●MUSICA(音楽)

J-WAVE「カンターレ・マンジャーレ」プロデュース
「cantare_mangiare+rosso」(カンターレ・マンジャーレ・ロッソ)
(2000 ワーナーミュージックジャパン:2,800円)

 FM放送局「J-WAVE」で,土曜日のお昼1:00から放送されている,イタリア情報満載の人気番組,「カンターレ・マンジャーレ」。そのスタッフがセレクトした,イタリアンポップスのオムニバスCD第二段は,ワインの色にたとえて「ビアンコ(白)」と「ロッソ(赤)」の2枚による同時発売となりました。このうち,より僕好みな選曲がなされているのが(つまりは「濃い」ということか?),こちらのロッソなのです。

 前作の「プリモ」に続き,このアルバムも,イタリアで今流行っている歌を多数収めた「お買い得な」アルバムに仕上がっています。有名な人で例を挙げれば,ウンベルト・トッツィ,イレーネ・グランディ,フランチェスコ・バッチーニ,イ・プーなど,蒼々たるメンバーが名を連ねました。このほかにも,名曲「Nel blu dipinto di blu (Volare)<ヴォラーレ>」で有名なドメニコ・モドゥーニョ,それから先日レビューしたフィリッパ・ジョルダーノなども収められ,取りあえずこれ1枚で,現在のイタリアの流行曲はすべて押さえられるという構成になっており,まさにイタリアンポップス入門編には,最適な1枚といえます。

 これと同時に発売された「ビアンコ」のほうは,実はあまり僕好みではありません。収録されている歌手をほとんど僕が知らないということもありますが(失礼!),名前の通り薄めの味付けというか,あまりにもさっぱりしていて,イタリアンポップスの良さがなかなか見えてこないのです,ところが,こちらの「ロッソ」は,本当に内容が濃いので,ビギナーでも通でも満足できます。どちらかを選ぼうと思っているなら,迷わずこちらをオススメします。
(2000/Luglio/11)


Filippa Giordano(フィリッパ・ジョルダーノ)
「FILIPPA GIORDANO」(フィリッパ・ジョルダーノ)
(1999 ワーナーミュージックジャパン:2,520円)

 資生堂の化粧品のCMで,BGMにビゼーのカルメンの曲が流れていたのを覚えているでしょうか。あのCMでかかっていたのが,このフィリッパ・ジョルダーノが歌う「L'amour est un oiseau revelle」なのです。彼女の歌は,現在イタリアのみならず,全ヨーロッパでかなりのヒットを呼んでいるようです。 彼女の持ち味は,透明感のある高音でクラシック(オペラ)のアリアを歌うところにあります。もちろんオペラアリアだけが彼女の歌ではありませんが,少なくともいまのところは,彼女の歌はそういう評価になっています。

 オペラのアリアというのは,いわゆる声楽を勉強してきた声楽家が,劇場に響かせるような大声で,超絶的な高音部を歌い上げることにその価値があります。しかし,彼女はもちろんいわゆる声楽家ではありませんし,クラシック畑の歌手でもありません。ポピュラー音楽を歌うような感覚で,オペラのアリアをストレートに歌いこなす。これが彼女の曲が大勢の若者たちを虜にしている原因です。もちろん「これはオペラじゃない」と反対する人もいるでしょう。彼女はアリアをマイクを使って歌い,CDにもかなりのエフェクトがかけられていますから,いわゆるクラシック通の人が聞いたら,怒る人も出てくるかもしれません。

 でも,彼女の歌のすごいところは,このオペラアリアを改変することなく,もちろん音程やオクターブも変えずに,高音は高音,低音は低音としてストレートに歌いこなしているところにあるのです。これは,相当な歌唱力がなければできることではありません。彼女の歌は,よくあるタイプのクラシックをアレンジした曲ではなく,まさにクラシックそのものにほかなりません。ただ,その歌唱法が,いわゆるところのベルカントなどではなく,現代的な歌い回しになっているというだけの話なのです。

 もちろん,ベルカントなどオペラ的な歌唱でないことによるメリットもあります。その最大のものは言葉の聞きとりやすさでしょう。オペラ歌手,特にソプラノの歌手の歌う歌は,高音域で声を大きく響かせることを第一にしているため,どうしても言葉の境目が分かりづらく,何を言っているのかよく分からないという場合が多くなってしまいます。日本における歌舞伎と同じく,こうした言葉のわかりづらさによる若者層の劇場離れはイタリアでも深刻なようです。そうしたところにこのフィリッパが登場しました。彼女の歌は言葉が聞き取りやすく,感情移入もごく自然で,若者の共感を多く集めているようです。クラシックやオペラも,自分たちの言葉に置き換えることで,もう一度新しい息吹を吹き込めるんだということを証明したようなものでしょう。

 彼女は,とくに昔から声楽を勉強していたとかそういう人ではなく,ポピュラーミュージックもクラシックも分け隔てなく好きで,そういう気持ちの延長から,現在のところオペラのアリアが一番好きで歌っているという,まさに現代的な歌い手です。こうした気持ちには,僕も大いに同感しますし,そしてその歌唱力が本物であるという点に,多くの若者が共感するのでしょう。いわゆる「オペラ」「クラシック」として聴いてしまうと確かに違和感はありますが,そういう壁を超えたところで聴いてみると,セリーヌ・ディオンもびっくりの,非常にストレートでいい歌声です。クラシック通,オペラ通の人も,あまり肩肘を張らずに聴いてみてはいかがでしょう。もちろん,オペラビギナーの人には絶対おすすめです。
(2000/Maggio/6)


MINA,NICOKA DI BARI,VASCO ROSSI,RICCARDO COCCIANTEほか
「sempre Sanremo」(センプレ・サンレモ)
(1999 Sony Music Italia)
 イタリアのグラミー賞ともいえる年に1度の音楽のお祭り,それがかの有名な「サンレモ音楽祭」です。ここからビッグになっていったアーティストも数多く,イタリアでは新人アーティストの登竜門としても広く知られています。当然ながらここで賞を取る曲はイタリア中で流行するわけで,何年にもわたって歌いつがれていくような名曲も多く排出されるわけです。そんなサンレモの名曲を集めたCD2枚組のオムニバスアルバムが,この「Sempre Sanremo(センプレ・サンレモ:いつもサンレモ)」です。
 このCDの中には,いわゆるイタリアではやった歌謡曲が36曲も収められています。有名なところだけでも,ジプシーキングスがカバーしてヒットした「Volare(ヴォラーレ)」の原曲でもあり,イタリア人ならだれでも知っているというDOMENICO MODUGNOの「Nel Blu Dipinto Di Blu(ネル・ブルー・ディピント・ディ・ブルー)」や,VASCO ROSSIの名曲「Vita Spericolata(ヴィータ・スペリコラータ:破天荒な人生)」,MICHELE ZARRILLOの名曲「Una Rosa Blu(ウナ・ローザ・ブルー)」,新しいところでは,NEKの「LAURA Non C'e'(ラウラ・ノン・チェ)」や,僕も大好きなNERI PER CASOの「Le Ragazze(レ・ラガッツェ)」などここ30年ほどのイタリアン・ポップスの名曲がぞろっとそろっています。ある程度イタリアンポップスを知っている人であれば,どこかで聴いたことのある曲ばかりという有名曲ばかりです。これを聴けば,イタリアンポップスをまったく知らないという人でも,ある程度イタリアンポップスがどういうものであるか理解できるはず。イタリアの歌謡曲に興味はあるけどどこから始めていいのかわからないという人や,イタリアンポップスの歴史をもっと知りたいという人にとっては,絶好の入門アルバムになるでしょう。
(2000/MARZO/21)


Dirotta su Cuba, Irene Grandi, Nek, Rafほか
「Cantare, mangiare #primo」(カンターレ・マンジャーレ プリモ)
(1999 east west Japan)
 土曜のお昼からJ-WAVEで放送中の人気FM番組「カンターレ・マンジャーレ」オリジナルのコンピレーションアルバム。若手を中心に現在活躍中のイタリア人アーティストの曲を,オムニバスで集めたお買い得アルバムです。これを聴けば,イタリアンポップスがそれほど悪くないな,と誰もが思うはず。爽やかなメロディーが,イタリアの風を,光を,海を感じさせてくれる,そんな良質アルバムです。イタリアンポップスが好きな人は即「買い」です。とにかく一度みんなに聴いてもらいたい(聴かせたい?)というポップで爽快な曲が溢れています。さすがはJ-WAVE !
 収録アーティストは若手中心で,最近のイタリアでの若手スター,NekやRaf,Dirotta su Cuba, Irene Grandiなどのちょっとクラブっぽいオシャレなサウンドが聴けます。そうかと思うと「La Gatta」で有名なジーノ・パオリが歌っていたりして,なかなかバラエティーに富んでいます。日本ではまず聴くことのないアーティストばかりなので(僕もほとんど知らなかったです),とても新鮮に感じるはず。ジャケットもなかなか凝っていて,それぞれの収録曲別に1ページを割いて,収録アルバムとアーティストの紹介が書かれているという親切さ。これで,あなたもイタリアンポップスのファンになること請け合いです。
(Maggio/2/1999)


NERI PER CASO
「LE RAGAZZE」(レ・ラガッツェ:女の子たち)
(1995 EASY RECORDS ITALIA)
 このアルバムも僕にとっては思い出のアルバムとなります。僕がイタリアに行っていた1995年にイタリアで大ヒットを飛ばしていたアカペラグループ「Neri per Caso(ネーリ・ペル・カーゾ)」のデビューアルバムです。イタリアでアカペラグループと言うのもなかなかイメージが沸かないかもしれませんが,そこは音楽の国イタリア,これくらいの若者でも割としっかりハモらせています。見た目はただの軟派っぽい若者の6人組ですが,なかなか聴かせてくれます。英語系のサウンドに飽きた耳にはむしろ心地よい響きを残してくれることでしょう。
 納められている曲は,おそらくすべてが誰かのコピーです。イタリアで流行った曲を彼らなりに若い感性でアレンジし,アカペラで歌っているといったところでしょうか。僕はイタリアンポップスの歴史にあまり詳しくはありませんが,このアルバムに納められている曲のうち半分くらいは,他の歌手が歌っているのを聴いたことがあります。このグループは,この後にも3枚ほどアルバムを出してますが,やっぱりコピーものを中心にアカペラで歌っているようです。
 アカペラでラップっぽいアレンジと言えば,日本でも流行っている某グループがありますが,イタリアでも若者には大受けのようです。日本でも割と聴きやすいほうなんじゃないでしょうか。中でも,アルバムタイトルになっている1曲目の「Le Ragazze」は,きれいなハーモニーでなかなかイケます。この曲を夜中にイタリアのRagazzi(ガキども)が大きな声で歌っていたのを今でも鮮明に思い出します。
(Marzo/16/1999)


ZUCCHERO
「SPRITO DI VINO」(スピリト・ディ・ヴィーノ:酒の精)
(1995 POLYGRAM ITALIA)
 イタリアのロック&ポップス界の大御所シンガー「ZUCCHERO(ズッケロ)」。日本で言えば吉田拓郎みたいな人だと思いますが,若者から中年くらいの人にかけて絶大な人気を誇っている彼が,久方ぶりにリリースしたアルバムが,この「SPRITO DI VINO」です。ちなみに「ZUCCHERO」とはイタリア語で「SUGAR(シュガー)」のことです。
 このアルバムは,ちょうど僕がイタリアに行っていたときにリリースされたという,僕にとっては一種思い入れのあるアルバムでもあります。僕がこのアルバムを知ったのは,イタリアにいたとき,いつものように「Corriere de la Sera」の木曜版を買ってきて(木曜版にはテレビガイドが付録で付いてくるので)読んでいると,文化面のところに「あのズッケロが久しぶりにアルバムをリリースする」という見出しが目に付いたのがきっかけです。イタリアの新聞は特に文化面がおもしろくて,このようなロックシンガーのアルバムでもけっこう大きく取り扱われるのです。まあ,これだけ新聞でも扱われるくらいなんだから,きっといいアルバムに違いない,ということで,そのとき通っていた語学学校の先生のイタリア人に聞いてみると「彼は素晴らしい」との答えが。そこで,レコードショップに足を向けて購入したのがこのアルバムなのです。
 まあ,そんな裏話もありますが,このアルバムは内容もなかなか良くて,中でもシングルカットされた「X COLPA DI CHI?(イクス・コルパ・ディ・キ?:誰のせいでダメになったんだ?)」は,ノリノリの生きのいいサウンドを聴かせてくれます。ZUCCHEROは,おもにアメリカで活躍している国際的なミュージシャンでもあるので,イタリア語だけでなく英語で歌っている曲も多く納められています。ズッケロ自体の声はとてもハスキーでいい声ですし,彼の好きなアメリカ南部のニューオルリンズサウンドが,イタリア語と妙にマッチして何とも言えない味を醸し出しています。
 ちなみに,僕の友人にこのアルバムを聴かせたら「うわー!イタリア人ってこんなの聴いてんの〜?」と言って笑われてしまいました。確かに,アメリカやイギリスのロックから比べたら,ちょっと古めかしくて,しかもイタリア語の持つ明るいコミカルさが加わって,ちょっと笑ってしまうかもしれませんが,そこがイタリアのおおらかなところと思って聴いてみると,なかなかいい感じだと思うんですけどね。
 とにかく,ズッケロを知らずしてイタリアンポップスは語れないってくらい有名な人ですから,一度聴いておくのもいいんじゃないでしょうか。ちょっと懐かしくて,ちょっと渋いイタリアンロックを味わえます。
(Marzo/2/1999)


JOVANOTTI
「LORENZO 1994」(ロレンツォ1994)
(1994 POLYGRAM ITALIA)
 今や全世界的なラップブームですが,イタリアもその例外ではありません。イタリアと言えばカンツォーネしか思い浮かばない人も多いかと思いますが,もちろんイタリアにもロックやポップもありますし,ラップだってちゃんと存在します。そんなイタリアンラップの王様と言えるのがこのJOVANOTTI(ジョヴァノッティ)です。「イタリア語でラップ!?」と思う人も多いでしょうが,彼のこのアルバムはなかなか完成度が高い曲がそろっていて,イタリア語がよく分からなくても結構聴ける内容になっていると思います。
 ラップと言えばその流ちょうな言葉のリズムが最も大事になってくる部分ですが,そういう意味ではイタリア語と言う言葉は,非常にリズムに当てはまりやすい言葉です。そもそも,イタリアではルネッサンスの頃から韻を踏む詩が盛んでしたし,その特性は現代のラップにおいても当てはまります。英語のラップもトゲトゲしくて攻撃的でなかなかクールなのですが,イタリア語のラップには何となく暖かみがあります。そして,そのイタリア語のリズムをうまく曲に乗せて歌うことに成功したのが彼JOVANOTTIなのです。
 彼はイタリア本国では,若者の間で絶大な人気を誇っています。詩の内容は意外とメッセージ色の強いものが多く,その辺りも若者のオピニオンリーダーとしての地位を高めている理由でしょう。イタリアでは日本などよりずっと深刻な失業率を抱えていますし,仕事がなくてフラフラしている若者をよく見かけます。そうした彼らがJOVANOTTIを支持しているのです。
 特にお勧めなのは,このアルバムに入っている「SERENATA RAP(セレナータ・ラップ:夕暮れのラップ)」です。この曲はサウンド的にもなかなかクールで,イタリアの甘ったるいポップとは一線を画しています。このアルバムを聴けばきっとイタリア語の響きに魅せられること間違いないでしょう。お勧めの1枚です。
(Ottobre/4/1998)


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