真夜中に、浮かび上がって見える白い顔。
その輪郭を優しくぼかす絹糸の髪。
どこか眠らないざわめきをはらんだ都会の片隅で
君の眠るそこだけが、宗教画のごとく神聖。
まるで、天使をかくまっているかのよう。
「シャルル、眠ったの?」
ささやき声をかけてみる。眠っていると分かっていながら。
君は静かに、寝息さえかすかに、ベッドに横たわっている。
散々な文句と数々の要求に、出来るだけこたえて、僕が整えたベッドに。
「さすがに疲れたなぁ」
無心に眠る君の平和なたたずまいに、僕は長い一日の終わりを感じる。
「もう寝よ」
でも、この疲れは心地良い。だってご褒美は君の美しい寝顔。
「そういや、“おやすみ”もなかったよなぁ」
語りかけるように君に振り向いて、僕の視線は、そのやわらかそうな唇に。
逃れられないほどに強く惹かれてしまう自分をごまかすように微笑んでみたけど
きっと目つきは真剣になってしまっているだろう。
ゆっくりと、靴のかかとからじゅうたんを踏んで、ベッドに近付く。
どうか、目を覚ましませんように。
「おやすみ、シャルル」
寝顔をのぞきこんで、息をひそめ、そっと顔を寄せてキスをした。
しっとりと吸い付くような感触に、止められなくなりそうで
おでこにもう一度、軽く唇を押し当てて我慢した。
「ん…」
僕が盗んだ唇を少しとがらせて、君は寝返りをうった。
ドキリとしたけど、大丈夫みたいだ。
ほっとした吐息が唇に触れて、キスの甘い感覚を思い出させる。
指先でなぞったりしたら、嘘になってしまいそうで。
「さ、今度こそ寝よ」
やがてくる夜明けはじめの黄金色から、少しでも長く君を守りたいから。
僕に口付けられた君を、少しでも長くそのままにしておきたいから。
カーテンは厚く、閉じたまま部屋を出て行くよ。
暗闇で天使が眠る。輝くは神の御許。
聖なるかな。聖なるかな。