ゆく年くる年年の瀬も押し迫った12月29日のこと。 啓太と和希と会計部の二人は揃って、学園島から少し離れた古都に来ていた。 小旅行がてら、年明け前にフライングの初詣ならぬ締詣に行くことが決まったのは、年内最後の会計部の仕事をつつがなく終えて、優雅にお茶会をしている真っ最中のことだった。 新年を、仕事をしながらNYで迎えなければならない和希と、例年通り家族揃って実家で過ごす予定なのだという西園寺、ナイショですと笑う七条に、静かになってしまった寮に残っていてもつまらないから俺も実家に帰りますという啓太は、どうやら同じ日に寮を出発する予定でいたらしい。 せっかく揃って出発するならば、少しぐるりと寄り道をして、近隣にある神社に参拝をしていこうということになり。 こうして学園島から少し離れたこの地へと、やってきている訳である。 「うわっ、わ――っ!!」 観光地のハトは大胆だ。 くるっくー、くー、くー、とローテンションにさえずりながら、本気の目をしたハトたちは、エサの入った小袋を片手におののく啓太の、頭を肩を腕を宿り木代わりに、ずっしりと鈴なりに乗り上げて、エサが撒かれるのを今か今かと待ち構えている。 「か、かずき・・・っ」 「しょうがないな。ほら、エサをこっちに・・・」 助けてと縋る目をする啓太に、苦笑をしながら和希が手を差し出した。 啓太は大急ぎで手を伸ばして、豆の入った小さな紙袋を和希に手渡す。 けれども・・・。 くーくー、くるっくー。 ハトはそのまま、啓太の躰にずっしりととまったまま緊張感を保って、今度は和希の手許に注目している。 「な、なんで俺のとこばっかり・・・っ」 エサは和希の手に渡ったというのになぜと、360度からのしかかるように寄せられるプレッシャーに啓太は半ば本気でおびえる。 「ははは、モテモテだな啓太ー、ヤケちゃうなー」 「かーずき! お前、ひとごとだと思・・・っ、わわ!」 ハトの気を引く風に、ほーらほーらと頭上でエサ袋を振って見せる和希に向かって、大声を出した啓太に驚いたのか、はたまたいつまでもエサを持たせるなという主張のつもりか。 啓太にのしかかったハトの群れが、ばっさばっさとその場で羽ばたいた。 その様子に、啓太ばかりかさすがに和希も目を剥いて、少々逃げ腰気味になる。 そんな。 ハトと真剣にやりあっている和希と啓太を、僅かに離れたところで見守っているのは会計部の二人。 「微笑ましい光景ですね」 「いつまでもエサを持っているからたかられるのではないのか、あれは」 さっさとエサを撒いてしまえばハトも離れるだろうに、と。 冷静なツッコミを入れるのは西園寺だ。 「ええ、伊藤くんはともかく、頭がいい割にどこか抜けていますよねあの人は」 ともかく、と啓太を甘やかす口調の七条は、けれども和希には手厳しい。 なぜ「ともかく」なのかと理由を尋ねれば、げっそりするくらい甘い顔と甘い声で「だって伊藤くんですから」という答えが返ってくることを正しく予測して、西園寺はやれやれと口をつぐんだ。 そうして。 「ですが、まあ・・・」 続く七条の言葉に、何気なく顔を向ける。 「ですがまあ、バカボンのパパのIQは300だといいますし」 「・・・・・」 理事長同様、知能パラメータが振り切れている身としては、すんなりと聞き流すことも難しく、西園寺は複雑な表情で眉をしかめる。 「臣、それは私も含めてという意味か?」 「いいえ、単なるバカボンのパパのお話ですよ」 「ほう・・・」 二人の間に落ちた微妙な沈黙を破るように。 ようやくエサにありついたハトたちが、ハンターさながら豆に向かって特攻を始めた。 師走であろうと年末であろうと、おそらくは年が明けても。 きっと変わらないそれぞれのマイペースのまま。 にぎやかに年が暮れていく。 |