●LIBRO(本)

ヨーロッパ・カルチャーガイド5
「イタリア 快楽主義者のこだわりライフ」
(トラベルジャーナル・1700円)
 イタリアの文化というのは,意外と曲げられた形でしか僕たち一般の日本人には届けられていないように思います。たとえば,女性誌などではイタリアと言えば「モードとグルメの国」みたいな紹介の仕方しかしていませんが,イタリアってそんな単純な国ではないし,どこもかしこも観光地でおいしいものが食べられるなんてそんなわけありません。おいしいワインもあればまずいワインだってたくさんあるし,きれいな観光地もあれば,汚い路地裏だってたくさん存在するのです。みんながみんなパスタを食べ,オペラやカンツォーネを歌い,人なつっこいわけではありません。そういうイタリアの本当の姿を知ってこそ,イタリアという国がますます身近に感じられるようになるはずなのに,残念ながらそうした情報は,観光ガイドブックではまず得ることができないのです。
 そうした商業主義のガイドが反乱する中,本当のイタリアの姿を実に的確に捉えている親切なガイドブックがこの本です。僕がこのホームページを始めたのも,もっと素顔のイタリアを知ってほしいと思ったからなのですが,この本に出会ったときは何となくうれしくなったものです。この本を読めば,とりあえずイタリアという国がどんなところなのか分かるはずです。古くさいイタリアのイメージばかりを追うのではなく,イタリアの「今」を知りたい人にとっては,おそらく日本で一番良くできた参考書ではないでしょうか。
 ちなみにこのシリーズはほかにもいろんな国のバージョンが出ているので,もし本屋で見かけたらちょっと覗いてみるといいでしょう。僕は当然ながら,イタリアとフランスはしっかり買ってしまいましたが,イタリアのことをもっと知りたい,もっと素顔のイタリアを感じてみたいという人なら,間違いなく「買い」の1冊です。
(Ottobre/4/1998)


塩野七生
「ローマ人の物語 I〜VII」
(新潮社・2200円〜3400円)
 もうすでにかなり有名なので言うこともありませんが,塩野七生さんが2006年まで1年1冊というペースで書き進めるというローマ帝国の大物語です。現代イタリアではない古代のローマ帝国の話ですが,ローマを知らずしてイタリアは語れない,ということでイタリア文化を深く知るためには必読の書です。
 塩野さんの文体はとても読みやすく,また単なる歴史書と違うところは,そこかしこに筆者の思い入れやフィクション的な要素が詰め込まれているところで,そこで読む方はそこに繰り広げられる人間ドラマに引き込まれていってしまうのです。また,原文の資料を事細かに調べるそのバイタリティには頭が下がります。資料に忠実に,でも物語としてのおもしろさは失わない。そうした七海ワールドが貫かれていて,歴史資料としてとてもためになると同時に,歴史をひもとく楽しさを教えてくれる良書です。
 現在7巻まで出ていまして,ちょうど悪帝と言われたネロの時代まで終わったところです。時代で言うとようやく西暦50年くらいでしょうか。ローマ帝国というのは15世紀まで続くわけですから,まだ1400年くらいあるんですね。残りがあと9巻ですから,まあすごいことです。とにかくおもしろいので,ローマに興味のある人もない人もぜひ買って読んでほしいと思います。
(Ottobre/4/1998)(Marzo/2/1999に追記)


Girolamo Panzetta
「極楽イタリア人になる方法1・2」
(ワニ文庫・524円)
 「NHKテレビ・イタリア語会話」でおなじみのジローラモが書いたエッセイ集。ジローラモはナポリ生まれのナポリ育ちということで,このエッセイを読むとナポレターナの生活感や価値観がよおく分かります。
 一般の日本人が思い描くイタリア人はきっとナポレターナでしょうから,いわゆる日本人の思い描くイタリア人の生活を知るにはいい本です。生活感を知るだけではなくて,エッセイの最後にはちょっとしたオチまで付いていますので,楽しく読むことができます。
 ちなみに,ミラノ辺りでは「ナポレターナ」と言うと「いい加減な奴ら」くらいな感じで捕らえられていることが多いのですが,ミラノびいきの僕にとってもやはり「ナポレターナって何て自分勝手な生き物なんだ」と思ったりもします。でも,一瞬の後には「そこがイタリアーノの憎めないところなんだよね」などと思わず苦笑してしまったりして,結局,最後までおもしろおかしく読むことができました。やっぱりイタリアってイタリアなんだよね。
(Ottobre/4/1998)


内田洋子/シルヴェリオ・ピズ
「ウーナ・ミラノ」
(講談社文庫・533円)
 こんな本があるなんて,驚き! まさにそういう感じの,ミラノを題材にした,本当のミラノの素顔をかいま見せてくれる良書がこの本です。全部で12章に分かれたそれぞれの読み物には,本当に生活しているミラネーゼの息づかいが伝わってくるような雰囲気たっぷり。イタリアやミラノでの生活習慣や,覚えておいたほうがいいトピックなどの解説もてんこ盛りです。とにかくミラノに行くなら読んでおいて損はない本です。
 イタリア,特にミラノは日本人には意外と誤解されているイメージがあります。でも,この本を読めば,ミラノってこういう街なんだ,ということが何となくわかるかもしれません。ローマでもナポリでもない,かといってパリやロンドンでもない。ミラノの独特な都会と田舎が混じり合ったような,クールでいて暖かい,そんな雰囲気が伝わればいいと思います。
(Marzo/10/2001)


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