I AM THE CHAMP『角田、ボールをカットしました!ボランチの稲木も走る、走る!!』 目の前の液晶ディスプレイには、小さなサイズの2組のイレブンが駆け回っている。 今頃学食のテレビ前では丹羽を筆頭に、寮を揚げてのW杯予選・大観戦大会が行われているはずだ。 王様なんか、全日本のユニフォームまで用意してたもんな・・・。 啓太は、というと。 ベッドを椅子代わりに、パソコンのディスプレイをテレビモニタ代わりにしての観戦。 啓太はちらりと横にいる人物を覗き観た。 現在試合は間違いなく盛り上がっている展開だけれども。 「あの・・・」 「はい?」 こちらを向くのは涼しげな面、紫の瞳。 「あ、あの、七条さん、楽しい、ですか?」 「ええ」 にっこり。 「伊藤君は、楽しくありませんか?」 逆に質問されてぐぐ、と一瞬言葉に詰まった啓太は、深く考えずに答える。 「楽しい・・・です・・・」 考えるな。考えたら、きっと袋小路に迷い込んでしまう。 サッカーを観るのは楽しい。 七条さんと一緒にいるのは楽しい。 サッカーを観るのは楽しい+七条さんと一緒にいるのは楽しい=・・・・・・。 ―――――か、考えちゃだめだ! 『おっと、ここで反則です!大村、二枚目のイエローカードがでてしまいました・・・!』 そもそもなぜ、二人で観戦しているのかというと。 それは学食で夕食を取っていたときの出来事。 「よっ啓太、今夜の試合!」 ばしん、と力強く肩を叩かれ、どすりと隣に腰を降ろしたのは――― 「あ、王様ー!クラスでも今日はその話で持ちきりでしたよ・・・ってそのユニフォーム、ひょっとして自前ですか?」 丹羽は自慢げに胸を張った。 「こういうのは見た目も大事なんだよ。今夜は学食のテレビでみんなで観戦しようぜ。篠宮にも話つけておいたから」 「うわあ、盛り上がりそうですね!」 隣でハンバーグを食べていた和希も身を乗り出す。 「啓太、じゃあ俺達も早く風呂に入って―――――」 「―――伊藤君は、僕の部屋で一緒に応援するんですよね?」 『へ?』 盛り上がること上り坂一直線だった王様と和希と啓太が一斉に仰ぎ見た先には、本日のパスタをトレイに載せた七条がいた。 「ね?」 にっこり。 ―――――というわけなんです。 断る理由も勇気も無かった啓太に、反論する理由はあれども勇気の無かった丹羽と和希を責めるわけにはいかない。それだけ、七条の笑顔には威力があった。 それにしても、と、啓太は思う。 七条さんとサッカーって、微妙にというか全然イメージ繋がらないよ・・・。 七条さんと一緒に観るのは嬉しいけど、みんなとも一緒に観たかった・・・かな。 『さあ、いよいよ延長戦がスタートしました!』 試合はどちらにも点が入らないままハーフタイムで折り返し、不思議な室温のまま延長戦へ突入する。 そしてそれも後半にさしかかり、残すところあと3分。 「よしっ、角田、打てっ!」 『角田、強気のシュートはゴールポストをはじいた』 「もお、なんで逆サイド誰も来てないんだよ!」 気が付いたら、試合も啓太もかなり白熱してきていた。 『鈴林、上がってきました』 「行け!行ってくれ!!」 『DFも上がってきました。日本、反撃のラストチャンス!』 「もう誰でもいいから点入れろ――――――!」 息をもつかせぬ展開に、啓太が思わず身を乗り出しかけたその時。 ぐいと顎を捕られて、紫の瞳が不意に目の前をかすめた。 ちゅ。 「へ?」 「あ」 『ゴ――――――ル!』 「はい?」 今、何とおっしゃいました? 耳元にこだまするアナウンサーの絶叫に、気の抜けた啓太は解放された視線を彷徨わせる。と、ディスプレイにはゴールを割ったサッカーボールのアップ映像と、喜びに爆発するスタジアムの歓声が。 『角田、角田がやりました!!』 「ええ?」 『日本、延長も終盤になって貴重な点を入れました!!!やー、やりましたね、セルシオ備前さん!!!』 「えええ?!」 「点が入りましたよ。良かったですね、啓太くん」 にっこり。 のろのろと、啓太はディスプレイとにこやかに己に微笑む恋人の顔とを何度も見比べた。 「えええ?!」 「ふふ」 試合終了を告げる、長いながいホイッスル。 「ええええええ――――――――――――?!!!」 ―――俺の恋人は、悪魔のような人だと思います・・・。 |