そう、ドラえもんとのびた率いる一軍(ジャイアン・スネオ)は、この隙に未来世界に乗
り込み、マザーコンピュータを破壊すべくノビール(未来ののびた)と協力し、中央指令
塔に潜入していた。
ノビールは歴戦の勇者であった。だが、少し精神に異常をきたしていた。目の前で恋人(=
しずかちゃん)を殺された為に、機械帝国に対して異常な憎しみを抱くようになったのだ。
同時に、彼はレジスタンスになる前の記憶を全て無くしていたのだ。
『死ね!死ね!虫どもめッ!虫ィィィィィィッッ!!』
彼の中にあるのは憎しみの記憶だけであった。
マシンガンで機械帝国の虫型ロボットを破壊するノビール。そんな彼をみてのびたは、そ
れが未来の自分の姿である事にショックを受ける。
自分の中にもあのような凶暴な血が流れているのか、と。そんなのびたにドラえもんはそ
っと告げる。未来を決めるのは君のチカラなんだ、自分の中のチカラを信じる事ができれ
ば、運命なんて簡単に変わるんだよ、と。
そのころ冥凰島では、出来杉がバラえもんに刺し殺されていた。中央管制塔には機械獣た
ちが集結していた。あまりの猛攻に、のびた達は一時撤退する。
ノビールは、敵の手際のよさを怪しみ、ドラえもんを疑う。
彼から見ればドラえもんも憎き機械帝国の一部に過ぎないのだ。
皆の制止を振り切って、ノビールはドラえもんを破壊しようとする。
あえて抵抗しないドラえもん。だが、ドラえもんを刺し殺そうとしたノビールのジャック
ナイフの前に、のびたが立ちふさがる。ナイフはのびたの胸に突き刺さった。
「だめだよ…ドラえもんは僕たちの為に苦しんでるんだ…」
昔の自分の姿に真の勇気を見るノビール。このままではのびたが死に、同時にこの未来世
界そのものが消滅する。この世界では四次元ポケットが使えない上に、タイムマシンもマ
ザーの干渉を受け停止している。一刻も早くマザーを倒すしかない。
だが、ノビールは放心状態であった。
そのころ冥凰島では、小池さんがコーラえもんをラーメン責めにしていた。マザーのある
セントラルタワーへの道は、最強の敵達によって埋め尽くされていた。マザーの命令電波
を受けて動く、虫型ロボットの軍隊である。途中の戦闘で、ジャイアンは両足に重傷を負
う。ノビールの仲間達、『白の同盟』の戦士達も次々に死んで行く。スネオは恐怖し、泣
き叫ぶ。
「もう帰ろうよジャイアン!!本当に死んじゃうよ!!」
しかし、剛田武はそんなスネオを殴る。のびたが、ドラえもんが必死に戦っているのに、
俺達はなにもできないというのか、と。
スネオはまだ俯いているばかりだ。そしてジャイアンは高らかに歌う。皆を勇気づける為
に。
『ホゲ〜』
その時。奇跡だろうか、虫型ロボット達の動きが止まった。驚くのびた一行。ジャイアン
の歌声とマザーコンピュータの電磁波が共鳴し、虫型ロボットへの命令系統が一瞬麻痺し
たのだ。ある程度の時間ならこの大群を足止めできるかもしれない…。突然、ジャイアン
が皆をドアの向こうに突き飛ばす。ドアは堅く閉ざされた。
『みんな先に行けッ』
ジャイアンは皆を先に進ませる為みずから捨て石となるつもりであった。
『ジャイアン!!』
みなドアにすがる。ドアの向こうからは、いつものジャイアンの『ホゲ〜ホゲ〜〜ホゲ〜
〜〜!!』という必死の歌声が響く。それは、まるでワーグナーのシンフォニーの如く。
動きを止めている虫型ロボットも、まるでそれに聞き入っているかのようだ。喉から血を
だしながら、剛は歌いつづけた…。
『みんな行こう!!僕らがいつまでもここにいたら、ジャイアンが何の為にあそこで頑張
ってるのかわからないよ!!』
声を上げたのは、泣いていたスネオだった。皆、涙をこらえ、エレベーターに向かう。エ
レベーターは動き出した。背後で、歌声が止まった。ジャイアンは、一瞬ののち、細切れ
の肉片と化した。そのころ冥凰島では、バギーちゃん(二代目)がアシュラえもんに解体
されていた。ノビールは苦悩していた。自分は、のびたなのである。今、幼い頃の自分が
死にかけている。そして、親友であったというジャイアンは死んだ。過去が、すさまじい
勢いで回天している。この未来世界自体の存在も歪み始めている筈だ。だが、自分がここ
にいるという事は、幼いのびたは死なないという事だろうか。このタイム・パラドックス
の渦の終末はどこなのだろうか。自分の失われた記憶に何があるのだろうか。4人をのせ
たエレベーターは最上階につこうとしていた。その頃冥凰島では、決戦が佳境に入ってい
た。

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