冬の晴れたある日のこと。 4時間目の授業中、幸か不幸かぽかぽかと暖かくて居心地の良い窓際の席で、啓太はもぐもぐとあくびを飲み込んだ。 そうしてどうにか眠気を振り払おうと、窓の外へと視線を向ける。 と。 校庭では、2年生が体育の・・・走り高跳びの真っ最中。 順番待ちの列には、大好きな恋人の姿がある。 その姿を目にした途端、現金なことに啓太の眠気は、一瞬にしてどこかへ行ってしまう。 啓太が成瀬を発見するのと同時に、あちらも啓太に気付いたようで。 成瀬を取り巻く空気がぱああと見た目にも分かるほど華やいで、ぱちんとウィンクまで飛んできた。 ふにゃりと頬が緩みそうになったから。 啓太は慌てて俯いて・・・でも、その態度はもしかして成瀬を避けたと誤解をされてしまうかもしれないと、慌てて顔を上げるともう一度窓の外を見る。 すると、誤解をされるどころかくすくすと笑っている成瀬が今度は。 「か・わ・い・い」 と、一言区切りで告げてきた。 も、もう・・・成瀬さんは・・・。 啓太はすっかり熱くなってしまった頬を、するすると指の背でこする。 そんな啓太に、成瀬は今度は問いかける調子。 「お・ひ・る・は?」 「な・い・で・す」 答えを返しながら、左右の人差し指を使って胸の前で小さくバッテンを作って見せると。 成瀬は嬉しそう笑って。 「いっ・しょ・に」 自分の胸元と、啓太の方とを順に指差して、首を傾げてみせる。 啓太には、断る理由なんか勿論なくて。 へへとテレ笑いをしながら、こくんと大きく頷いた。 そこで、成瀬の飛ぶ順番が来て。 ちゅっと啓太に向かって投げキッスを飛ばしてから成瀬は、挑むような眼差しを高飛びのバーのほうへと向ける。 助走から、踏み切り。 身体を反らしてきれいにバーを飛び越える成瀬の姿に。 思わず見惚れる啓太の胸が、どきどきと高鳴る。 成瀬の大きな身体がふわりとマットに沈むのに、無意識に詰めていた息をほうっとついて。 あ、そういえば授業中だったっけと、すっかり眠気をどこかへやってしまった啓太がゆっくりと前を向くと・・・・・目の前に、白衣。 「・・ぁ・・・」 そのうえクラス全員のからかうような視線が、揃ってこちらに向いている。 「ぅ、海野、先生・・・」 「もうー、伊藤くんはー」 そろそろと見上げる啓太に、海野はぷっと頬膨らませた。 「お昼休みは成瀬くんと約束しちゃったみたいだから、放課後、職員室まで来るように!」 それでも成瀬さんとの約束は優先してくれるんですねと、ありがたいやら申し訳ないやら恥ずかしいやら、啓太は耳まで赤くしながら、はいと小さく頷いた。 |