noir 10 for lovers 02 「吐息を重ねる瞬間」





「―――――・・・・っ」

 躰全部で恋人の重みを受け止めて、啓太はほうっと深く息をついた。
 まだ、愛し愛されるこの行為に慣れていない啓太が、最後までこうして意識を飛ばさずにいられることは、実はとても珍しい。

「・・・大丈夫ですか?」
「っ・・・・、は・・はい・・っ」
「無理はしないで。もう少しこのままで・・・」

 ね、と。
 やんわりと、重なったままの躰を腕の中に優しく抱きしめられながら、吐息まで触れてしまうこんな距離で、愛しげな笑みを渡されるのにも勿論まだ慣れていなくて。
 こんなにもどきどきとしてしまっている今を思うと、慣れることができるのかかどうかさえ、怪しいという気がしてくる。

 恋人の全部を独り占めしていると、無条件にそう感じられるこの瞬間はとても幸せなのだけれど。
 労わられたりからかわれたりしながら、話をしたりキスをしたりすることは、恥ずかしくてたまらない。
 翻弄されて、夢中になって、訳が分からなくなってしまっている最中はまだしも。
 こんな風に、高まりきった熱が引いて、少しだけ理性が戻ってくると、重なる汗ばんだ肌の熱さをどうしようもなく意識してしまう。

「・・・・・啓太くん・・」
「・・・っ・・」

 息が整わないままそうっと眼差しを向けると、啓太を映すとろけるように優しい瞳がもっとずっと優しく笑んで。
 意識を飛ばさずに最後の瞬間を一緒に感じられたことへのご褒美のように、甘い甘いキスをくれる。

「・・・、・・・・・ふ・・・っ、・・」

 煽るようではなく、なだめるような優しいキス。
 どこがどんな風に違うのか啓太には分からないのだけれど、確かに始まりや最中とは違っているキスは。
 くったりと疲れきった躰だけではなくて、まだ熱を帯びたまま震えているような心までも、満たしてくれるようで。

「・・・・・・ん・・、・・・っ」

 唇、鼻先、頬を辿って。
 ちゅ。と音を立てて閉じたまぶたにもキスが落ちる。
 ぬくもりのくすぐったさに、ぱちぱちと瞬く啓太に、フフと笑って。

「駄目ですよ。そんな可愛らしい顔をしては」

 また、欲しくなってしまいます、と。
 七条はゆっくりと、まだ繋がったままの腰を甘く揺らした。

「・・・・ぁ・・・・・・っ、・・・」

 深くに受け入れた熱を意識した途端、柔らかな内壁がきゅっと七条を締め付けて。
 常よりも敏感になっているそこは、小さな刺激にもたやすく震える。

「・・・・・、ゃ・・っ」

 制御できずに反応してしまう自分の躰を戸惑うように、眼差しを揺らす啓太の震える背を。
 なだめるように七条は、大きな手のひらでゆっくりと撫で下ろした。

「力を抜いていてください」

 できますか? と頬を撫でながら問われて。
 どこか心許なく、それでも顔を熱くしながらこくんと頷いてみせる啓太に。
 愛しげに笑んだ七条は、「いい子ですね」と目許にキスをおとす。
 そうしてやんわりと腰を抱かれながら、ゆるゆると抜き出されていく感覚に息を詰める啓太の。

「・・・、・・・・・」

 せつなげに眉根を寄せる表情と、すがる指先にきゅうっと力がこもるのを、見下ろす紫の眼差しが艶を帯びて熱を帯びる。
 波立つ感覚をこらえるのに精一杯で、きつく目を瞑ってしまっている啓太がそのことに気付くことはなくて。
 身を乗り出した七条が、無防備にさらされた白い喉を吸って、やんわりと軽く歯を立てたときにも。
 啓太はただひくんと小さく身を震わせただけで、警戒する素振りなんて少しも見せずにいるものだから・・・。

「・・・・・、・・・・・・・っ! ・・・ふ、ぁっ」

 ぐ、と。
 半ばまで抜き出されていたそれが、もう一度無防備な粘膜を擦って深くを突き上げると。
 啓太は思わず甘えるような嬌声をこぼして、きゅっと七条の腕にしがみつく。

「っ・・・し、しちじょうさ・・・っ」
「このまま、いいですか?」
「え・・・・」
「欲しくなってしまいました。どうしても」

 ほら、と直接に教えられる熱は。
 すっかり張り詰めて、言葉どおり啓太を欲している。

「あの・・・でも、しちじょ・・・っ」
「臣、っ・・・ですよ」
「ん・・・・っ、おみ・・・さ・・・・・っ」

 抱いた腰を優しく穿ちながら、フフと落とされる笑みはいつも通り。
 けれども囁く吐息がいつもよりも熱いことを知っているのは、恋人である、啓太ただひとりだけ。
 それでも装われている余裕に、あっさりとだまされて。
 どうしていつだってこんなにも余裕があるんだろうと恨めしく思いながら、意識と躰は甘く翻弄されていく。
 七条の熱に溶かされて柔らかく濡れている内壁が、待ちかねていたように七条に絡みつくと。
 正直な反応についていけずに震える躰を、強い腕が抱きしめた。

「愛していますよ、啓太くん・・・っ」
「・・っ、れ・・・・・おれ、も・・・・・・ぁ、っ」

 無防備に身を預けられるたび、理性を試されているのかと勘ぐりたくなってしまう。
 そうして試されているのであれば、いつだって想っていること、欲していることを。
 余すところなく伝えたくなってしまうのだから、と。
 必要のない言い訳を、胸の内でひっそりと囁いて。



 再び始まるのは。
 甘い甘い、とびきりに甘い時間――――・・・・





クリスマスなので甘い話をひとつ。
ゴール! で一緒に大きく息をついて(吐息を重ねる瞬間。お題のまんま)
「じゃあおやすみなさい」ちゅ。
に持っていって終わる予定だったのに
なんかまた始まってしまったのは
啓太が可愛いからです。しょうがないんです。はい。


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