メリー・クリスマス

あなたを抱きかかえたまた、薫さんはずんずんと廊下を進んで行きます。が、なんだか屋敷の奥のほうへ行っている気が…。

「…あ、あの、どこへ」

不安になってあなたが聞くと、ふいに薫さんがあなたを見下ろして言いました。

「うちの古株のお手伝いさん達に見つかったら何かとまずいだろ。大人しくしてな」

なんとも優しい心遣いに感激するより前に、あなたは至近距離で薫さんに見つめられた衝撃で気が遠くなりました。長い前髪がきれいに落とす影のむこうの、魅惑的な眼差し。溜息つかずに居られません。

そして薫さんの部屋に到着し、彼女はあなたをそっとベッドの脇に座らせました。(傾れ込んではいけません)そして内線で人を呼ぶと、こちらを振り返り

「おまえさんと同じ、臨時雇いの子を呼んだから。ちょっと待っておいで」

と言うと、クローゼットからタキシードを引き出し、奥の部屋へ入って行きました。(覗いてはいけません)
やがてメイド仲間がやって来て、あなたの手当てを終えて出ていくのを、着替えた薫さんは壁に斜めによりかかって「ごくろうさん」と言って送りだすと、じっとこちらを見つめて歩み寄って来ます。あなたは

「すいませんでしたっ」

戻る

Copyright (C) bien. All rights reserved.