読書の・・・?・和希ver.





 ゴンっ!

「っ!?」

 衝撃と、間近に聞こえた小さいとは云い難いなんらかの衝突音に、啓太は驚いて瞬いた。

「・・・・・」

 目の前にあるのは机と思しき木目。
 そのうえ、額がなんだかじんじんする。
 どうやら衝突を起こしたのは、啓太の額とこの木目の机らしいと気がついて。
 そういえば自分は今、読書をしていたはずだったと思い出す。
 それがついついうとうととしてしまって・・・。

「ぃ、たた・・・」

 右手の人差指で額を擦りながら顔を上げると。そこには。

「・・・・・大丈夫か啓太」

 驚いた顔をして目を丸くしている和希が、書類を片手にテーブル越しの向こう側に座っている。
 そうだった。
 和希が寮の部屋で仕事するというから、終わるまで本を読みながら待っているつもりが・・・いつの間にか寝てしまったらしい。
 本当に、和希にはいつもこんな情けないところばかりを見られている気がする。

「うん、平気・・・ちょっとびっくりしたけど」

 テレ笑いで誤魔化してみれば。
 驚き顔だった和希がおかしそうにぷっと吹き出して、そうしてふわりと、どこか緊張感を漂わせていた仕事中の表情が、和らいだ。

「まったく・・・びっくりしたのは俺の方だよ」

 云いながら、おいでおいでと手招かれるまま、啓太は机を回って和希の脇へと。
 仕事の邪魔をしてしまうかなとも思ったけれど、ほんの少しだけ少しだけ、と。
 心の中で言い訳をしておいて。

「文化祭の準備で、無理してるんじゃないのか?」
「ん・・・ちょっとだけ」

 否定はできないから、少し困った顔で笑ってみせれば、するりと和希の手のひらが頬に触れる。

「お前のちょっとは当てにならないからなあ」

 そう云って苦笑気味に、首を傾げるから。

「和希こそ、仕事、忙しいじゃないか」
「そうだけどさ、でも・・・」

 和希の両腕にやんわりと抱き寄せられるのに、抗わずに力を抜いて。
 啓太はその肩口に、ことんと頬をあずけてしまう。

「俺はこうやって、啓太を補充すれば万全だから」

 耳朶をくすぐる、冗談めかした甘い声に。
 気持ちごと、とろりと眼差しをとろけさせた啓太は。
 もう少しだけもう少しだけ、と。
 和希の背を、そうっと抱き返した。