読書の・・・?・七条ver.





 ゴンっ!

「っ!?」

 衝撃と、間近に聞こえた小さいとは云い難いなんらかの衝突音に、啓太は驚いて瞬いた。

「・・・・・」

 目の前にあるのは机と思しき木目。
 そのうえ、額がなんだかじんじんする。
 どうやら衝突を起こしたのは、啓太の額とこの木目の机らしいと気がついて。
 そういえば自分は今、読書をしていたはずだったと思い出す。
 それがついついうとうととしてしまって・・・。

「ぃ、たた・・・」

 右手の人差指で額を擦りながら顔を上げると。そこには。

「・・・大丈夫ですか?」
「し、七条さん!」

 くすくすと、楽しそうに笑っている七条がいる。
 啓太は元々丸くなっていた瞳を更にまん丸に瞠って。

「み、見てたんですか?」
「ええ、止めそこないました。ごめんなさい」

 謝ってみせる七条はけれども彼にしてはとてもとても珍しい、本心から楽しそうな幸せそうな笑みを浮かべているものだから。
 啓太は、怒ってみせることはおろかテレることすら忘れはてて。
 半ばぽかんと、七条のその笑みを見返してしまう。

「大丈夫でしたか?」

 そんな啓太の無防備な表情に、更にくすりと笑みを深めて。
 もう一度尋ねた七条が右手を伸ばして、まだじんじんとちょっと痛い気のする額を、するりと指先で撫でてくれる。

「ぅ・・ぇ、ぁ・・・は、はい、大丈夫、です・・・」
「本当に、きみと一緒にいるのは楽しいですねえ」
「・・・・・」

 揶揄でもなく、しみじみと本気らしいそんな呟きに。
 じわりとまた頬を熱くしながら。
 楽しいかどうかは分からないけれど、あなたといると俺もとてもとても幸せなんですよ、なんて。
 心の中で呟き返した啓太のその声は、目の前でにこりと笑うこの悪魔には。

「・・・嬉しいですね」

 きっときっと、お見通し・・・。