Francisco Canaro(フランシスコ・カナロ)
(1888〜1964)


左側がカナロ,右はガルデル
Madreselva
EMI/ODEON
収録曲:
Madreselva,Senda Florida,Confesion,Taconeando,Viejo Rincon,Yo no se que me han hecho tus ojos,Como agoniza la flor,Mi noche triste,Chorra,Siga el corso,Madame Ivonne,La mariposa,Tomo y obligo,Silencio,La garconniere,Beso ingrato,Rosa de otono,Oh Paris,Canaro,Yira yira,Bandoneon arrabalero,Madre hay una sola

 話が前後してしまうが,アルゼンチンタンゴの王様といえば,この人を置いてほかにはない。それまではフォルクローレの1つであったアルゼンチンタンゴを,20世紀初頭にヨーロッパに持ち込み,世界的に大流行させたのも,ほかでもない彼である。そう,フランシスコ・カナロだ。

 カナロは,いまから数えること約100年前に,ある意味でタンゴに革命を起こした人物である。それまでのタンゴが,牧歌的なダンスミュージックの域を出なかったのに対し,彼は「オルケスタ(オーケストラ)」という10人程度の楽団によって演奏させることで,タンゴの楽曲としての厚みを増すことに成功した。楽器やパートが増えたことで,バイオリンやバンドネオンといったフロント楽器による複雑なハーモニーが増やせるようになった。これをうまく使ったシンフォニックで華麗な響きこそが,カナロ楽団のタンゴの魅力だ。こうした華麗なタンゴがヨーロッパの人たちを魅了し,タンゴは一躍ポピュラーな音楽になったのだ。踊って良し,聴いて良し,のタンゴはこの頃から生まれる。これをよりシンフォニックかつ大編成にしたものは,後に「コンチネンタル・タンゴ」として分かれていくことになるが,あくまでもカナロの音楽は,歯切れの良い鋭さを失わなかった。彼のタンゴはアルゼンチンタンゴであり続けたのだ。

 カナロの音楽の特徴は,何と言ってもその歯切れの良さにある。まさに「タンゴ」というようなその軽やかなスタッカートは,聴くものを圧倒するわけではなく,ただ流れるように,あくまでも華麗に踊っている。そう,カナロの音楽を一言で言うなら,まさに「踊れるタンゴ」なのだ。軽やかなスタッカートをバックに,華麗に流れる優雅なメロディー。これが,今世紀初頭のヨーロッパを席巻した。タンゴのふるさと,ブエノス・アイレスは「南米のパリ」の名で親しまれている美しい街。まだ,ベルエポックの香りが漂うこの街の雰囲気をカナロはよく伝えている。そして,こうした彼のタンゴに,当時のヨーロッパ人は魅了されたのだろう。

 カナロ楽団のレパートリーは非常に多い。彼の楽団のノリのよさを感じられる名曲といえば,「センティミエント・ガウチョ(Sentimiento Gaucho)」,「カナロ・エン・パリ(Canaro en Paris:パリのカナロ)」,「ケハス・デ・バンドネオン(Quejas de Bandoneon:バンドネオンの嘆き)」などが真っ先に思い浮かぶ。また,名歌手・ガルデルと競演したものも多く,「マドレセルバ(Madreselva)」や「コンフェシオン(Confesion:告白)」,「マダム・イボンヌ(Madame Ivonne)」などの名演も数多い。そのほか,「コラソン・デ・オーロ(Corazon de Oro:黄金の心)」や「ジーラ・ジーラ(Yira Yira)」なども,忘れてはならないカナロの名演となっている。また,カナロは「ピリンチョ」の愛称で広くタンゴファンに親しまれ,その名を冠した五重奏団「キンテート・ピリンチョ」も有名だ。

戻る