帰り道・丹羽ver.



 学校帰り、寮へと向かう並木道。
 冬の陽は落ちるのが早いから、辺りはもう暗くなり始めている。
 けれども物寂しい気持ちは季節のせいだけではなくて。
 なんとなく力が出ない気がするのも、夕飯間際でお腹が空いているせいだけではきっとなくて。

 今日は会わなかったな。

 しょんぼり思って、小さくせつなく息をついて。
 啓太は眉をハの字にする。

 学年が違うから、仕方のないことだけど、でも。
 お互いに何かと理由を作って顔を見に行く努力を怠らないから、大抵、校内で1日1回は会うというのに。
 今日は・・・。

 もうひとつ息を吐いて、俯いていた顔を上げる。と。

「? あれ・・・?」

 並木道の少し先に、見知った背中を見付けた。
 それが誰かと頭で認識する前に、胸がとくんと高鳴って、気持ちがふわりと舞い上がる。
 感情にとんと背中を押されて、啓太の革靴の底が地面を蹴った。

 駆け寄って。

「王様!」

 残り数歩のところで声を掛けたら、足を止めた王様がゆっくり振り返ってくれた。

「よお、啓太か」
「王様も、今帰りですか?」
「ああ、今日は中嶋につかまっちまってな」
 こんな時間まで学生会のお仕事だぜ、と苦笑い。
 そうして、ようやく追いついて隣に収まった啓太の頭を、くしゃくしゃとかきまわす。
 大きな掌の優しい感触と、啓太を見下ろす嬉しそうに細められた目許に、あんなにもしくしくと寂しかった胸のうちが簡単にすっかり満たされてしまって。
 王様はやっぱりすごいなあと、想う。
「はーら減ったなあ」
「そうですね。でも寮に帰ったらすぐ、ご飯食べられますよ」
「おう! 啓太、今日の晩飯なんだか知ってっか?」
「あ、俺、今朝チェックしてきました、献立!」
 並んで歩く高い位置にある顔を得意げに見上げれば。
 向けられるのは、わくわくと期待に満ちた王様の眼差し。
 用意しているのが、王様が喜ぶ答えだろうなあと予測できるから。
 啓太はにんまり笑ってしまいながら、もったいぶって人差指を立てて。
「肉です! ハンバーグ!」
「おー!! そうか肉か!」
 本当に嬉しそうな笑顔になった王様に、わしわしわしとまた頭をかき回された。
 ハンバーグを作るのは食堂のおばちゃんなんだけど・・・なんだかちょっと役得かな、とされるまま頭をあずけたまま啓太も目を細める。
 王様の感情表現はときに、啓太よりもよっぽど分かりやすくてストレートだ。
「そうと分かりゃー急いで帰るぞ啓太!」
「え・・・あ、は、はい!」
「寮までダッシュだ、ダッシュ!」
「えええええっ、走るんですかっ?!」
「おう! ほら、それ貸せ。行くぞ!」
 展開の早さに目をまわしかけている啓太の手から、ぐいと鞄を奪ってしまい。
 促すように、背中の真ん中をばんと叩いて。
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいってば王様! なにもっ、走らなくてもーっ!」
 ハンバーグはなくなったりしないですってば―――っ!!!

 情けなく喚きながらも後に続いて走りだす啓太に。
 さりげなく歩調を合わせてやる辺りが・・・王様である。