あれから、数年後・・・。

のび太の何か大きく謎めいた魅力、そして力強い意志、どこか淋しげな目、眼鏡を触る仕
草、黄色のシャツと紺色の短パン、しずかちゃんが惚れるのに時間は要りませんでした。
外国留学から帰国した青年のび太は、最先端の技術をもつ企業に就職し、そしてまた、し
ずかちゃんとめでたく結婚した。
そして、それはそれは暖かな家庭を築いていきました。
ドラミちゃんが去ってからのび太はドラえもんは未来に帰ったとみんなに告げていました。
そしていつしか誰も「ドラえもん」のことは口にしなくなっていました。
しかし、のび太の家の押入には「ドラえもん」が眠っています。あの時のまま・・・。

のび太は技術者として、今、「ドラえもん」の前にいるのです。

小学生の頃、成績が悪かったのび太ですが彼なりに必死に勉強しました。
そして中学、高校、大学と進学しかつ確実に力をつけていきました。
企業でも順調に、ある程度の成功もしました。
そしてもっとも権威のある大学に招かれるチャンスがあり、のび太はそれを見事にパスし
ていきます。そうです、「ドラえもん」を治したい、その一心でした。
人間とはある時、突然変わるものなのです。それがのび太にとっては「ドラえもんの電池
切れ」だったのです。修理が可能であるならば、それが小学6年生ののび太の原動力とな
ったようでした。

自宅の研究室にて・・・。

あれからどれくらいの時間が経ったのでしょう。しずかちゃんが研究室に呼ばれました。
絶対に入ることを禁じていた研究室でした。中に入ると夫であるのび太は微笑んでいまし
た。そして机の上にあるそれをみて、しずかちゃんは言いました。
「ドラちゃん・・・?」
のび太は言いました。「しずか、こっちに来てご覧、今、ドラえもんのスイッチを入れる
から」

頬をつたう一筋の涙・・・。

しずかちゃんは黙って、のび太の顔を見ています。この瞬間のため、まさにこのためにの
び太は技術者になったのでした。
なぜだか失敗の不安はありませんでした。こんなに落ち着いているのが変だと思うくらい
のび太は、静かに、静かに、そして丁重に、何かを確認するようにスイッチを入れました。
ほんの少しの静寂の後、長い長い時が繁がりました。

「のび太くん、宿題は済んだのかい?」

ドラえもんの設計者が謎であった理由が明らかになった瞬間でもありました。
まさか、のび太自身が「ドラえもん」の設計者だとは知らず、ただひたすら「ドラえもん」
を治すことだけを垣間見た人生。 あの時と同じように、空には白い雲が浮かんでいまし
た。

Fin
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