啓太だけれど。 「啓太」 少し困った様子で首を傾げて、もう一度名前を呼ばれると。 啓太にはもう、不機嫌を保っていることはすっかり難しい。 続けていられなくなった不機嫌を、ほうっと吐いた息と一緒に手放して。 右手を伸ばして和希の手を取る。 すると身を起こしたご褒美のように、その指先にキスをされて。 それからもっと顔が近づいて、目許にもうひとつキスが降ってきた。 「おはよ、啓太」 笑みで告げられる毎朝の挨拶に、啓太はようやくくすぐったそうに笑って。 「ん・・・おはよう、和希」 繋いだ手を、きゅっと握り返した。 |