メリー・クリスマス

「下まで付き合うよ」

もし酔いが足にきてて階段を転がり落ちたらいけないと心配して言ったあなたの脇をすり抜けて、和矢君は先に階段をトントンと下りて行ってしまいました。あなたも慌てて寒風に身をちぢめながら後を追いました。

「寒いの?」

自分を抱きしめるようにして歯をガチガチ言わせてるあなたとは正反対に、和矢君は焼却炉に寄り掛かって気持ちよさそうに目を閉じて夜風に頬をさらしていました。風に優しく揺れる黒髪、閉じた目の長い睫毛、薄く開いた唇がなんだかとっても色っぽく美しく、あなたは一瞬見とれてしまいました。

そんな素敵なひとときを、あなたは自分の「へくちんっ」というクシャミでぶち壊してしまいました。
このままここで長居をしては凍え死ぬと思い、焼却炉のフタを開けました。ガラスの破片をこぼさないように慎重にその布巾を開いているあなたのそばで、和矢君はディナージャケットのボタンをプチプチと外し、ふわりとあなたの肩に掛けてくれました。

急に温かくなってあなたは吐息をつき、お礼を言おうと和矢君を見上げました。

「抱きしめたら、もっとあったかいけどね」

と目が合うなり、からかうように言ってクスと笑った和矢君に、あなたはドキッとときめきながらも「やっぱりまだ酔っぱらってるのねー(泣)」と思ってお礼を言うのも忘れ、無言で布巾を持った手ごと焼却炉に頭を突っ込みました。

「そんなに入ったら、汚れるよ」

まだからかうような笑いを含んだ声にあなたは少々むっとしながらも、必死で布巾についた破片を振り落とし、もういいかなと思って顔を上げた途端、ゴンを額を焼却炉のフタについた取っ手に、おでこをしこたまぶつけてしまいました。

「〜〜〜っ」

布巾を取り落とし、おでこを両手で押さえてしゃがみこむあなたの上で和矢君の大爆笑が聞こえました。ちくしょーと涙目で睨むあなたに和矢君は

「君って、ほんと、見てて、飽きないよ」

とどっかで聞いたようなセリフを吐き、あなたの前にしゃがみこみました。

瞬間、あたりがパッと明るくなり、あなたは痛みも忘れて辺りを見回しました。それは、響谷邸の庭全体にクリスマスのイルミネーションがライトアップされたためでした。
こんないいタイミングでロマンチックな雰囲気が演出されてるのに、おでこがじんじん痛いあなたは立ち上がり、会場に戻ろうと踵を返しました。
すると肩に和矢君の手が乗り、振り向いた瞬間に、おでこにキスをされました。

「メリー・クリスマス」

突然のことに和矢君の唇の柔らかい感触や極上の微笑みよりも、チュッというキスの音がいつまでも繰り返し胸に響いて、あなたは痛みも寒さもフッ飛んで赤面してしまったのでした。

☆おわり☆

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