blanc 10 for lovers 05 「指先」白くて、細くて、すんなりと伸びた綺麗な指。 淡いピンク色をした形の良い爪の先までほんとにほんとに綺麗だけれど、その持ち主はこれでいて、己の外見に関して存外無頓着なところがあるから。 きっと、毎日欠かさず手入れをしている訳でも、専門のお店に通うだとかして時間やお金をかけている訳でもないと思う。 それなのにこんなに綺麗なんだから、正真正銘天然物の綺麗さということだ。 ほんとのほんとにすごい。 感動しながら見惚れていると、ひらり、とその手のひらが踊るように上がって。 ああ、見た目だけじゃなくて動きまで綺麗だなあ、と。 優美な動きをぼんやりと追っていると、その指先が、ゆっくりゆっくり近づいてきて・・・・・。 「・・・・・っ、!?」 とす、と眉間を突かれた。 啓太は軽く仰け反りながら元々大きな目を更に大きく瞠って、動きを追って寄り目になったままなすすべなく固まる。 「啓太は、本当に面白いな」 普通は避けるなり捉まえるなりしないか? と。 額に触れている指先はそのままに、心底興味深げに西園寺が云う。 いっそ笑ってでもくれれば「からかわないでください!」とかなんとか云い返すこともできようものの。 そんなふうにしみじみと、心から感心したように云われては、逆ギレをするタイミングさえも計れない。 「・・・・っ、そ・・それは、だって・・・っ」 はくはくと言い訳の言葉を捜しながら動揺しながら見上げた先には。 綺麗な指先に相応しい、艶やかに綺麗な笑みがある。 今は綺麗なだけじゃなく、どこか面白がるような光を浮かべた瞳の色は。 気に入りの玩具を目の前にした、気まぐれな猫化の動物みたいで。 初めから言い訳の準備なんかできていなかった啓太は、思わずこくんと息を呑んで、どうしようもなく黙り込む。 「だって、どうした?」 さあ云ってみろと、笑みを深めて問い詰める西園寺に。 こんな風に、こんなにも近くから見つめ、られ、たら。 「ぃ、え・・・あの・・・・っ」 「お前は本当に慣れないな」 啓太の動揺の理由も、さっきぼんやりしていた理由も。 きっと正しく知っている瞳が愉しげに細められて、西園寺がくすりと喉で笑った。 「毎日近くで、嫌というほど見ているだろう?」 澄んだエメラルドが悪戯っぽくきらめいて、目が離せなくなる。 からかわれているだけなのにこんなにもどきどきするなんて、なんだか不条理じゃないかなと思いながら。 啓太は困ったように眉をハの字にして、少々恨めしげにその顔を見返した。 「・・・慣れるようなものじゃないですよ」 「そうか? 私にはむしろお前のその・・・・・ああ、そうか」 なにごとか思い当たった風に頷きながらも途中で言葉を止めた西園寺に、どうしたんですか? と問いかけて。 フフとあっさり笑みでいなされた啓太の眉間が、困惑にまた少々曇る。 西園寺に云わせれば、変わることのないこの啓太の素直な気質こそが、天然物の珍しさなのだけれど。 どうやら啓太自身がそのことに気付くことはなく。 愉しみを最大限に生かす方法を知っている女王様が、種明かしなんかをしてみせるはずもない。 だから。 「啓太・・・」 意味深に名前を囁きながら、伸ばした指先でついと顎の先を持ち上げて。 ゆっくりと顔を寄せて・・・。 「・・・・っ、・・!」 緊張する気配を肌に感じながら、からかう調子で鼻先をはみと甘噛みすると。 啓太は驚いたようにきゅっと強く目を瞑ってしまった。 それでも躰が逃れずにいるのは、信頼のせいなのかどうなのか。 「本当に、可愛いぞ」 「〜〜〜〜〜っ」 耳朶への囁きに、しゅー、と音を立てる勢いで赤くなる頬を。 吐息まで触れそうな近い距離のままで、容赦のないきらびやかな瞳で見下ろす女王様が。 その指先に捕らえているのは。 唯一の、お気に入りのスイーツ。 |