noir 10 for lovers 07 「俺のこと好き?」「ねえ啓太、俺のこと好き?」 「っ?!」 脈絡のない問い掛けに。 テーブル越し、幸せそうにショートケーキを頬張っていた啓太は顔を上げた。 そうして口の動きをすっかり止めて、元々大きな目をもっと大きく丸くする。 どうして啓太はこう毎回、思っていた通りの方向の、思っていた以上の反応を返してくれるのだろう。 可愛いなあ、と緩んでしまう顔の筋肉の制御をあっさりと手放して、和希はもう一度訊ねる。 「ね、好き?」 「――――・・・・、な・・なに云ってるんだよ、いきなりっ」 まぐまぐまぐと生クリームとスポンジ生地をどうにか噛み締めて飲み込んで。 頬杖をついた姿勢のままで軽く首を傾げてみせる和希に向かって、ケーキに乗っていたイチゴよりも顔を赤くした啓太が喚く。 その口の端についている生クリームを人差し指の先で拭って、ぺろりと舐めれば。 「・・・・・っ、・・!」 啓太はますます真っ赤になって、ぽすんと回線をショートさせた。 キスだって、それ以上のことだってもう幾度もしているというのに、啓太の根っこの初々しさはちっとも変わることがなくて。 恋人モードでの触れ合いにも、いつまでたっても慣れる気配がまったくない。 それでも、恥ずかしがっていることを和希に知られると、もっとずっと恥ずかしいことを云われたりされたりして、とても困るということは学んだようで。 啓太なりに一所懸命、誤魔化そうとしているのは分かるのだけれど。 その努力は実を結んでいるとはとてもとても云いがたく、一所懸命に頑張っている姿がまた、少し弄ってからかいたくなってしまうような有様なのだから仕方がない。 今のように不意を突かれれば誤魔化す余裕はなくなってしまうし、不意を突かなくとも、少し意味を含んだ眼差しでじっと見つめていれば、啓太はすぐに赤くなって「もう! なんだよ!」と可愛らしい癇癪を起こす。 これはもう、子供だ大人だと云う話ではなくて、単に気質の問題だろう。 「啓太が俺のことを好きなのは知ってるけど」 それでも和希はずるい大人なので。 当たり前のようにさらりと云って。 「そうやって嬉しそうにケーキ食べてるときなんかは、その瞬間だけで云えば、もしかしたら啓太は俺よりそのケーキのほうが好きなんじゃないかなーなんて考えちゃうんだよ」 ケーキをお土産に買ってきたのは和希だから、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけれど。 あまり美味しそうに食べられすぎると、ヤキモチを妬きたくなってしまうのだ、と。 頷いて告げる和希の顔を、顔を赤くしたままフォークを握り締めたまま、しばし見上げて見返して。 啓太はなにごとか、少し考える様子。 「でも・・・あのさ、俺」 そうして、ことりと首を傾げてケーキを見て。 「ケーキがあって、和希がいたら嬉しいし」 考え考え、まとめるように。 「和希だけいてもやっぱり嬉しいけど」 云いながら、もう一度和希の顔を見て。 「ケーキだけあって和希がいなかったら、寂しいって思うよ」 啓太はこくんと頷いてみせる。 ものすごく単純な、まるで「1+1=2」みたいな理論だけれども。 それを当たり前に云われると。 「啓太って・・・」 ちょっと驚いて、感動して。 そうしてすごく、嬉しくなる。 「やっぱり可愛いなあ・・・」 まいるよなあ、とメロメロになって幸せそうに笑う和希に。 「――――・・・っ、な、なんか、オヤジっぽいぞ和希!」 一生懸命考えて云ったのに揶揄のような言葉を返された啓太が、小さくキレる。 けれども啓太のその頬は真っ赤だし、和希の笑みは相変わらずだから。 キレてみせた意味なんて、ちっともなさそうなのだけれど。 「・・・・・もうっ」 和希なんか、ケーキにヤキモチ妬いてればいいんだ! と。 悔し紛れにケーキに集中をしようとする啓太を。 優しい笑みで見守っていた和希がもう一度、さっきよりももっとずっと甘い声音で問い掛ける。 「ね、啓太」 顔は上げないまま。 フォークを持つ手が、止まる。 「俺のこと、好き?」 返せる答えなんて、どうしようもなく決まってしまっている訳で。 どうしたって啓太には、和希を悦ばせることしかできそうにない。 「・・・・・」 そうっと向けた拗ね気味の上目遣いを、見返す和希の優しい眼差しに。 負けたような、幸せなような気持ちになりながら。 「・・・そんなの、決まってるだろ。俺は・・・っ」 啓太は素直な気持ちを。 大切な想いを、言葉にした。 |