帰り道・篠宮ver.



 学校帰り、寮へと向かう並木道。
 冬の陽は落ちるのが早いから、辺りはもう暗くなり始めている。
 けれども物寂しい気持ちは季節のせいだけではなくて。
 なんとなく力が出ない気がするのも、夕飯間際でお腹が空いているせいだけではきっとなくて。

 今日は会わなかったな。

 しょんぼり思って、小さくせつなく息をついて。
 啓太は眉をハの字にする。

 学年が違うから、仕方のないことだけど、でも。
 お互いに何かと理由を作って顔を見に行く努力を怠らないから、大抵、校内で1日1回は会うというのに。
 今日は・・・。

 もうひとつ息を吐いて、俯いていた顔を上げる。と。

「? あれ・・・?」

 並木道の少し先に、見知った背中を見付けた。
 それが誰かと頭で認識する前に、胸がとくんと高鳴って、気持ちがふわりと舞い上がる。
 感情にとんと背中を押されて、啓太の革靴の底が地面を蹴った。

 駆け寄って。

「篠宮さん!」

「・・・っ、伊藤っ?」

 振り返った篠宮が、驚いた顔をしながらも多分とっさに差し出してくれた右腕に。
 駆ける勢いのまま啓太は、ぎゅっと両手でしがみつく。
「・・・・・っ」
 しっかりと受け止めてくれた力強さに篠宮の存在を確かめると、嬉しくて嬉しくて、ふにゃりと頬が緩んでしまう。
 溢れそうな嬉しい気持ちのまま、しがみついた腕を放さずますますぎゅぎゅうと抱き込んだら。
「・・・まったくお前は」
 驚いたじゃないか、と軽く頭を小突かれた。
 こんな甘やかす口調では、少しも注意の役目を果たさないのだけれど。
「・・・後ろから篠宮さんが歩いてるのを見付けたんです」
「ああ」
「ちょうど俺、今日は学校で篠宮さんに会えなかったなって考えてて。寂しくて、でも半日会えなかったくらいで寂しいなんて思うのも情けないかなって思って、それで」
「うん」
「もっとしっかりしないと、篠宮さんの半分くらいでもしっかりしないとダメだなって考えたんですけど」
「そうか」
「そういう考えてたことが・・・篠宮さんを見付けたら全部どこかに飛んでっちゃいました」
 そうしてへへへとテレたように笑う。
 軽く息を弾ませながら頬をほてらせながら、真っ直ぐに顔を見上げて一息に告げる啓太の言葉を最後まで聞かされて。
「・・・伊藤」
 たまらないように名前を呼んだ篠宮が、ぎゅうと力いっぱい啓太を抱き締めた。
「・・・まだ、寂しいか?」
 囁くような問い掛けに、腕の中で啓太がかむりを振る。
 ほう、と白く吐く息は、せつないため息ではなくて満ち足りたそれ。
 篠宮の方こそ、満たされた心地になる。
 本当は・・・篠宮も啓太と同じことを考えながら、この道を寮へと向かっていたのだと。
 教えるのは暖かい場所についてからでも充分間に合うだろう。
「それじゃあ、一緒に帰るか」
「はい! それから、夜ご飯も一緒に食べていいですか?」
「勿論だ。それから、宿題を一緒にやろうか」

 それから。
 それから・・・。

 手を繋いでぬくもりを分け合いながら。
 嬉しいばかりの予定を話し合いながら、二人は寮へと歩き始めた。