Which taste ?よく晴れた日曜日、街へ買い物に出た帰り道。 バス停に向かう途中でふと立ち止まった七条に合わせて、啓太も足を止める。 「? 七条さん?」 どうしたんですか? と見上げる啓太に。 「伊藤くん、ジェラードを食べていきませんか?」 にっこりとジェラードショップを指差してみせる七条の笑顔が。 好物のジェラードを食べられるからという以上に嬉しそうなことに、少々の疑問を覚えながらも。 「そうですね、食べていきましょう!」 勿論異存なんてちっともない啓太は、こくりとひとつ頷いた。 「なににしようかな」 季節限定のパンプキンも気になるし、栗の欠片が入っているモンブランも捨てがたい。 バニラビーンズがいっぱい散らされているプレミアムバニラも、マーブル状のブルーベリーソースが色鮮やかなレアチーズもとても美味しそうだ。 オレンジシャーベット、レモンシャーベット、白桃と黄桃のシャーベット。 あ、それにイチゴミルクもあ・・・・・・・・。 「・・・・・」 ほくほくとディスプレイを順に追っていた啓太の視線が、イチゴミルクを写したところでぴしりと固まる。 そうして次の瞬間、斜め上にふよりと泳いで。 えっ、ええとっ、ややややっぱり今日はパンプキンに・・・っ! 「決まりましたか?」 「は、はいっ、俺パンプキンにしますっ」 「そうですか」 うろたえる様子もあらわに勢いよく七条に答えた啓太は、店員に向き直るとシングルコーンのプレートを手渡して「パンプキンをお願いします」と告げる。 そうしてほうっと息をついて、何の気なしに隣に並ぶ七条の手許を見れば、その手の中にはダブルコーン用の赤いプレート。 「七条さんはダブルなんですね」 「ええ」 にこりと微笑む七条は本当にとても嬉しそうで。 なんだか啓太までが嬉しくなる。 七条さんて、ほんとにアイスが好きなんだなあ・・・。 普段は啓太よりもずっと落ち着いていてずっと大人っぽくて、頭だってとてもいいのに。 こういうところは子供みたいだと、啓太はくすぐったい気持ちで目許をとろけさせた。 「お待たせいたしました」 「あ、はい。ありがとうございます」 差し出されたジェラードをディスプレイ越しに啓太が受け取ると、店員は続けて七条に顔を向ける。 「お客様はいかがなさいますか?」 「では僕は、ストロベリー と ラムレーズン をお願いします」 「・・・・・っ!」 聞いた瞬間、ぽすんと啓太がショートした。 気付かなかったらしい店員が「かしこまりました」と請け負ってすぐに離れていってくれたのは救いだけれど。 顔を赤くして思わず隣を振り仰いだ啓太はそこに・・・小さな黒い羽と先の尖った黒い尻尾を生やして、極上の笑顔を浮かべた悪魔の姿を見つける。 「どうしました?」 「・・・・っ、ど、どど、ど・・っ」 「一口ずつ交換しましょうね」 ね? と小首を傾げて穏やかに微笑んではいるものの、黒い尻尾を嬉しそうにふりふりと振り回しているような状態のこの人に。 抗う手段があるものならば、是非とも教えてもらいたい啓太である。 七条の分のジェラードを受け取って、移動をした店内の片隅。 「美味しいですよ、ストロベリー。伊藤くんもどうぞ?」 「・・・・・ぃ、いただきます」 好きでしょう? と差し出されるのは当然のごとく、コーンに乗ったアイスではなくて一口分をすくったスプーンで。 デートのたびに陥る事態ではあるけれど、どうしても慣れることができなくて恥ずかしい。 それでもぼんやりしていたらアイスは溶けてしまいそうだし、七条が引いてくれないことも知っているから。 啓太は意を決して、えいっ、と差し出されたスプーンに食いついた。 「・・・・・・っ・・、おいしい・・・」 口の中に広がる、久しぶりのストロベリーの甘酸っぱさと小さな種の粒々感は、困ったことにやっぱり美味しくて大好きで。 思わず呟いて表情をとろけさせると、くすりと笑みが降ってくる。 確かめるように向けた視線の先には、微笑ましげに啓太を見下ろしている、優しい紫の眼差し。 あれ以来、啓太が大好きなストロベリーのアイスを食べられないでいることにも、あれこれを思い出してしまって恥ずかしいから食べられないのだということにも。 七条は多分、きっと、絶対に、気付いていたのに違いない。 「また、食べましょうね」 フフと笑んだ目許にほんのりと艶を漂わせた七条の云う「また」が、どこにかかっているのか判断ができなくて更に困る。 困るけれど・・・それでもどうしたって幸せな啓太は、頷く代わりに、はむりとパンプキンジェラートのてっぺんに噛み付いた。 |