ドキマギしてあなたがカークの手をはずそうとしたとき、急に階下から大音量のオーケストラ演奏が始まりました。彼はびっくりして思わず椅子を倒しながら立ち上がり、あなたの頭を自分の胸にかばうように押しつけました。ひぇっ。
「ああ、パーティの余興か」
ほっと息をついてカークは我に返り、あなたの後頭部を鷲掴みにして抱き寄せている自分に気付きました。ひぇっ、と思ったときはすでにもう、あなたがシャツのひらいた胸元から素肌へと熱い吐息をしのばせているところでした。そっと寄り添うふうなあなたをむげに引き剥がすことも出来ず、カークはどうしたものかと考えました。
あなたにしてみてれば、いきなり引き寄せられて頬をぴったりカークの胸にうずめてしまい、息も止めて立ちすくんでしまっただけなのでした。彼が少し緊張をといたように言葉を発すると同時に息を止めていたのに気付き、小さく吐息をもらしたのが、思いがけず妙な雰囲気を醸し出してしまいました。
お互い、身を離すタイミングをつかめないまま密着してオーケストラ演奏を遠くに聴いていました。やがて、カークの手があなたの肩に下り、髪に唇が寄せられ、囁くまで。
「メリー・クリスマス」
優しげな声に、がばとあなたは彼の胸から顔を上げました。しかし彼の顔は見えず、首が筋張るほどめいっぱい天井を仰いでいます。肩に乗せられていた手は指先だけが押し戻すように触れているだけ。もしや…
「…ごめん。だめだ、オレ。これで精一杯っ」
様子を伺うあなたに見向きもせずに言い捨てて、カークはシャワールームへダッシュして行きました。あなたは身を翻しざまに見えた彼の真っ赤な耳に満足し、笑ってしまうのでした。
