冬の晴れたある日のこと。 4時間目の授業中、幸か不幸かぽかぽかと暖かくて居心地の良い窓際の席で、啓太はもぐもぐとあくびを飲み込んだ。 そうしてどうにか眠気を振り払おうと、窓の外へと視線を向ける。 と。 校庭では体育の授業、野球の試合の真っ最中。 それが3年生だと気付くと同時にくるりと視線を巡らせて、すぐに啓太は、ネクストバッターズサークルに恋人の姿を見つけた。 有り余る存在感を振りまきながら、豪快に軽々と3本のバットを振り回している。 昼前だとは思えないパワーの漲りっぷりだ。 その姿を目にした途端、現金なことに啓太の眠気は、一気にどこかへ行ってしまう。 3本から1本に持ち替えたバットで数度素振りをしてから打席に入る丹羽は、きっとなにかをしてくれそうで。 高まる期待感に、啓太はわくわくと胸を騒がせた。 すると、一生懸命に見すぎていたせいか、ふと丹羽の視線こちらを向く。 そうして啓太を認識する気配。 丹羽はにかりと不敵な笑みを浮かべると、手にしたバットで啓太のほうを指し示した。 くすぐったい気持ちで、啓太はへへへと笑みを返す。 「―――――っ!」 「〜〜〜、〜〜・・・」 その直後に、なにごとか篠宮に嗜められているらしい様子。 多分、授業中の伊藤に声を掛けるなとか邪魔をするんじゃないとか、そもそもそんな方に打ったら窓が割れるだろうとか云われて怒られているのだろう。 丹羽の周りはいつでもどこでも賑やかだ。 楽しそうだなあと、啓太はくすくす笑って頬杖をつきなおす。 気を取り直してバッターボックスに入った丹羽と、十数メートルの距離を挟んで向き合うピッチャー。 その顔には、啓太も見覚えがあった。 あの人、確か野球部のエースのはずだけど・・・。 王様、打てるのかなどうなのかなと、息を呑んで見守る啓太の視線の先で。 振り被ったピッチャーが、しなる腕から1球目を投げた。次の瞬間。 カキーン! 投球を真っ芯で捉えた澄んだ音が、高く、青空に心地よく響いた。 ボールは大きく綺麗な弧を描いて、啓太の頭上・・・つまりは校舎の屋上を越えて飛んでいく。 丹羽の予告どおりに。 「わあ・・・」 ホームランだ・・・っ! 丹羽はいつだって本当に期待を裏切らない。 すごいなあと感動しながら大きくついた息が、斜め上辺りから聞こえてきた吐息と重なった。 「すごいねえ・・・」 しみじみと呟かれたその声に、うっかり頷いて同意しかかったところで・・・啓太ははたと我に返る。 そ、そうだった。 授業中・・・・・。 伺う眼差しをそろりと上げると。 目の前には、頬を膨らませて両手を腰にやってぷんすかと可愛く怒っている生物教師が立っている。 すみません、と口に出しかけた言葉は・・・。 がしゃん! と、遠くから聞こえてきた破壊音のせいで声にしそこねた。 あ、あれはもしかして・・・ガラスが割れた音? 方向からして、ボールの飛び具合からいって、被害にあったのは職員室辺りではないだろうか。 すると啓太と同じ結論にたどり着いたらしい海野が、しみじみと呟く。 「あー・・・丹羽くんも、お昼休みは職員室かなあ」 丹羽くん「も」。 どうやら本日の昼休み。 職員室は大盛況の様相である――――・・・・。 |