――夜。
宿題する手をふと休め、窓の向こうを眺めてみる。
窓越しに見えるお向かいの家。
二階の部屋には……今夜も、明かりは点いていない。
闇の中の暗い窓。
……あなたの居ない部屋の窓。
ほお杖ついて、思わずため息……
お向かいは、一家揃っての家族旅行。
今日で、もう三日目。
あなたが出かけたときは、笑って見送れた。
一週間くらい会わなくったって、平気だと思っていたのに……
今、あなたの居ない部屋を眺めてるだけで、
寂しい気持ちで、胸がいっぱい。
こんな気持ちになるなんて、思ってもみなかった。
椅子の上で大きく伸びをして、
机上の写真立てに目を移す。
写真の中のあなたは、
私に優しく微笑みかけてくれてるけど……
声をかけるまでは、してくれない。
……口を尖らせて、写真のあなたをつついてみる。
「……連絡ぐらい、くれたっていいじゃない……?」
……あなたはただ、微笑んでるだけ。
また、ため息つく私……
……幼なじみのあなた。
小さい頃から、仲良く遊んでた二人。
それだけの関係だと思ってた。
ずっと、それだけだと、思いこんでた……
なのに、私は……
いつから、あなたのことが、こんなに気にかかるようになったの?
いつから、あなたの微笑みに、胸がときめくようになったの?
それは……つい最近のこと?
(……ううん。)
思わず、首を振る私。
……本当は、ずっと前からだったのかも知れない。
小さかった頃。
一緒に仲良く遊んでた頃。
その頃から、私の心の中にはあなたがいて……
でも、大きくなるにつれ……
お互い、大人に近づくにつれ……
いつの間にか私は、そのことを忘れてしまって。
ずっと、そのことに気付きもしないで……
……だけど、今になって、
やっと自分の、本当の気持ちが見えてきたの。
なんて、鈍い私なのかしら。
苦笑いをして。でも、どこかしら嬉しくて……
……だから。
今の私は……
あなたがそばに居ないだけで、こんなにも寂しい。
あなたの声が聴けないだけで、こんなにも切ない。
一人が、こんなに、辛いものだったなんて……
……あなたへの想いがつかえて、胸が苦しい。
机を離れて、ベッドに腰をかけて。
お気に入りのぬいぐるみを、ギュッと胸に抱き締める。
(……早く、帰ってきて欲しいな……)
でもそれは、無理なお願い。わかっている。
(……電話してくれるだけでもいいのに……)
なんて我がままな私。でも、それもあなたのせいなのよ。
ベッドに寝転び、部屋の天井をぼんやり眺める。
宙に浮かんで見える、あなたの笑顔。
「……一日でもいいから、早く帰ってきて……」
今は遠いあなたに、そう呼びかけてみるの。
「……それがだめなら、今すぐ、電話をちょうだい……」
聞こえて欲しい……届いて欲しい……
ただ、あなたの微笑む顔が、見たいだけ……
ただ、私に優しく呼びかけてくれる声が聴きたいだけ……
寂しくて。切なくて。
あなたの笑顔が、じんわりとにじんで見えなくなってきて……
RRRRR……
……電話のベルが、鳴り響く。
(……!)
思わず、起き上がる私。
(もしかして……ううん、きっと……!)
はやる気持ちを押さえて、受話器に手を伸ばした。
「……はい、藤崎です……」
……そしたら。
『もしもし、詩織? 俺だけど……』
「……あっ……!」
(……やっぱり……!)
それは間違いなく、待ち望んでいたあなたの声。
その声を聴いただけで、
寂しい気持ちも、切ない気持ちも、どこかに飛んでいっちゃって……
顔がほころび、胸がときめくのが、自分でもわかったの。
『ゴメン、連絡が遅くなっちゃって……』
いつものように、優しいあなたの声。
その声に、私の心も、優しい気持ちでいっぱいになる。
「ううん、大丈夫。」
さっきまでの、沈んでた私が嘘のよう。
……あなたの声が、元気をくれたからね、きっと。
「……あのね……」
……言いたいことは、たくさんあったけれど。
一つ一つ、ていねいに、気持ちを伝えていかなきゃ。
『……うん……』
……ゆっくりと私に応えてくれる、
あなたの優しい声を、ずっと聴いていたいから……
【Postscript】
1000アクセス記念、というわけでもないのですが(^^;ゞ、時期的にそうなりました。
これは、タイトルをご覧になればお判りの通り、私の好きな、金月真美さんの同名の曲からインスパイアされて考えてみたものです。
ヒロインは誰でも良さそうなものなのですが(笑)、金月さんの曲ってことで、詩織ちゃんにしてみました。
今までの作品とは、ちょっと芸風(笑)を変えてみましたが……いかがなもんでしょうか?
……でも、自分で言うのもなんですが、なんか設定に無理がありますねぇ(^_^;(爆)
たった三日会えないだけでこの状態……やたらと甘えん坊な詩織ちゃんになってしまいましたとさ(爆笑)