noir 10 for lovers 04 「隠し損ねた欲望」学生会の煩雑期の煩雑さは並みの煩雑っぷりではない。 その集中力と処理速度は、事務作業というよりもむしろ肉体労働に近い程で。 机の上に乗り切らず、床の上にまで積み上げられている書類の山、山、山。 まさに猫の手でも借りたいようなそんな状況だから、猫の手よりもよほど重宝がられる啓太の手が、借りられずに済むはずはなく。 「ただいま戻りました。王様、文化部からの申請書集めてきましたよ。あと運動部のほうは、これから中嶋さんが行ってくるって云・・・!」 腕一杯に未処理の書類を抱えて扉をくぐると、奥に向かうために床に築かれた処理済の書類の山と山の間を通ろうとして。 絶妙なバランスで積み上げられているそれに危うくぶつかりそうになった啓太は、咄嗟に身体を捻って惨事を避ける。 そのせいでよろりと体勢を崩して。 そうしてすとんと座り込んだ先は。 「・・・・っ、わ・・・と!」 「お?」 学生会長席。もとい、学生会長席に座る学生会長の膝の上。 「す、すみませんっ、王様!」 身構えていた訳でもなかったくせに、丹羽は易々と、つまずいた勢いごと啓太を膝に受け止める。 対して急襲をかけた啓太のほうは丹羽よりも余程うろたえて、慌てて立ち上がろうとするけれど。 腕に書類を抱えていて両手がふさがってしまっているものだから、支えなしではなかなか立ち上がることができない。 「いや、俺はいいけどよ。お前・・・」 そんな風に。 顔を真っ赤にして膝の上でじたばたされたり。 「すぐっ、どきますからっ!」 こんな風に。 勢いをつけるためにか、一度丹羽の胸許に頬を摺り寄せてから。 てい! と反動を使って立ち上がろうとするがかなわずに胸に戻ってきたり。 「わわっ、わっ、す、すみませんほんとに!」 仕事づくしで心身ともに煮詰まっているようなこんな状況で。 いきなり、可愛い恋人に急接近なんぞを。 「な、なんで立てないんだよ! 俺!」 さ。 「あ! そっか、両手がふさがってるのがいけないんだ」 さ。 「置けばいいんですよね、これを・・・ここに」 されようもんなら、お前! へへへと誤魔化し笑いで腕に抱えていた書類を机に置いて、机の縁に両手をついて、よいしょと立ち上がろうとした啓太の。 空いた左右の手首を、がしりと丹羽の掌が掴む。 「・・・・・え?」 不思議そうに掴まれたその手首を見下ろして。 次いで顔を上げて、きょとんと顔を見返す啓太に。 「よくなくなった」 既にケモノ化している丹羽が顔を寄せる。 「へ?」 「よくなくなった。大丈夫でもなくなった」 「え、ちょ・・・王さ・・・っ」 「啓太・・・」 「へ? ええ――・・・っ!!」 1時間後。 運動部各部を廻って申請書集めを済ませてきた副会長に。 「お前たち、仕事がまったく進んでいないように見えるのは俺の気のせいか?」 と逃れようもない突っ込みをされるのは、お約束。 |