『I BELIEVE...』


「とうとう、あさってか...」
「美樹原さんには何も言わなかったけど、本当によかったのだろうか...」
石田は悩んでいた。
1ヶ月前、父の仕事の都合で引っ越すことになったことをまだ誰にも言っていなかったのだ。
親友の好雄を除いては...
そして、その引越しの日があさってにせまっていたのだ。
TRRR、TRRRR、ガチャ、
「はい、石田です。なんだ、好雄か」
「なんだじゃねえだろう、せっかく電話してやったのによ」
「悪い悪い、で、なんの用だ?」
「おう...いよいよあさってだな」
「ああ...」
「で、美樹原さんには言ったのか?」
「まさか...詩織にさえいってないのに...」
「そうか、じゃ、チャンスは明日の体育祭しかないな。よかったら、俺から...」
「いや、俺から言うよ」
「おい、耳かっぽじってよく聞けよ。チャンスは明日だけなんだからな。いいか...」
「ああ、わかってるさ。」
「そうか、悔いを残さねえようにな。それじゃ」
「ああ、じゃあな。」ガチャ。
そうは言ったものの、石田はまだ悩んでいるようだ。
「明日か...とりあえず寝るか」
石田は窓越しに見える詩織の部屋を見た。明かりは消えている。
「この景色も見納めか...」
石田将隆、高3の初夏の夜だった。

夜が明けた。今日は体育祭だ。
石田は学校へとむかっていた。
天気は快晴だというのに、石田の心は晴れなかった。
「チャンスは...今日だけか...」
体育祭のプログラムは次々と進んで行き、石田の出る種目がまわってきた。
借り物競争だ。
「用意!」バーン!ピストルの音がなった。
考え事をしていたのか、石田は出遅れた。
やっとのことで封筒を手にしたが、最後方だ。
石田は封筒の中身をみると、立ち止まった。
「...!こ、これは...」
石田は目を閉じ、ふぅーっ、と息をつくと、一気に走り出した。
その先には、美樹原がいた。
「美樹原さん!」
「は、はい」
「おれと一緒に来てくれないか!」
石田はそう言うと、美樹原の手を取り走り出した。ゴールとは反対の方向に...
「あ、あの...」
二人は伝説の樹の方向へと消えていった...

「ハア、ハア、ハア...」
伝説の樹の下にたどり着くと、二人は立ち止まった。
「美樹原さん、これを...見てくれ。」
石田は息も絶え絶えに借り物競争の封筒を美樹原に差し出した。
封筒の中には、「あなたの好きな人」と書かれてあった。
「あ、あの...これは...」
「そう、その通りさ...俺は君のことが...」
「えっ、そんな、いきなり...で、でも...私も...」
「今日じゃないと...今日じゃないと、もうチャンスがないんだ」
「えっ?」
「明日の朝、俺は引っ越すんだ。だから今日しか...」
「ええっ!そんな...私、私...」
美樹原はそう言うとうつむいて黙り込んだ。
「美樹原さん!俺は卒業式の日に必ずここに戻ってくる!君のために」
「だから、だから、この樹の下で待っていてほしい...」
美樹原はうな垂れたままだ。
「もちろん、いやなら...それでもいい...」
石田はそう言うと、振り向かずに走り出した。伝説の樹が遠ざかっていった...

そして、引越しの朝がやってきた。
荷物を積んだ車の前には、好雄と、その妹の優美、詩織、そして石田がいた。
「おい、石田、いよいよお別れだな...」
「ああ...」
「先輩、優美、悲しいです。どうしてもっと早く言ってくれないんですか?」
「......」
「そうよ、幼なじみの私にも黙ってるなんて...」
「詩織...」
「昨日、メグが電話してくれなかったら...」
そこまで言うと、詩織は泣き出しそうになった。
「あれ、そういえば、美樹原さんは?」好雄が言った。
「わからないわ。相当ショックだったみたい...」
出発の時間がやってきた。石田は名残惜しそうに車に乗り込もうとした。その時。
一人の少女がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「美樹原さん!」
石田は美樹原に向かって走り出した。そして二人は立ち止まった。
「石田さん...」
「私...信じてます...」
美樹原は目に涙をためてそう言った。
「必ず、必ず戻ってくるよ...」
石田はそう言うと美樹原の頬に伝う涙を手でぬぐった。

石田を乗せた車が遠ざかっていく。
詩織が美樹原の肩をたたいて言った。
「大丈夫、石田君はきっともどってくるよ。幼なじみの私が保証するわ。彼はそういう人だから...」
「詩織ちゃん」
二人は抱き合って泣いた。
「えーん、優美も泣いちゃう!」
「おい、優美まで...しょうがねえなあ」
そう言いながら好雄も、どことなく寂しそうだった。
伝説の樹は静かに時を待っていた...

<終わり>

【Postscript】
TLSのせつない世界観を、そのままときメモに入れてみました。
ていうか、まんまTLSっぽいですね(笑)
でも、意外とときメモの世界にしっくりはまりますね。
あとは、文章構成力さえあれば、もっといい話になったのでしょうが...

◇この作品への感想は、福島のめぐらーさん(megumegu@peach.ne.jp)までお送り下さい。

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