noir 10 for lovers 02 「次の恋なんて考えない」テレたり慌てたり恥ずかしがったり、くるくると変化をするその表情を独り占めにしていたい。 好きで、本当に大好きで、いつだってどこでだって触れて、抱きしめて、愛を囁いていたいと望む気持ちのままに。 惑う合間も躊躇う隙も与えずに、いつもいつも恋心を注ぎ込んで。 君を僕だけの色に、染めてしまおう。 「愛していますよ、啓太くん・・・」 「・・・・・、・・」 夕食あとの、寮の僕の部屋。 お茶を飲んで、話をして、ふと訪れた優しい沈黙に乗じて。 頭の後ろに回した右手でやんわりと引き寄せた額にキスをして。 触れることでまたほんのわずか温度の上がった気のするそのぬくもりに、唇を触れさせたままムードたっぷりに囁いて。 その先の行為へと誘うようにもう一度、柔らかな頬を、形のよい可愛らしい耳朶を食んで、そうして耳の後ろの柔らかな肌を辿ろうとした唇は。 「? 啓・・・・・、っ・・!」 仰のいて動きを追ってきた啓太の唇に、むぎゅと力任せにふさがれた。 てい! とばかりに唐突に。 「・・啓太、くん・・・?」 さすがに意表をつかれて呆然として、酷く間抜けな顔をしているであろう僕を笑いもせずに、生真面目な顔が見返してくる。 「俺・・・っ、俺だってっ、愛してますっ」 そうして負けじと告げられる告白は、たいそう一生懸命な鼻息の荒いもので。 どこを探しても色気なんて欠片も見付けられないような、直球の愛情表現。 それでもくらりと目眩うような悦びを覚えてしまう辺り。 何物にも染まらない真っ白な彼の色に染められているのはもしかして僕のほうなのかもしれないと、おかしさと嬉しさと、どうしようもない幸せを覚えて。 「はい」 我ながらめろめろであろう笑みで頷いて答えると。 返ってくるのは言葉よりもよほど雄弁な、真正直な表情の変化。 目を丸くした啓太は次いで恥ずかしさに少し俯いて、凶悪なまでに可愛らしい恨めしげな上目遣いになりながら、ますます顔を赤くする。 「し、七条さんはずるいですっ」 「そうですか?」 「そ、そうですよ! いつだって余裕で、いつだって俺、ばっかり・・・っ」 「ありませんよ、余裕なんて」 愛しくて愛しくて仕方がなくて、どうしようもなくこぼれてしまった笑みに。 からかわれたとでも思ったのか、尖った眼差しのすぐ隣、ほの赤い頬にもキスを。 「今だって」 前髪をかき上げてあげると、向けられる拗ねたような眼差しには笑みを返して。 そうしてどうしても触れたくなってしまった生え際にも、ちゅ、とキスを落とす。 「君のキスで、心臓が止まってしまうかと思いました」 「・・・・・」 信じがたい、と向けられる半眼の眼差しを、フフフと笑んではぐらかす。 だって。 本当にずるいのは君のほう。 僕をこんなに夢中にさせて。 僕をこんなにも幸せにして。 「ねえ、啓太くん」 君がいるという、幸い。 君なしではいられないという、幸い。 こんな想いは、もうきっと2度と見つけられない。 両手にそっと包み込んだ、ほてった頬までがこんなにも愛おしい。 七条の笑顔の掴めなさに、困ったようなハの字になってしまっている眉も。 けれども困らせたいばかりではなく、今はこの幸せな気持ちを分かち合おう。 「大好きです。僕は君のことをいつだって本当に、愛していますよ」 裏も表もなく幸せな心地で笑んだ七条は。 言葉だけでは伝わりきらない想いの全部をたっぷりと込めて。 愛しい恋人の唇に、そっとついばむキスを。 |