カブトムシ
8月1日のいたばし花火大会のあと
よっぱらいN波くんを彼のいえに送っていたのだが
成城学園前駅でひとねむりし
予想以上に回復した彼は
僕をおいてひとりはるか先をあるいて先に家に帰ったのである
彼の家でF−ZERO Xをするつもりだった僕は
やや裏切られた気持ちを感じながらも
しかたなく彼の家にひとり向かったのである
そのときうつむいて下を向いて歩いていた僕の目に
やや重量感のある黒い物体がうごめいているのが見えた
それはなんと子供たちの永遠のアイドル
昆虫の王様カブトムシだったのである
しかしひっくりかえったまま
もがけどもがけど起きあがれそうな気配のない
落ちぶれた王の姿がそこにあった
真夜中の自動販売機の光に照らされたその物体を
複雑な気持ちでしばらく見たあと
僕は手をのばしたのである
N波くんの家につれてこられた彼は
僕というお世辞にもよい人物とはいえない主人から
ひどい仕打ちをうけたのであった
腐りかけのバナナを与えられても
リンゴジュースでぬらしただけのきたならしいティッシュを与えられても
文句も言わずただじっとくつの箱の中にいたのであるが
彼は決定的なミスを犯したのであった
僕の手にへばりつく彼の足に力が入りすぎたのである
そして僕の手はかぶれてしまったのであった
決断は早かった
彼が自然にかえされるまでに時間はかからなかった
こうしてまたカブトムシは人間から離れていったのであった
もどろうか