LOVE Op.4暖かくくすんだオレンジ色の、ルームライトが灯る部屋。 本当は啓太には、枕元を照らすその小さな灯りさえも恥ずかしくて。 そっと手を伸ばして、こっそりと灯りを落としてしまおうとしたのだけれど。 「啓太くん、今日はこのままで・・・」 ね? と。 するりと絡め取るようにして捕まってしまった指先に、キスを落とされて、優しい笑みで首を傾げて請われてしまえば。 特別な今日に限ってはもう、どうしても嫌です、なんて・・・拒むようなことは云えなくて。 「・・・・・」 それでも答えを返すことはできずに、啓太は頬を熱くしながら。 応える代わりに、ベッドに腰掛けた七条の前に立つ。 向けられる優しい眼差しを頬に感じながら、緊張で冷たくなってしまっている指先を、腕を、そうっと伸ばしてやんわり首に絡めて。 「七条さん・・・」 囁きと一緒に、最初は触れるキスで、そっと唇を重ねる。 啓太がいつも自分からできるのはここまでで、キスが深くなればその途端に主導権が七条に移ってしまうのだけれど。 今日は、啓太のしたいようにさせてくれるから。 いつも七条がしてくれるように、けれども、七条のそれと比べれば、あまりにもつたなくて幼いキスで。 ゆっくりと、もどかしく舌先を絡めて七条の熱を煽っていく。 けれども、ちゅく、とくぐもった水音が響くたび、おののくように震えるのは啓太の肩ばかりで。 感じて、熱に浮かされているのは自分ばかりなのではないかと。 不安に思いながら啓太は、少しも動じてくれていないように見える七条のシャツの肩を、きゅっと握り締めた。 「・・・っ、・・・・っ、ふ・・・」 上手く息がつげなくて苦しくなってしまったから。 深く合わさった口づけをといて、息をついて、呼気を整えるようにしながら目許や鼻先や、白い滑らかな頬の温かさをキスで確かめていく。 「焦らされている気分ですね・・・」 フフと。 嬉しそうに笑う七条には余裕があって、少しも焦れてくれている風には見えない。 むしろ、囁く七条の吐息が耳許かすめると、啓太の息の方があがってしまって。 「可愛いですよ、啓太くん・・・」 ふわりと、触れるキスがまぶたに落ちれば。 煽る風ではない優しいその感触から、けれども啓太はいやいやとかむりを振って逃れようとする。 「だめ、です・・・今日は俺が、七条さんに・・・」 気持ちよくなってもらうのだから、と。 ムキになって告げる啓太を、愛しげな笑みで見返した七条が。 分かりましたと頷いて、ゆったりと身体を起こした。 「・・・・っ・・」 気持ちと鼓動を落ち着けるように、ひとつ息をついてから。 気配と同じようにまったく乱れのない、きっちりと一番上までボタンが止められた七条のシャツの、その襟元に。 力の抜けかけてしまっている指先を伸ばして、一生懸命にボタンを外していく。 優しい紫の眼差しが、その手許をとても嬉しそうに見詰めているものだから。 見られていることを意識するたび、躰の熱が上がってしまうようで、戸惑う。 「あ、あんまり見ないでください・・・」 「どうしてですか?」 「緊張、するし、なんだか・・・」 言葉を継げずに俯く、ほてってしまった耳許に。 するりと鼻先を寄せられて。 「・・・欲情してしまいそう?」 「・・・っ、七条さん・・・っ!」 くすりと笑んだ吐息が、敏感な耳朶をくすぐると。 啓太はかああと目許をほてらせて、慌てて躰を離そうとするけれど。 当たり前のようにその動きを読んでいる七条の右腕が、阻むように、するりとその腰を絡めとる。 「・・・続けてください、啓太くん」 「・・・っ、・・・・・は、い・・」 甘く強請る口調に。 肌に感じる体温を意識してしまいながら、啓太はこくりと頷いて。 ようやく肌蹴たシャツの襟元にそっと顔を寄せて、白い首筋にキスを落とす。 「・・・っ、ん・・・・・っ」 小さく音を立てて、その肌を吸って。 滑らかな肌をくちびるで辿って確かめるたびに。 ちゅ、ちゅく・・・と。水音が、耳をくすぐって。 頬が、全身が、熱くほてっていくのを止められない。 鍛えている印象なんてまるでないのに、きれいに筋肉のついた胸に、硬く引き締まった腹。 日に触れることのない白い肌にくちびるを這わせていくうち、啓太の身のうちでも熱が、徐々に、煽られていく。 たどり着いた下腹に顔を埋めて、すくんでしまいそうになる指先を励まして。 服の中から取り出したそれはもう、確かに熱を帯びている。 初めての行為に戸惑うように、それでいて少しの期待と興味に慄く啓太を励ますように。 やんわりと髪を撫でてくれる、大きな手のひらに促されて。 僅かにためらいながら開いた口の中へ、そっと、その熱を含んで・・・。 「無理をしないで、ゆっくり・・・」 迎え入れた頬を、喉許を。 くすぐるように長い指先に撫でられると。 繊細なその感触の心地よさに、とろりと瞼が落ちた。 「・・・っ、ん・・・・っ、・・ん・・・」 愛おしむ動きに合わせて、鼻に掛かった甘えるような息が漏れる。 いつも七条が啓太にしてくれるようにと。 気持ちよいと感じるやり方を思い出しながら、それを模倣してみるけれど・・・そのたび、躰までがその刺激を思い出してしまうようで。 戸惑いながら、それでも。 啓太の口腔で確かに反応を返してくれる七条の熱が愛しくて。 口に含むには大きく育ちすぎたそれを、けれどもできうる限り深くまで頬張って。 羞恥に頬を、目許を熱くしながら、せつなげに眉を寄せる啓太の髪を、耳朶の薄い皮膚を、器用な指先がくすぐるように撫でていく。 「啓太くん・・・」 呼ばれる名前と、いつもとは違う艶めいた声音。 先端を浅く口に含んだまま、ゆっくりと目線を上げると。 見下ろす七条の眼差しも、確かに欲に濡れていて。 見慣れないその欲をあらわにした表情に、ぞくりと背筋が震えた。 キスを、と。熱っぽく、僅かにかすれた声で促されて。 今まで七条を含んでいたくちびるで、キスを返すのはためらいがあったけれど。 頭の後ろに回された大きな手のひらに、優しく引き寄せられるまま。 啓太は膝立ちになっていた躰を起こして、両の手を七条の肩に乗せた。 「・・・臣さん・・・」 やんわりと腰を抱き寄せられながら、潤んで濡れたまつげを伏せて、そっと、キスを・・・。 「・・っ・・ん・・・・・・・・・ぁ・・っ、ふ・・・」 角度を変えて、幾度か触れ合ううち。 そろりと、七条の舌が啓太の歯列の奥へと忍び入る。 そうして惑う間もなくわななく舌先を絡めとられて、驚きにわずかに息を詰めて啓太は、力の入らない両の手でぐっとその胸を押しやるけれど。 腰を抱く腕はぴくりとも緩まずに、ますます啓太の体を束縛する。 そればかりかするすると、器用に動く指先にいつの間にか服を落とされて。 気が付けば、薄明かりの中、無防備に素肌を晒している。 そうして口腔を探られるまま、キスに応えるのが精一杯の啓太の。 無防備でいた下腹の熱を、するりと、七条の手のひらが包み込んだ。 「・・・っ、ん・・・・・ゃ、ぁ・・・っ」 優しく、確かめるような動きでゆっくりと扱かれるたび。 せつなげな吐息と一緒に甘えるような声が漏れてしまう。 「僕のを舐めていて、感じてしまいましたか?」 触れてしまいそうな距離で、フフ、と吐息で笑った七条が。 訳が分からないままに、ほてったまなじりににじんでしまった涙を、唇で辿ってくれる。 「ほら、もうこんなに熱い・・・」 「・・・っ、だ・・・だって、俺、こんな・・・・っ」 まだろくに触れられてもいないのに、指先の動きひとつで、こんな風に乱れてしまうなんて。 恥ずかしくて、情けなくて、啓太は居たたまれないようにしきりにかむりを振って、七条から離れようとするけれど。 「啓太くん・・・僕も、同じです」 「・・・っ、ぇ・・?」 「きみが欲しくてたまらない」 だから、怖がらないで、恥ずかしがらないで、と。 啓太の手のひらを自身の熱へと導いて、その興奮を教えながら。 手のうちに包みこんだ啓太への愛撫は、止まることはなくて。 「臣さ・・・っ、おれ、・・も・・・・・っ、ぁ、あっ!」 悪戯を止めてくれない七条の腕に、ぎゅうっとしがみついて、啓太はしきりにかむりを振るけれど。 拒絶の言葉は、そのままの意味には受けて止めてもらえずに。 意地悪な長い指先は、ますます繊細な動きをして、優しく啓太を促す。 「大丈夫ですよ、このまま・・・」 「・・だめ、・・・っ、今日は、俺・・・っ」 けれども今日に限っては、啓太も頑固に言い募るから。 「啓太くん・・・?」 本当に抗いたい様子を見て取った七条は、追い詰める動きを緩やかなものへと変えて、問い掛けた。 息を整えるように、俯いていた啓太が。 「・・・・・」 羞恥に邪魔をされながら、そうっと眼差しを上げて。 それでも視線を合わせたままでは言葉を発せないように。 首に回した両腕にきゅっと力を込めて、頬を合わせるようにして躰を寄せてくるから。 細い腰を引き寄せて、熱くほてっている躰を、腕の中深くへとやんわりと抱きしめた。 すると・・・。 「今日は、臣さんに・・・ちゃんと・・・」 気持ちよくなってもらいたいのだから、と。 乱れる吐息の中で、小さな声が耳朶に届く。 いつもは、途中でなにがなんだか分からなくなってしまって、啓太ばかりが快感に溶かされてしまうから。 今日は啓太のではなくて、七条の快感を追ってほしいのだ、と。 恥じらいを含んで、それでも真っ直ぐに向けられる眼差しは、確かに欲に濡れている。 その幼い艶は、いつだって七条の枷を、たやすく外してしまう。 「啓太くん・・・」 ごくりと息を飲んで衝動を堪えながら。 凶暴な欲を晒さないよう、啓太を怯えさせないよう。 残る理性でできうる限りの、細心の注意を払いながら。 七条は、うっすらと汗の浮いた啓太の腕を、掴んだ。 「では、ここに・・・」 優しい力で腕を引かれて、啓太は乗り上げたベッドに膝を付く。 そうして、促されるまま、おぼつかない所作でその腰を跨いで。 「力を抜いて・・・このままでは、無理ですから・・・」 ね、と。ほてった耳朶に囁いて、啓太が小さく頷いたのを確かめてから。 開かれた双丘のその奥にある、密やかに息づく小さな蕾に指先を伸ばす。 熱に戦慄くそこを、優しく探るうち。 「・・・ぁ・・ぁ・・、ん・・・っ」 啓太自身が零す蜜に濡れて、綻んでいく蕾を。 強引にではなく、柔らかく開いて、溶かして・・・。 「ゆっくり、腰を落として・・・・・できますか?」 こく、と。小さく頷く啓太の細い腰を支えてやりながら。 屹立した灼熱の先端をゆっくりと、柔らかな啓太の中へと埋めていく。 「・・・っ・・ふ、・・・ぁ、っ」 ぎゅうっと、両肩にしがみつくようにして。 ゆっくりを腰を落としていくたびに、狭い内壁を押し開きながら、七条の熱が奥深くに収まっていくのを感じる。 力の入らない両腕を首に回して。 熱く乱れる呼吸で、七条の耳許をくすぐりながら。 「・・・上手にできましたよ・・・辛い、ですか?」 「・・・っ、へ、・・・き、です・・・」 だから、と。もたれ掛るようにして首筋に顔を埋めると。 その白い肌に、くちびるが、やんわりとキスで触れて。 無意識のようにきゅっと吸い上げた肌に、淡く啓太の痕が残る。 いつもどこか遠慮がちで、触れることも触れられることにもためらって、独占をしようなどとは考えてもくれないらしい啓太の、おそらくは精一杯の主張。 肌の上に所有の証を残される。 ただそれだけのことに、眩暈うような悦びを覚えて。 暴走しそうになる欲を、無理矢理にねじ伏せる。 「啓太くん・・・愛していますよ」 「・・ぁ・・っ、・・ぁ・・・ゃ、あ・・っ」 「僕が欲しいのはいつでも・・・君だけです」 深いアメジストが、近い距離から、悦楽に潤んだ啓太の表情を、その痴態を見上げている。 普段ならばその眼差しを遮るように、手のひらで、その瞳を覆ってしまいたいところだけれど。 今日は、その視線にすら煽られて。 突き上げられ、揺さぶられるまま。 きりもなく甘えるような喘ぎを零して、啓太は素直に腰を揺らして快感を追う。 好きという気持ちを、すべて、渡したくて。 いつもは恥ずかしさばかりが先に立って、素直に渡すことができずにいる。 本当は七条の全部が欲しいのだという、欲までも、すべてを。 「・・・っ、ぁ・・・ぁ・・っ、おみさん・・・臣、さ・・・っ・・」 せつなげに眉を顰めて、幾度も名前を呼ぶ啓太のくちびるを、口づけで封じて。 舌先を絡めて唾液を交換する。 二人の腹の間で、歓喜の蜜を零しながら揺れている啓太自身を、手のひらに包み込んで。 「・・ぅ・・っ、ん・・・・んっ・・・・っ」 可能な限りのすべてで繋がり合いながら。 深くまで埋めた灼熱で、ぐ、ぐ、と柔らかな最奥を押し上げれば。 「・・・は・・・・ふ、ぁ・・・・・ぁ・・・・・・っ!」 ひくん、と。背筋を震わせて。 声にならない嬌声を上げながら、啓太は七条の手を濡らした。 そうして深くを犯す七条の熱に、淫らに熔けた柔肉がきつくきつく絡み付く。 「・・・・っ、く・・」 熱い迸りを感じて。 囁く吐息が、愛していると告げるのを聞いて。 そうして・・・。 「啓太くん・・・」 「・・・・・」 「こちらを、向いてくれませんか?」 「・・・・・」 頭まで毛布を被って、ベットの上に丸まって。 壁の方を向いたまぴくりとも動かなくなってしまった啓太の頭の辺りを、七条の手のひらがそうっと撫でる。 それでも反応がないものだから、七条はまなざしをとろりと甘くして。 笑みのまま、ふう、と息ひとつ。 「それとも僕は、無理強いを・・・してしまいましたか?」 口調ばかりは困った風に。 そうしてそこに、少しだけ悲しそうな声音を含ませて囁けば。 「・・・っ、ち、違いますっ。そうじゃなくて、俺・・・っ」 その声音にあっさりとだまされた啓太が。 慌てた様子で毛布を跳ね除けて、くるりと素直に七条を振り仰ぐ。 そこに、口調とは裏腹の甘ったるい笑顔を見つけて。 一瞬きょとんと、なにがなんだか分からないというような、無防備な顔を見せるものだから。 その表情がまたたまらなく愛しくて、七条はくすりと、堪えきれずに思わず笑みをこぼす。 「ぁ・・・し、七条さんまた―っ!」 俺のことからかって! と。 回線をショートさせた啓太が、赤くなった顔を俯かせて、両手でぐいぐいと七条の胸を押しやる。 けれども本当は啓太だって、ただ顔をあわせることが恥ずかしくているだけだということが。 七条には勿論、重々分かっているから。 「すみません・・・でも・・・」 飽きずに小さな抵抗を繰り出している、七条よりもふた周りは小さな躰をするりと腕の中に抱き込んで。 「こうやって、せっかく二人でいるのに、離れているなんて寂しいでしょう?」 だから、ね、と。 眼差しを合わせて、ちょんと鼻先を触れ合わせれば。 かちりと合わさってしまった眼差しは、ちょっとやそっとでははずせなくて。 頬を熱くしながら啓太は、他に仕方がなくて、近くにある七条の瞳を見詰め返す。 けれどもその七条の微笑みが、本当に幸せそうなものだから。 なんだかもう、これはこれでいいやなんて甘ったるい結論にたどり着いてしまってくすぐったい心地でぷぷぷと笑みを返すはめになるのだけれど。 そうしていたら不意に。 「・・・ぁ・・」 思い出したことがあって。 啓太はぱちくりと、少し驚いたように瞬いた。 「・・・啓太くん?」 どうしました? と七条がその啓太の表情を見返すと。 腕の中でそろりと躰を伸ばした啓太が。 ちゅっと、くちびるに、触れるだけのキスをよこすものだから。 七条は彼らしくもなく意表をつかれて、少々素になって驚いて目を瞠る。 その様子を、へへへと少し得意げに見上げた啓太が。 「あの、俺・・・まだ、ちゃんと云ってなかったです」 笑みのまま耳許に顔を寄せて。 臣さん、と。 とても大切なことのように、特別な呼び方で名を呼んで。 「生まれてきてくれて、ありがとう」 囁きがそのまま耳朶に触れて。 耳許にも、キスをひとつ。 「それから、俺と出会ってくれて・・・」 ゆっくりと眼差しを合わせた啓太が。 とろりと、本当に幸せそうに笑う。 「お誕生日、おめでとうございます」 そうして渡された、大切そうな囁きに。 七条の胸は温かくなって。なんだか熱くもなってしまって。 たまらない気持ちで衝動のままに。 胸のうち深くに、ぎゅうっと愛しい恋人を抱きしめた。 |