ドラえもんの最後

いつものようにのび太は学校にいた。それはいつものような晴れた一日の始まりでもある。
学校ではおなじみのジャイアンがいる。そして、自慢好きのスネ夫、おしとやかなしずか
ちゃん。いつもどおりの風景だった。
そして、この日もおなじみのメンバーからストーリーが始まろうしていた。
ジャイアンにのび太がいじめられ、それをドラえもんが助けてくれる。周知の展開だ。案
の定、学校でのび太がジャイアンにいじめられた。
何をやっても泣くだけののび太。けっして、自分では解決しようとしない。そして、いつ
ものようにドラえもんにすがろうとする。
いつもの光景、いつもの展開。
それは見ている者だけでなく、のび太自身そう感じていた。

『このままでいいのか。』ドラえもんに頼りきっている自分自身に苛立ちを隠せない。そ
して、家に着く頃にはジャイアンに仕返しをしようとしていた感情が、いつのまにか消え
ていた。
『ドラえもんがいなけりゃ何もできない。』のびたはそれを認たくなかった。誰に言われ
た訳でもない。でも、誰もが考えてる事実だった。
『今日からは自分のことは自分で解決する。』新たなのび太の決意である。
そう思いながら家に帰り着いた。しかし部屋の雰囲気がいつもと違う・・・
ドラえもんがいないのだ・・・

のびたは不安に駆られる。どこかで、道に迷っているのかもしれない。
しっかりしているようで、頼りない一面を持つドラえもん。
のび太が一番良く知っている。

辺りは暗くなってきた。不安はさらに大きく募る。
その時『のび太、ごはんですよ。』ママの声がした。
『そうだ、ママに聞こう。』不安に駆られるのび太、じっとしてはいられなかった。
ただ、妙な不安だけが募る。
『ママ、ドラえもんはどこへ行ったの?』のび太が聞く。
『・・・のびちゃん?どうしたの?ドラえもんって何?』血の気が引く。
のび太にはママの言っている意味がわからない。
『ドラえもんだよ、ドラえもん。いつもいるじゃない。どうしちゃったの、ママ?』
『のびちゃん、そんな冗談はママ嫌いです。早くご飯を食べなさい。』
のびたは愕然としている。
『そんなはずはない。』のびたは家を飛び出した。
のびたはしずかちゃんの家に行った。もしかしたらドラえもんがいるかもしれない、
そう思ったのだ。『ドラえもん来てない?』しずかちゃんに聞いた。
『何それ?ドラえもんって何かしら?』話にならない。
スネ夫の家に行く。ジャイアンの家に行く。
『ドラえもん来てない?』『ドラえもん来てない?』のびたは至る所を探した。
公園、学校、商店街・・・。だが、誰ひとりとしてドラえもんのことを知らない。

どら焼き屋さんさえ知らない。のびたは泣きながら家へ帰った。

のびたはご飯も食べずに、部屋で一人になっていた。
『誰もドラえもんのことを知らない・・。』ただ、それだけが気になって仕方がない。
みんなドラえもんのことを忘れたのだろうか。
それとも、自分が幻覚を見ていたのだろうか。
もしかすると、別の世界に来たのかもしれない。色々な考えが浮かぶ。
『そうだ、机の引き出しを見ればいいんだ。』そこにはタイムマシンがある。
思えば全てはここから始まった。ドラえもんはここから現れたのだ。
この引き出しを開けると全てがわかる。のび太は引き出しに手をかけた。
そして、引き出しを一気に引く。・・・・・。
引き出しの中には本が詰まっていた。タイムマシンなんてものは無い。
のびたの望むものは何ひとつなかった。


ピッピッピッピッピッピ。静かな空間にデジタル音が鳴り響く。
電子機器の音である。真白な風景。白いカーテンからもれる光。
そして、それを照らす白い壁。何もかもが白い。
ピッピッピッピッピッピ。電子音が鳴り響く。緑色をした波形がモニタに映っている。
心拍数、脈拍が小刻みに緑の山谷をつくる。

・・・あれは何年前だろう。
子供の頃、買ったばかりの自転車。自転車がふらついた
自転車に乗った子供がトラックに跳ねられた。
道沿いの花壇がクッションとなり、その子は運良く助かった。
でも、その子は植物人間として人生を過ごしている。

ピッピッピッピッピッピ。電子音が鳴り響く。
ふと、その空間に別の音が紛れ込む。白い服を着た女性が部屋に入ってきたためだ。
『今日は良い天気ですね。カーテンを開ッておきますよ。』白い光が流れ込む。
その光は年老いた1体の体を照らし出した。
老人はその光にも動じず、ただ一点を見詰めている。ただ白い天井を見つめている。
いつもと同じ風景、同じスタイル・・・。
その老人はいつも同じ生活を演じなければならない。


おしまい