読書の・・・?・岩井ver.





 ゴンっ!

「っ!?」

 衝撃と、間近に聞こえた小さいとは云い難いなんらかの衝突音に、啓太は驚いて瞬いた。

「・・・・・」

 目の前にあるのは机と思しき木目。
 そのうえ、額がなんだかじんじんする。
 どうやら衝突を起こしたのは、啓太の額とこの木目の机らしいと気がついて。
 そういえば自分は今、読書をしていたはずだったと思い出す。
 それがついついうとうととしてしまって・・・。

「ぃ、たた・・・」

 啓太は右手の人差指で額を擦りながら、ゆっくりと顔を上げる。
 するとそこには、ぱちくりと驚きに目を丸くした岩井が、スケッチブックに向かって鉛筆を構えていて。
 えええとなんでここにこうしているのだっけと考え込む啓太と向き合ったまま、二人は一緒になってしばし固まる。

「大丈夫、か、啓太・・・」

 そうしてどうにか、わずか一歩先に我に返った岩井が尋ねるのに。

「は、はい、すみません俺・・・ドジで・・・」

 あはは、と啓太はごまかし笑いだ。
 岩井さんみたいに落ち着いている人から見たら、俺の動作一つ一つはさぞや滑稽に映るのだろうなあと、少々いたたまれない気持ちになりながら。
 けれども、啓太のそのはにかんだような表情を、岩井はとても眩しそうに見返している。
 黙ってしまった岩井を訝って、啓太はきょとんと首を傾げた。

「・・・岩井さん?」
「啓太は、本当に魅力的だな」
「っ、ぇ・・・っ?!」

 しみじみと告げられる唐突な言葉に目を剥いて、啓太は頬から耳へとかああと一気に赤くなる。
 本を読んでいる途中で寝コケて、挙句に伏した机に額をぶつけて驚いているような自分のなにに対して魅力的だなんて云ってもらえるのかが分からずに。
 けれども啓太のそのおろおろとした様子に、岩井の笑みはまたいっそう深くなって。

「そうやって・・・一瞬たりとも、同じ表情でいることがない」

 芸術的見地からの意見なのか、テレることもせずにするするとそんなことを云う。
 そうして、スケッチブックと啓太とを、一度ゆっくり見比べて・・・とても、幸せそうな表情で優しく笑った。
 だから啓太もなんだか、嬉しくなる。

「ああ、そうだ啓太・・・保健室に、行くか?」
「ぃ、いえっ! こんなの全然、大丈夫ですからっ」

 テンポや順序の違う気のするやり取りは。
 けれどもお互いを想う気持ちに彩られているから。

「そうか・・・だったらもうしばらく啓太を描いていても、構わないか?」
「勿論です」

 それじゃあ仕切りなおしでと、テレ笑いで本を読み始める啓太と。
 嬉しそうに頷いて、そんな啓太のスケッチを再開する、岩井。

 とろとろと温かな、穏やかな時間を、もう少し・・・。