君の体温「そういえば俺たち、寮の部屋でしたことないですよね」 と云ったら。王様が文字通りお茶を吹いた。 「―――――っ?! ・・・っぷは、け・・・啓太、おま・・・・・っ」 「うわわわっ?! すみません王様っ、大丈夫ですかっ?!」 カフカフと咳き込む大きな背中を軽く叩きながら、少し反省する。 思い浮かんだまま、唐突に云うべきことじゃなかった。 というか、云った後に気付いた自分の言葉の突拍子もなさに、啓太も思わず赤面する。 でも。 最初は海で。 その次は掘っ立て小屋。 なんてワイルドな恋人同士なんだろうかと、軽く途方に暮れたくなるのも本当で。 いつだって好きで好きで仕方がないと思ってるのは、俺だけなのかな。 ほとんどのことを余裕でこなしてしまう王様が、実は恋愛ごとに関しては他のことほど余裕がないらしいと気付いたのは、そういう意味で付き合い始めてから。 だからって王様が、盛り上がった気持ちと雰囲気に流されて俺と付き合ってくれてるんだなんて、考えたくないけど。 好きだって云ってくれた言葉を、信じていたいけど。 でも・・・。 ひらり、と。 王様が口許の拭ったらしいブルーのタオルが、視界で動くのに我に返った。 「啓太・・・」 大きな手に、ぐいと頭を引き寄せられて。 あれ、と思ううちに王様の胸に転がり込む。 「お前が煽るようなこと云うから」 とくとくと、頬を押し当てた胸から聴こえる王様の鼓動がいつもより早い。 「啓太が欲しくなった」 責任取れ、と呟く王様の顔が見たいのに。 テレた顔を俺に見せないために、こうやって頭を押さえられてるんだろうな・・・。 そう思ったら。 愛しい気持ちと、王様をかわいいと想う気持ちが胸にぎゅうっと集まってきて。 「俺だって、王様のことがいつだって欲しいです。でも・・・俺ばっかりだと思ってたから」 「んなわきゃねーだろ」 そりゃ俺のセリフだ、と。 コツ、と頭を小突かれて。 なんだ、同じことを考えていたんだ、って。 くすくすと、どちらからともなく笑いが漏れて。 僅かに力が緩んだ隙に、そうっと顔を上げてみる。 ぶつかった眼差しが、一緒に混ざってやんわり溶けて。 吸い込まれるように近づいた距離のまま、ちゅっと唇同士が触れ合った。 じゃれ合うみたいに、唇に、鼻先に、瞼に、眼の縁に、頬に。 王様の唇が触れるたび、ぽうっと内側から熱がともる。 「しても、いいか・・・?」 少し余裕のない声で云う王様の顔を見返して。 「云ったじゃないですか・・・俺は、いつでも王様が欲しいです」 恥ずかしさに頬を熱くしながら、それでも伝えたい言葉をちゃんと渡すために、真っ直ぐに王様の目を見詰める。 テレたように嬉しそうに目許を和ませて、サンキュ、と囁いた王様の。 力強いその腕の中に、大切な宝物のように抱き上げられた。 「啓太、好きだ・・・お前のことが・・・」 好きだ、と低い囁きを幾つも落として。 しっとりと柔らかな啓太のクセ髪を、丹羽の大きな掌が梳いて辿る。 その心地よさに目を細めながら啓太は、甘える子猫の仕草で仰のいて、伸ばされた丹羽の腕に唇で触れて。ミルクを舐めるような小さな音を響かせて、鍛えられた硬い肌を吸う。 「・・・王様・・・・すき、だいす・・・・・っ、・・ン」 幼さを残すたどたどしい挑発に逆らいきれず、乗り出した身体で覆い被さるようにして啓太の唇を奪う。 もどかしく歯列を割り、唾液を含ませた舌で口腔深くを探るうち、混ざり合ったそれを啓太がこくりと嚥下する。 胸の下に閉じ込めた躰は、いつだって丹羽の蹂躙を拒まない。 その従順さをいいことに、丹羽の指が、組み伏せた躰を包むシャツに伸びる。 ボタンをすべて外して脱がせるときには、啓太も自分から腕を抜いて手伝った。 促した通りに腰を浮かせた啓太の、下着ごと膝まで下ろして、あとは脚を使ってベットの下へ脱ぎ落としてしまう。 蛍光灯の光の下、見られることの羞恥に薄桃色にけぶる啓太の肌は、丹羽に一種の感慨さえ抱かせる。 この温もりの前では余裕なんかいつもなくて、自分はむさぼり、与えられる一方だ。 せめて理性の残っている今だけは、優しく、快楽だけを渡したいのだと、神聖な心地で薄い胸に唇を落とす。 「・・・・・あ・・・んっ、ぁ・・っ・・・!」 淡い色をした小粒の突起を吸うと、啓太はなにか酷い仕打ちでもされたみたいな悲鳴を上げて、胸許に伏せる丹羽の頭を抱きしめる。 力の入らないその指先は、先を促すように、悪戯を止めるように、どちらとも受け取れる曖昧さで丹羽の硬い髪に絡み、かき乱す。 「なんだ啓太・・・止めてほしいのか?」 それとももっと? と、からかうような笑みを含んで問い掛ければ、啓太が恨めしげな眼差しを向けてくる。 熱に潤んだそれが、相手にどんな想いを抱かせるかなど知らぬままに。 「だから、煽んなって・・・云ってんだろうが」 苦笑混じりに告げて。 ずくん、と強く脈打ち育った欲望を、啓太のそこに押し付けた。 布越しにも存在の分かる、同じように感じて、既に熱を帯びた啓太自身。 悦楽を隠し切れない素直な反応が可愛くて、愛おしさに笑みがこぼれる。 そうして焦らさず、片手を伸ばしてそこを包んでやる。 「・・・っ?! ゃ・・・・おうさま・・・あっ、ぅ・・・っ」 ひくんと腰をうねらせて逃れようとする動きを、許さずに重みを掛けて封じた。 押さえ込んだまま、柔らかな先端を親指の腹でゆっくり円を描いて愛撫すると、啓太の口からはきりもなく甘くかすれた喘ぎが零れる。 逃げ場のない啓太がせつない表情でいやいやとかむりを振ると、眦に涙の粒が生まれて。 雫が頬を伝って零れる前に、唇で舌先で幾度もそれを拭う。 「気持ちいいか、啓太・・・」 「・・・んっ・・・ぃ、・・・・・っ、い・・・っ」 理性までとろけさせて縋ってくる指先は心もとない。 ぎゅっと瞼を閉じて幾度も頷きながら、もどかしげに小さく腰を揺らす動きに合わせて、掌に包み込んだそれをゆっくりと扱き上げる。 丹羽の手を濡らす啓太の蜜が、扱かれるリズムでくちゅくちゅと淫猥な音を響かせる。 「イっていいぞ、ほら・・・」 耳朶に直接流し込まれる甘い囁きと、促す大きな掌に誘われて。 「ゃ・・・ぁあっ、・・も、っ・・・――――っ!」 啓太は抗う間もなく、丹羽の手の中で欲望を解き放った。 解放の名残に浅い呼吸を繰り返す啓太の上で。 半身を起こしてシャツを脱いだ丹羽が、ジーンズのベルトを緩めてファスナーを降ろして。 露になった丹羽の男らしい輪郭に、啓太が思わずこくりと息を飲む。 「啓太・・・」 逆光になってしまって表情は見えないけれど。 それでもその優しい声音からは、丹羽の想いが溢れていて。 大好き、大好き、大好き・・・。 呼応して胸を満たす幸せな想いのままに。 降りてくる丹羽の身体を、啓太は両腕を差し伸べて受け止めた―――――。 身体ごと、気持ちの交換こをするのに場所なんか関係ないんだって分かった。 俺は単純だから、王様がいれば、いつだってどこだって幸せなんだって。 でも。 ぬくぬくと、同じベットで朝まで眠っていられる温かさは。 やっぱり少し特別かなと、眠り顔に訪れた、幸せな笑み・・・・・。 |