これまた裏サイトに書いたものです。
美女丸×シャルル。草書早読み一本(?)勝負。
BL要素を含みます。ダメな方は見ないでください。

下弦の月

カタン、と音を立てて桐箱の蓋が、畳に転がる。
突然の不自然な音に、彼は顔を上げると、男の大きな手のひらが頬に触れた。
近付いてくる男の広い胸に部屋の明かりは遮られ、彼の白い顔に影を落とす。

「なんだ?」

男は無言でもう片方の腕を伸ばし、彼の髪をかき上げてきた。
そのまま後頭部にまわされた手が、彼の頭を引き寄せようとした。

「なんだと言っている。勝手に触るな」

男の肩に額が触れそうになり、彼は後頭部に回された腕を払う。
しかし、それまでやんわりと指先だけに込められていた男の力が、急に強引になる。
男は身をかがめて両手を畳につき、立てた膝をにじり寄せ、彼の手首を捕らえる。

「な、にを…んっ」

男は下からのぞきこむように顔を近付けたかと思うと、すばやく彼の唇を奪った。
押し付けるようなキス。逃れようと引けば、追ってくる。

「んっ…やめっ、…女丸」

彼は必死で顔をそむけてもがく。その代わりに差し出された首筋に男の顔が埋まる。
彼はその頭を両手で引き剥がそうとするが、正座をしたままのけ反っているので上手く力が入らない。

「やめろっ、美女丸!…っ、どうしたって言うんだ、急に」

「急でなければいいのか」

「!?」

ふいに口をきいた美女丸に、その内容に、シャルルは一瞬目を見開いた。
美女丸はもう一度身を乗り出してきた。シャルルは逃れようとして正座を崩し、しりもちをつく。

「あっ、んんー!」

放り出された足の膝を割るように手が置かれ、それに抵抗している隙に顔が近付き、唇が重なる。
今度は引けば、完全に押し倒される。かと言って、このまま唇を許している状態も耐え難い。
身動きできずにいるシャルルをいいことに、美女丸はキスを深めてくる。
きつく閉じた目からは何を考えているのか分からない。
そしてとうとう身体を支えていた腕を取られ、ドサと畳の上に倒れこんでしまった。

「…なにを、しようって、言うんだ」

「分からないか?」

「!…どうかしてる」

こんな、いきなり、こんなこと。

「そうか」

美女丸はつぶやくように言いながら、シャルルのタイをほどく。
手早く襟元をくつろげ、鎖骨の間にキスをし、少し、舌を這わせた。
不覚にもシャルルはビクッと反応し、美女丸は薄く笑う。

「ゆっくりするから、分かれよ」

そう言って服を剥がすのも、二の腕の内側に口付けるのも、どこかぶっきらぼうで。
訳が分からないまま、身体だけ、熱をおびていった。

風にそよぐ髪が頬を撫でるのに、シャルルは目を覚ました。
全身が鉛のように重たく、視線だけをさまよわせる。
澄みきった空に、白く、雲よりも薄い、消えそうな下弦の月が見えた。

「気がついたか」

頭上から声がする。シャルルは、美女丸の膝枕で寝ていた。
しかも、誰に見られるとも知れない障子を開け放った縁側で。

「…っ」

「急に起き上がると辛いぞ」

がば、と美女丸の膝から起き上がろうとして、シャルルの下肢に痛みが走る。
服は着ている。が、この、刻み込まれたかのような違和感は。

「この…変態っ…」

シャルルは起き上がるのは諦めて、美女丸からはなれた所であおむけに寝転がる。
それでもかなり辛いのだが、しようがない。

シャルルは、大仰にからかわれたのだと思っていた。
美女丸は、不器用にも、愛おしんのだと思っていた。

「変態、か…」

フッと笑みを浮かべる美女丸は悪びれた様子もなく、
シャルルは大きなため息をついて、忘れることにする。

「気をつけたほうがいい。下弦の月も、人を狂わせるようだ」

身も世もなく魅せられ、理性は、その眩しさに溶けて消えてしまったのだ。
あの、南中に白む月のように。

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