メリー・クリスマス

「ん」

意外にも素直にうなずいて、和矢君は壁にななめに寄り掛かりました。
あなたは足早に階段をおり、ゴミを片付け、寒さに震えながら戻りました。

「お待たせし…あれ?」

ドアを開けてまわりを見回すと、さっきまでいたはずの和矢君の姿が見えません。
“帰っちゃったのかなー?”と、少しショボンとして歩き出した途端、つま先でぐにゃりと何かやわらかいものを踏んでしまいました。

「ひぇっ…あ!」

あなたが踏んづけたのは、床に投げ出された和矢君の長い足でした。眠っちゃってます。どうしましょう。
クークーと寝息を立てる和矢君の、いつにないゆるんだ口元があなたを誘っています(笑)あなたがそんな彼の前にしゃがんでゴクリと生唾を飲み込んだその時、

「どうかしたかい?」

背後から素敵なテナーが聞こえました。ギクリとして振り返れば、脱いだディナージャケットを肩に背負う響谷薫さんがそこに立っていました。み、みみみみ見られてたんでしょうか!?

「ああ、黒須のやつ、こんなとこで寝ちまいやがって」

パサリとその上着をあなたにあずけて、薫さんは眠る和矢君を抱えあげました。
あなたは、なんかいい香りのするその上着を抱きしめてウットリ目になっていました。

「そんなに抱きしめるんじゃないよ、シワになるだろ」

からかうような響きをおびた薫さんの声に、あなたはハッと我に返り、ズルズルと和矢君を引きずる彼女のあとをついていきました。そしてすぐ近くの薫さんの部屋と思われる部屋に入り、全然起きない和矢君をベッドルームに投げ捨てた薫さんにあなたは

「す、すいませんでした」

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