読書の・・・?・篠宮ver.





 ゴンっ!

「っ!?」

 衝撃と、間近に聞こえた小さいとは云い難いなんらかの衝突音に、啓太は驚いて瞬いた。

「・・・・・」

 目の前にあるのは机と思しき木目。
 そのうえ、額がなんだかじんじんする。
 どうやら衝突を起こしたのは、啓太の額とこの木目の机らしいと気がついて。
 そういえば自分は今、読書をしていたはずだったと思い出す。
 それがついついうとうととしてしまって・・・。

「ぃ、たた・・・」

 啓太は右手の人差指で額を擦りながら、ゆっくりと顔を上げる。
 すると。

「どうした? なにか今すごい音が・・・」

 聴こえたようだが? と。
 簡易キッチンでお茶の用意をしていたらしい篠宮が、ひょいと顔を覗かせて。
 眉をハの字にして額をさすっている啓太の様子に、どうやらあっさりと事態を把握したらしい。
 啓太の困ったような表情と、篠宮には起こりえない突飛な事態に、ぷっと思わずのように吹き出して。

「大丈夫か・・・?」

 くすくすと笑いながら、湯飲みを二つ乗せたお盆を持って、啓太の脇へと膝をつく。

「はい・・・ちょっと、びっくりしただけです」
「本当に、お前からは目が離せないな」

 テレくさそうに笑ってごまかす啓太の前髪を、篠宮の指先が、するりと優しくかきあげて。
 気遣わしげな眼差しが、少しだけ赤くなっている気のする額を、慎重に確かめるのに。
 啓太も思わず黙り込んで、見えはしないけれど、上目遣いに自分の額の様子をうかがって数秒・・・・・そうして同時に、少しだけ落とした眼差しが。
 ちょうどにぱちりと、近い距離で合わさって。甘く、とろける。

「伊藤・・・」

 低く囁くような、吐息のような声音に名前を呼ばれて。
 啓太はそうっと、まぶたを閉じた。

 優しい感触がそっとくちびるに触れるまで、もうあと、ほんの少し・・・。