『あしたいろのベンチ』

あ、先輩・・・どうしたんですか?
あれ? 今日は虹野先輩、一緒じゃないんですか?
え、私に用? ・・・どうしたんですか、珍しいですね
私と先輩はライバルなんですからね
・・・なんですか、笑ったりして ・・・私の顔に何か付いてますか?
あ、先輩・・・もう行っちゃうんですか? 先輩・・・・・・・・

窓から差し込む朝の陽射し
・・・また、 先輩の夢を見た・・・
何だか最近、妙に先輩を意識してしまう気がする
ううん、そんなハズがない。私と先輩は・・・ライバル
・・・文化祭まであと少し
早く歌詞を完成させなくちゃ・・・
机の上にひろげられっぱなしの白紙のノート
彩のギターの先輩が話してた「自分が一番強く想ってるコト」
・・・私が・・・一番強く・・・想ってる・・・コト・・・・・・

どうしてだろう 、 今日もなんだか元気が出ない
いつものように笑えない ・・・・学校へ向う足が重い
学校へ続くいつもの道、 いつものように繰り返される毎日
まっすぐ私を照らす朝の陽射し、 まぶしくて目をそらす
そらした目の片隅に映った、 陰になってる小さな脇道
通り過ぎるだけの毎日の中で、気にも留めたことがない
いつもはただの風景だった
・・・この先に、私の知らない世界がある
そんなふとした思いが私を誘う
毎日の憂鬱から抜け出したくて・・・

道を抜けたところにあったのは、住宅街の小さな公園
その片隅の木陰に見つけた、 落ち葉に飾られた小さなベンチ
そっとベンチに腰をおろす
はるか遠くで聞こえるチャイムの音
・・・いつもの私が知らない世界
一つ大きく深呼吸した、 何かから開放されたような心地
いつもの朝が色褪せていくよう・・・

ずっと虹野先輩の側にいた私
先輩が虹野先輩を想ってると気付いたとき
「ライバル」でいる事で、 二人の側に居続けられた
・・・いつからだろう、 居辛くなり始めたのは・・・
理由を付けて虹野先輩の誘いを断り出したのは
・・・きっと先輩の、虹野先輩に向ける笑顔を見るのが苦しくなった頃・・・
夢の中で見た先輩の笑顔
あの笑顔を私に向けてくれたなら・・・

ずっと二人の側にいる事ができた
でも、心はいつのまにか一人ぼっち・・・
もちろん二人のことは好き
・・・むしろ嫌いになれたら楽なんだろうな
虹野先輩の背中を押したのは私
二人を笑顔で見守ってきた私
その笑顔が心から出来なくなった時・・・私の心は二人に背を向けた

公園を走りまわる子供たち
慌ただしい毎日からかけ離れた世界
ここだけ時間がとまってるよう
秋の木洩れ陽が私を優しく照らす
過ぎていく 心安らかな時間
散歩してる犬と目が合い
微笑んで、 小さく手を振った

虹野先輩には何一つかなわない
虹野先輩は私の憧れの人
ほんの三ヵ月生まれたのが違うだけなのに・・・
虹野先輩は、 やっぱり虹野先輩
そして・・・ほんの一ヶ月生まれたのが遅いだけで
私は先輩にとって・・・『後輩』
ひとが作った時間の区切り
そんな『運命』が私から先輩を遠ざけた

グラウンドで頑張る先輩の姿
そんな先輩にいつも心の中でエールを送っていた
頑張るその姿が、いつも私を励ましてくれた
そんな先輩のすぐ側にいられる人は・・・私の憧れの人
今まで気付かなかった私の想い
ううん、気付いてた・・・でもごまかしてた想い
そして・・・もう行方の決まってる私の想い

人のために一生懸命応援できる人
それに応えるために一生懸命頑張れる人
二人とも、私の大切な人だから
人のために頑張ること、教えてくれた二人だから
私も・・・二人のためにあたたかく見守ろう
それが私が二人に出来る、二人への気持ちで
きっと、それが私のいいところ・・・

突き抜けるような高い空
ゆっくりと風に運ばれていく雲
もう秋なんだ・・・風が冷たくなってきた
無邪気に笑う子供たち
流れていく静かな時間
落ち葉の散る公園のベンチ
そっと目を閉じた, 明日が見えそう・・・

一つ大きな伸びと深呼吸をする
・・・そろそろ学校へ戻らなきゃ
と、足元に転がってきた白いボール
駆け寄ってくる 小さな女の子
両手で拾い上げ、その子の腕の中にそっと返した
嬉しそうに向けてくれた 笑顔と「ありがとう」
その笑顔が 私に元気をくれた

私が一番強く想ってるコト・・・やっと見つけた
久しぶり笑った・・・ 元気になれそう



♪あとがき♪
 この作品は、秋穂みのり役の丹下桜さんの名曲『あしたいろのベンチ』をベー
スに、『彩のラブソング』でみのりが自分の気持ちを歌詞に託した、その場面
を描きました。


◇この作品への感想は、笹神びすくさん(ee96ei30@mbox.std.mii.kurume-u.ac.jp)までお送り下さい。


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