『Longing 〜I had never forget you...〜』


「晶。手紙が来ていたわよ。机の上に置いておいたからね」
「ああ、ありがとう」
ふう、全く疲れる、お袋ときたら、人のプライバシーなんか関係ないらしく人の手紙という手紙を読んでしまう。まあさすがに封筒を開けるまでしないが。
えっと、なになに?同窓会だって?日時はっと、2月の終わりか。行けそうだな。
ありがたいことだ、卒業式を一緒に挙げられなかった俺にも同窓会のお誘いがくるのだからな。
しかし、そういえば6年以上経っているんだ。高校を卒業してから・・・。

     ☆

高校のとき俺は幼なじみでお隣さん。さらに、きらめき高校のマドンナでもあった詩織にふさわしい男になると躍起になっていた。
順調に高校生活を進め、詩織との距離もかなり近くなっていた。誰の目から見ても俺達は無事にゴールに行き着くはずだった。
あの不意の事故さえなければ・・・。
親父が急に交通事故で他界してしまったのだ。
お袋は思い出の詰まった家に居るのがつらくなって、実家に帰る事になった。
さすがに俺はお袋を一人にするほど、親不孝ではなかったしそういうわけにもいかなかった。
お袋は、一人暮らしをしてもかまわない、といってはくれたが。
俺はきらめき高校を卒業するのを目前に転校しなくてはならなかった。
詩織と分かれるのは非常につらかったのだが・・・。

     ☆

「おう晶こっちだ」
「好雄か。久しぶりだな。とはいっても2カ月ぶりか?」
「そんなもんか?ま、そんなに嫌がるなよ」
好雄の席の前に座りながらそんな会話をする。
「あっ、そうそう晶、彼女もくるらしいぞ」
「誰がだい?」
「おまえ何いってんだよ。藤崎だよ。藤崎詩織。晶、おまえ確か仲よかったよな?」
「ああ、まあ、な・・・」
俺達が話していると後ろの方でざわざわしはじめた。
「おっ、噂をすればなんとやらだな」
「ああ」
詩織はみんなに色々聞かれていたが俺達を見つけたらしくこっちに歩いてきた。
「和泉君じゃない、久しぶりね」
「ああ。6年になるのかな?俺達が卒業してから」
「でも、和泉君は殆ど変わらないのね。あの頃と」
「そうか?結構変わったと思うんだけどなぁ」
「ううん全然・・・。そんな無愛想なところなんか全然変わってないと思うんだけど」
「ははははは」
好雄が突然大きな声で笑い出した。 「おい好雄、そんなに笑うことないんじゃないか?」
「悪い、悪い。でも、実際当たってるところがあるからな」
「早乙女君も全然わってないのね」
「俺は、昔からこうだよ」
「本当にそうか?」
「あったりまえだろ」
俺達はこんなことを話しながら盛り上がっていた。少ししてから、誰かが、そろそろお開きにしようか?などと言い始めた。
「おい、晶。おまえ2次会いくのか?」
「いや、今日は帰るよ。明日仕事もあるしね」
「そうか・・・。じゃ、またな」
「ああ」
俺は、店の入り口付近にたむろっている連中の話し声を聞きながら一人で、駅に向かって歩き始めた。
歩き始めて少したった頃、後ろから、突然、
「晶君、まって」
と呼ぶ声が聞こえた。
俺は、立ち止まり、後ろを振り返る。詩織が息を切らせながら走ってきている。
「あ、詩織、どうした?」
「私も帰ろうかと思って。せっかく久しぶりに会えたのに一人でさっさと帰っちゃうんだもん。色々と話したいこともあって・・・」
俺たちは、色々なことを話しながら駅までの道のりを歩いていった。
「ねえ、晶君、今度、会えない?」
「ああ、いつでもいいよ・・・」
「よかった。それじゃぁ今度の日曜日の10時に噴水の前でってことでいい?」
「日曜日・・・。ん、わかった」
俺たちはそれぞれ反対方向に向かって歩いていった。
反対側のホームで、彼女が俺に手を振っているのが見える。俺はそれに答えた。
少しすると電車がホームに滑り込んできた。俺はそれに静かに乗り込む。
窓の外を流れる街灯や、家の明かりを眺めながらぼんやりと昔のことを思い返してみる・・・。

     ☆

「ねえ、晶君また先生に怒られていたでしょう?今日はなにをしたの?」
微笑みながら、彼女は俺に聞く。
「何だっていいだろ。うるさいな・・・」
「どうせ、また、つまらない悪戯をしたんでしょ。そういうの好きだからね。晶君は」
確かに、当たっている。
「ねえ晶君・・・」
「なんだよ」
「ううん。何でもない」
「はっきりしない奴だな」
「今日もいい天気・・・」
俺たちは特につきあっていると言う訳ではないが、クラスの奴からはクラス公認のカップルと言うことになっている。
確かに、詩織は、男子に人気がある。頭脳明晰、運動もできて更に可愛く性格がいいと非の打ち所がないと来れば言い寄る男も多い。
それだけにまわりにとやかく言われるのも、悪い気がしないのも事実ではあったが・・・。
詩織はどう思ってるのだろう?なんて若気の至りで、昔一度聞いてみたが何となくごまかされてしまった。いいお隣さんよ、ってね。

     ☆

9時50分。少し早いかな?まあいい。待たせるよりは待った方がいい、と言うのが俺の持論でもある。
「晶君。お待たせ」
「よお」
「相変わらず、時間には正確なのね。おかげで遅れられないじゃない」
彼女は笑いながらいう。
「しかたないだろ。こういう性格なんだから」
俺達は、昔のこと、現在のことなどを話しながら時間を過ごした。
「あっ、そうだ。ねえ晶君、行きたいところがあるんだけど、つきあってくれない?」
「ああ、おれはかまわないが」
彼女が俺をつれていったのは、ある写真家の展覧会だった。

展覧会は独特の雰囲気を醸し出していた。一言では言えないがなんか、暗いようで、明るく、そして、重いようで、そうでないような・・・。
「いらっしゃいませ、どうぞ、ごゆっくりしていってください」
結構美人な受け付けのお姉さんだ。
「もう、晶くんったら。美人に弱いんだから」
「い、いや、そんなことはないと思うんだけどなぁ」
詩織に厳しいつっこみをされてちょっと焦った。
ふたりで、展示されている写真をみてまわる。
どうやらこの写真家は、風景写真が専門らしく、風景画が多い。かといって、全部が風景写真と言うわけでもないが。
「ねえ、晶君、この写真なんだけど・・・」
「ふーん、きれいな写真だね」
「んもう、そうじゃなくって、ほら、この写真って、私たちが良く通った並木道に似てない?」
「そういえば・・・」
言われてみればそうも見えないこともない。有り触れた、並木道に、青い風船を持った、4、5歳の男の子と女の子が写っている。
よくみると、風船だけが青く色が付いており、他は白黒になっていて、ものすごく不思議だ。
写真としてはかなり高度な技術を使っているのだろうが、その道に詳しくない俺はただの珍しい写真にしか見えない。
「この写真気に入ってくれたんですか?」
いきなり、後ろから声をかけられた。
「ええ、なんか、この風景に見覚えがあるような気がして、二人で懐かしいね、なんてはなしてたんです」
詩織がさっと答える。この辺は、さすがに、社交的なところが表に出てくる。俺なんか、わりと、無視してしまうことが多いんだが。
「いやね、この写真は、私が、撮った中でも、一番気に入ってるんですよ」
話を聞いているとどうやら、このおじさんは、この展覧会の写真を撮った写真家らしい。
「ここなんか、苦労したんですよ・・・」
くどくどと、写真の技法について説明し始めてしまった。10分ぐらいったただろうか、さっきの受け付けのお姉さんが呼びにきた。
「先生、ここにいらしたんですか、さっきからお客様がお待ちですよ」
「おお、すまない、すぐ行くよ。そうそう、お嬢さん。これは、私からのプレゼントです。この写真を気に入ってくれたお礼ですよ」
とかいって、赤い風船を詩織に渡してた。
「うふふ、もらっちゃった」
「そんなのもらってうれしいの?」
ちょっと皮肉っぽく聞いてみる。
「あ、晶君ひがんでるでしょ。私だけもらったから」
「まったく・・・・」
展覧会をでたあと、軽い食事をして、俺達は別れた。

     ☆

次の日曜日。俺はやらなければならないことがあったが、どうも身が入らない。
仕方がなく、窓から沈んでいく夕日を眺めていた。
段々に空がオレンジ色から朱色に染まって行く。何も考えずにただただ外を眺めていた。雲が色を変えながら流れていく。
そんな平和な時間がお袋のでかい声で壊れた。
「晶ぁ〜、詩織ちゃんが来てるわよ。早く降りていらっしゃい」
面倒くさかったが、のそのそと下に降りているいくと玄関に詩織がいた。
「晶君、ちょっといい?」
「どうしたんだ、こんな時間に」
「うん、ちょっと・・・」
「あがるかい」
「ううん、少し話したいだけだから」
「わかった・・・。お袋、ちょっと外に出てくる」

俺達はぼつぼつと歩きながら近くの児童公園に向かった。
さすがに遅い時間のせいか、子供達はいなかった。誰もいない砂場には持ち主が忘れていったのだろうシャベルが転がっている。
静かな児童公園というものは不思議な雰囲気がある。
昔はよくここにきて、鬼ごっこやら、缶蹴りなんかやって遊んだ。
「で、どうしたんだ。こんな時間に」
近くにあるブランコに座りながら聞く。
「うん、ちょっとね・・・」
「ちょっとね、じゃわからねぇよ。はっきりしろよ」
「うん・・・。私ね、帰らなくちゃならないの・・・。自分の所にね・・・」
「・・・」
その時俺は、詩織が何を意味して言っているのか分からなかった。
詩織は言い出すのを戸惑っているようにもみえた。しかし、俺には詩織が何を言おうとしているのか全く見当もつかなかった。
少し間をおいて、意を決したように詩織が消え入りそうな声で囁くようにいった。
「・・・私ね、晶君にお別れを言いに来ただけなの」
「お別れって、別に遠くに行くわけでもあるまいし」
「晶君・・・、これを預かっておいてくれない?」
「あ、ああ、いいよ」
詩織が俺に手渡したのは小さな指輪だった。
「ありがとう・・・あなたにこの指輪の意味が分かるなら・・・」
小さな消え入りそうな声で一言言うと、詩織はブランコから飛び降りて走っていった。
「いま、なんて・・・?・・・お、おい、ちょっと待てよ」
俺はすぐに追いかけたのだが、何処をどういったのか分からないが彼女を見失ってしまった。
まるで、魔法か何かが働いたかのように・・・。

     ☆

ぽつんと取り残された俺の手の中には彼女が俺に手渡した小さな指輪が赤く、そして、淡く光を放っていた・・・。
俺は、詩織から渡された指輪を眺めてみる。何の変哲もないただの指輪・・・。
ただの・・・?
俺は詩織が言いたかった意味をはっきりと理解した。
そして今日は・・・!?
俺は目的の場所へ無我夢中で走っていく。詩織が俺に渡した指輪の意味に気付かないなんて・・・。
約3年間通い慣れたはずの道のりがやけに遠く感じられる。一分でも、一秒でも速く、といった焦りが強く感じられる。
そして6年という月日がいかに詩織にとって長かったかと言うこと、
そして、俺自身の気持ちも昔と変わっていないという事実を思い出した。
「し、詩織!」
知らず知らずのうちに俺は詩織の名前を叫んでいた。
もし彼女がいなかったら?
そんなことは全く考えなかった、いてくれる、ただそれだけを思って俺はあの場所へ走った。

     『伝説の樹』

きらめき高校に伝わる伝説の樹へ・・・。

     ☆

俺は息も絶え絶えになりながら伝説の樹の元にたどり着く。
詩織は?俺は詩織の姿を目で探した。
「晶君・・・?」
小さな声で俺を呼ぶ声が聞こえる。
「詩織・・・?」
まだ、呼吸が乱れてはっきりと発音出来ない、が彼女にはしっかりと伝わっていたようだ。
「詩織!」
はっきりとそして大きな声で俺は詩織の名を叫ぶ。
「晶・・・君・・・どうしてここが・・・?」
「さっき、詩織が俺に預けただろう?これを・・・」
俺は手にしっかりと握っていた指輪を手を広げて詩織に見せた。
彼女は無言でうなずく。
俺の目を真っ直ぐに見つめる彼女の目は涙で潤んでいた。
「・・・私ね、どうしても言いたかったの・・・。ここで・・・」
「・・・」
「晶君・・・。あなたが好きだって言うことを・・・」
「・・・」
俺は無言でそしてしっかりと彼女を抱きしめた。
「もう・・・、離さない・・・」
彼女は目を瞑る。
そして、俺達は唇を重ねた・・・。俺達の6年間の想いと共に・・・。

END...

あとがき

この話を最後まで読んでくれてありがとうございます。
指輪のイベントを見たときに、思いついたストーリーです。
指輪、そして、伝説の樹の下での告白、という二つのモチーフをどうしても一緒に使いたかった、というのが元になってます。
ま、和泉自身が素直じゃないんでこういったひねった形での告白ってことになってます(^^;
ま、詩織を使ったストーリーって話がすごく作り易いんですよね。
和泉自身の中に、幼なじみという境遇があるからかもしれませんが。
ラストシーンに気を使って書いています。ここだけで何度、没、にしたことわからない位です(笑)気に入っていただければ幸いですが。

◇この作品への感想は、和泉晶さん(sir_don@st.rim.or.jp)までお送り下さい。

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