TANGO TANGO

音楽としてのアルゼンチンタンゴ

〜2ビートが生み出す強烈なリズム〜


2ビートが生み出す強烈なリズム

 タンゴのもっとも基本的な部分。それは言うまでもなく,その強烈なリズムにあります。
 では,どうしてこんなにもダンサブルで強烈なビートが生み出されるのでしょうか? その答えは,ずばり「タンゴのビートの基本は2拍子である」と言うことに尽きるでしょう。
 2拍子とは,音楽的に言えば「1小節の中に2つの拍子(リズム)が存在するリズム形式」とでもいうことになるのでしょうが,もっと分かりやすく言うなら,今耳にするポピュラー音楽の元祖に当たるリズムだということです。

■2拍子の例(1小節の中に2つ基本のリズムがあります)


 また,現在のポピュラー音楽はそのほとんどが4拍子を基調にしています。1小節の中に「ドン,ドン,ドン。ドン」と4つのバスドラムの音が聞こえてくるダンスミュージックと言えば,誰しも思い当たる節があるでしょう(小室サウンドなんかはその典型です)。あれが,いわゆる「4ビート」つまり「4拍子」です。それをもうちょっと細かく刻むのが「8ビート(8拍子)」で,ロックなどはこれに当てはまるものが多いです。分かりやすく言えば「ズチャチャチャチャ・ズチャチャチャチャ」というリズムが8ビートの典型的パターンです。さらに複雑化したものに「16ビート(16拍子)」というのもありますが,この辺りになると本当の16拍子なのか疑わしいものも結構ありますので,割愛します。一時のテクノに見られたようなリズムです。

■4拍子の例(1小節の中に4つ基本のリズムがあります)



■8ビートの例(1小節の中に8つ音を刻んでいますが,基本のリズムは4拍子です)


 要するに,音楽のリズムというのは,1小節内にどれだけ基調とする音が入っているかということで「..拍子」と分けられてくるわけです。ワルツで有名な3拍子を除けば,普通は2の倍数で構成されることが多いのが特徴です。  で,話は2拍子に戻りますが,これは,前述の「4ビート」を倍にしたリズムということになります。そうなると,1小節に2拍しかないので,イメージとしては「ボーン,ボーン」という柱時計の振り子のようなゆったりしたビートを想像します。確かにこれこそが2拍子のリズムなのですが,タンゴの場合は若干ニュアンスが異なります。
 先ほども述べたように,拍子というのは1小節内にどれだけ基調となる音が入っているかで決まります。2拍子の場合は,当然ながら1小節内に2つの音が基調となっているのですが,この「基調」というのがくせ者で,一見すると4つの音が基調となっているようでも,2拍子であるということもあります。分かりやすい例で言えば,3拍子のワルツが,譜面を見るとその倍の6拍子であったりすることも多いのです。
 僕は楽典を勉強したわけではないので,素人考えに言いますが,要するに4拍子とか8拍子とか16拍子というリズムは,すべて2拍子が基調となっているリズムであり,6拍子とか12拍子(見たことないけど)は3拍子が基調となっているリズムなのです。そう言う意味で,2拍子の音楽と言うのは,今の世の中の大多数を占めるのは2拍子を基調とした音楽と言うことになります。



 ちょっとまた脱線しましたが,タンゴも同様で,実際に聞くとどうも4拍子であるのに,基調となるのは2拍子というリズムを取っています。ちなみにジャズは基本的に4拍子なので,この2つは似て非なるものということになります。ラテン系のサンバやサルサなどはおそらく2拍子の音楽でしょう。確かに聞いてみると,これらの音楽はどこかが何か違います。ジャズは「クール」という言葉が似合いますが,ラテンのタンゴやサルサやサンバは「ホット」という言葉のほうが似合いますよね。でも,これらの音楽は皆,1小節内にぱっと聴いた感じでは,4つの音を持っています。それでは,一見4拍子に見えるこれらの音楽を分け隔てているものはなんなのでしょうか?
 それこそ,まさに「基調」のリズムの違いなのです。
 ジャズは4ビートですから,基調となるのも4つの音です。つまり,1小節内に響くドラムやベースの4つのビートは同じ重みを持って演奏されるのが普通なのです。そこでは,4つの音が対等な関係を持っていると言ってもよいでしょう。
 ところが,ベースが2ビートの音楽となるとちょっとわけが違います。これらの音楽では,1小節内に4つの音が存在しても,それぞれが対等の関係ではありません。4つの音のうち,1拍目と3拍目に当たる部分が,2拍子の1拍目,2拍目に当たるわけですから,この音のほうが他の音よりも重要になってくるわけです。つまり,これらの音楽では「1(強),2(弱),3(強),4(弱)」というリズムの構造を持っているわけなのです。

■2拍子と4拍子の考え方の違い
 (一見同じように見える譜面でも,基調となるリズム上の音は自ずからアクセントの音となります)

(左がタンゴの2/4拍子,右がジャズなどの4/4拍子。赤い音符がアクセント音)

 この「強弱強弱」というリズム感は,そのものずばり西洋の詩のリズムとも一致します。かの有名なシェイクスピアの作品も,ほとんどすべてがこの「強弱強弱」のリズムを使って書かれているのです。ですから,西洋人にとっては誠に歴史の古い,馴染みのあるリズムとも言えるわけです。
 では,東洋人にとっては馴染みがないかと言うと,決してそんなことはありません。「西洋人は2ビートだけど日本人は五七五だ」などと言うのは短絡的過ぎです。
 そもそも,2ビートと言うのは,人間のもっとも根元的なリズムなのです。たとえば,人間の呼吸のリズム,これは典型的な2ビートです。「吸って吐いて吸って吐いて」というのが4つの音だとすれば,そのうちの「吸う」部分が強いビートに当たります。と言うよりは「吸って吐いて」を1セットとして捉えると,この動作が2つの部分に分割されていると言うことが分かるはずです(さしずめ走っているときは8ビートですかね。)。
 このほかにも,たとえば歩いているときに,足は「右・左・右・左」と進んでいきますが,これも2ビートの典型的な例です。右と左の足を交互に出すのを1セットと考えれば,この動作が2ビートを基調としているのは分かりますね。実際に,行進曲のマーチというリズムは2拍子で編成されています。
 ですから,このビートはもっとも原始的なビートでもあるわけです。そういった意味では国境や人種の別なく,誰でも勝手に血わき肉踊ってしまう要素を備えているのです。
 タンゴもその例に漏れません。1小節に4つの音を擁してはいますが,基調となるのはあくまで2ビート。そのリズム感が全世界の人に受け入れられているのです。

■2ビートを基調としたタンゴのベースパターン


■4ビートを基調としたジャズのベースパターン



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