Come aboutカチ、カチカチカチ・・・。 「フフ・・・」 パチパチ、パチ、パチ・・・。 「・・・・・フフフ・・」 カチ、パチ、カチカチ・・・パチ・・・。 「・・フ・・・・」 背後から聞こえてくる止まる気配のない含み笑いに、ついに女王様の柳眉がぴしりと跳ね上がった。 「・・・なにを笑っている、臣」 そんなに尋ねてほしいのならば、望み通り尋ねてくれよう、と。 くるりと椅子を回して、足を組んで腕を組んで、ついと顎を上げて問いかければ。 ああ、郁、と。 返ってくるのは、問い掛けられるとはまったく思っていませんでしたよ、という風な反応。 勿論、わざとらしいまでのそれは、装われたものに過ぎないのだろうが。 これで「おや、僕は笑っていましたか?」などと、とぼけるも極まれりな言葉でも返ってこようものならば、今日中に目を通そうと思っていた書類をすべて放り出して東屋にでもしけこんでくれる、と考えた西園寺の心の動きを読んだのかどうなのか、七条はすぐに本題に入った・・・もしかしたら単に早く話したくて話したくて仕方がないだけかもしれないが。 「実は、先ほどまで、伊藤くんとお話をしていたのですが」 ゆっくりと視線をめぐらせて西園寺の方を向いた七条が。 話題にするのは案の定、開催中のMVP戦パートナーのこと。 「僕は伊藤くんに、怒られてしまいました」 困ったように、眉をハの字にしてみせて。 僅かに首を傾げてみせる。 「七条さんは冷たい人なんかじゃない! って」 真似をするような口調で。 「本当に一生懸命に、僕を諭そうとしてくれて・・・」 思い返すようにしみじみ云って、するりと目許が細くなる。 まるで喉を撫でられた猫のように。 「どうして、こんなに嬉しいのでしょうね?」 フフフと笑う横顔は、確かに生ぬるくとろけきって大変なことになっている。 「本当に、不思議な人です。伊藤くんは」 もう一度笑んで、窓の外へと目を向ける。 その表情はとても柔らかい。 どうやら、他人の感情の機微には敏いけれど、自分の感情の起伏を表に出す上手い方法を知らずにいたこの友人に。 とうとう春がやってきたらしいことは明白で。 「そうか、それは・・・めでたいことだな」 「郁は、そう思いますか?」 「お前は思わないのか?」 「さあ・・・どうでしょうか」 どうでしょうかと云いながら、キーボードを弾く手許は、どう見てもいつもよりも軽快だし、表情は「笑み崩れている」という表現がぴったりな状態になっている・・・まあもっとも、西園寺以外の人間には、気付くことができない微々たる変化なのだろうが。 分かる人間にはあからさまに、分かる。 ということはもしかしたらもう一人・・・あいつも、その変化に気付くかもしれないなと、考える西園寺の口許が優しく和んだ。 すると、そのとき。 扉の方から。こんこん、と。 大きな特徴があるわけではないけれど、それでもその音だけで誰のものかが分かってしまう、軽いノックが響いた。 なんてジャストタイミング。 そのタイミングのよさに今度こそフフと、吐息で笑ってしまいながら。 自分と同じように笑んでいる七条と目線を合わせながら、西園寺は、扉に向かって声を返す。 「開いているぞ、入ってこい」 「はい、失礼します!」 よいしょと押し開けた扉をくぐって、現れた温かな春の形は。 案の定。 「・・・・・あれ、七条さん・・・なにかいいことでもあったんですか?」 不思議そうに、なんだか自分のほうこそが嬉しそうに。 小首を傾げて七条に向かって、問い掛けた。 |